花鳥風月 月・Part 3

『岸柳島』『宮戸川』『浜野矩隨』

平成23年2月25日に開催された、J亭談笑落語会・最終回「花鳥風月 月・Part3」のお題3本を、広瀬和生さんの解説でお届けします。


~立川談笑独演会~

『岸柳島』

満員の渡し舟の中、横柄な態度の若侍がキセルを取り出してタバコを吸い始める。すると火玉を払おうと船べりでキセルを叩いた弾みに、雁首が取れて川の中へ。悔しそうな侍のところへ屑屋がしゃしゃり出て、「その吸い口を買わせてください」と申し出る。カチンと来た侍、「無礼な! 手討ちにしてくれる!」と怒りだした。

その様子を見ていた侍が二人。若い方が「ご老体、あの屑屋、手討ちに遭いますぞ」と、助けるよう求める。「しかし、ワシのようなものが出て行っても、到底たちうちできませんぞ」 すると若いほうの侍は「おい! 見逃すわけにはまいらん!」と怒鳴り、「武士として許せん! と師匠が申しておる」と老武士に責任を押し付ける。「なに!?」と凄むキセルの若侍はいかにも強そう。ボケたふりをする老武士、それを後ろから操って「勝負だ!」と挑発する。

「そうかご老体、あの中州で勝負したいと言うか。断っておくが、俺は今まで3人殺しているぞ」「ええっ!?」と怯える老体に、後ろの侍が「助太刀しましょう」と言うが、助太刀も何も、全部この若い侍が老人の後ろで言ったこと。「あなたが言い出したんでしょ!」「ご安心を。骨は拾います」

先に中州に飛び降りたキセルの侍。と、船頭がサオをグッと突っ張って、中州から舟はどんどん離れていく。「大丈夫ですよ、お侍さん!」 船頭の機転で助かった…と思うと、取り残されたキセルの侍、フンドシ一丁の裸になって小刀をくわえ、川に飛び込んだ。「あれは水練の達人だ! 来るぞ!」「皆殺しだ!」「舟の上に現われた侍は斬って斬って斬りまくり、舟が真っ赤な血に染まったという…しかしそのとき小次郎少しも慌てず…」「おい講釈師、その講釈だか浪曲だかわからないようなのやめてください」

すると水面にザバッと飛び出した侍が舟に近づく。舟から老武士「何をしに来た!」と問いかけると、水中から出てきた侍、「雁首みつけたの!」と答える。「おお! して、吸い口は?」「あっ! 水の中に忘れてきた」



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『宮戸川』

大店の若旦那、半七は17、8歳のいい男。将棋をさしていて夜遅くなり、締め出しを食らってしまった。「開けてください、おとっつぁん!」 すると、向かいの家でも16、7歳の若い娘が締め出されていた。「ババァ、開けろよ! 日の出暴走で遅くなるの当たりめぇだろ! 開けないってぇと近所のガキ刺しちゃうぞ!」

「お花ちゃんじゃありませんか」「あ…ピンクのクジラがしゃべった」「またヘンなクスリやってますね。半七ですよ! 私、締め出し食っちゃって」「私、アンパン食っちゃったの」「一晩中ラリっててください。それじゃ」「どこ行くの?」「霊巌島の叔父さんの所に行って泊めてもらいます」「ピョンちゃんも行きたい!」「誰ですか! ダメですよ、お花ちゃんなんか連れてったら、くっつけられちゃいますよ。あの叔父さん、飲み込み屋で、全部くっつけちゃうんですから。あの人が『飲み込んだ!』って言ったら自民党と共産党だって連立しちゃいます」 逃げ出す半七。

「変わっちゃったな、お花ちゃん。こないだまで、ごく普通の可愛い子だったのに」「今でも可愛いもん!」「うわっ! 何でついてくるんですか! 背中に箱乗りしないで!」 振り切っても振り切ってもヘビ女のようについてくるお花。「うわ、長屋の屋根の上でワオー^ン!って、なんだありゃ」「ガルルル」「シッシッ! あ、着いちゃったよ。叔父さん、開けてください! 小網町の半七でーす!」

「いてて、腰が痛てぇ。いま開けるから! おい、バーサン、起きなさいよ、小網町の半七が来たよ!」「あらあら! じゃあお位牌を…」「何やってんだよ?」「小網町から半鐘が鳴ったって」「面白くないんだよ、古典ババア! 開けてやれ」「はいはい。よく来たねぇ半坊。何モジモジしてるんだい、さぁ、後ろのお連れさんも…あっ! おじいさん、半坊が、きれいな娘さん連れてきたよ!」「どれどれ…お! よし飲みこんだ!」「いや違います」「いい娘じゃないか、腕に根性焼きの跡がいっぱいあって、内側には注射痕も。素敵な娘さんだ」「素敵じゃない!」「照れるんじゃない! さ、二階へ上がって寝ちまえ! …バアサン、こんな日が来るとはなぁ。子どもだと思ってた半七が」「思い出しますねぇ。初めて2人が結ばれた晩のことを…あたしの中のメスがうずいてます…」「うずかせるんじゃないよ!」

「お花ちゃん、ここに帯を置きますから、こっちに入っちゃいけませんよ。そっち側で寝てくださいね。この帯は、38度線です。こっちは韓国、そっちは北朝鮮」「何それ」「縄張りですよ! 入ってきたら喧嘩になるの」「スペクターと東海連合みたいな?」「そうそう」「吸収!」「吸収されません! 戻して! あのね、私、昔はお花ちゃん好きでしたよ! でもそれは昔のお花ちゃん! 今は変わっちゃって、昔のお花ちゃんのカケラもない。あなたの悪い仲間と一緒にされちゃ、迷惑なんですよ! あなたは汚れちゃったんだ!」「半ちゃん」「……」「半ちゃんってば」「……」「半ちゃん……(小声で)私を、たすけて……(泣)」 泣いているお花の髪に、半七の手が伸びて、そっと撫でる。いつしか絡み合う指と指。どちらからともなく唇が重なり、激しく舌を絡める。半七の手がお花の胸元にすべりこみ、まっ白い乳房をまさぐると、その手が徐々に下へと伸びていく。

「お花の内腿の奥にある潤いを指先に感じながら、半七の手が滑るように……ここで本が破けてまして、後は読めません、というのがこの落語の従来のオチだったんですが、私はこの先の、欠けていた重要な部分を発見したしました!」と言って演者の談笑が露骨な性描写へと突入する。「男は下から腰を突き上げて、いきり立った欲望の塊で、女体の奥深くを貫いた。『おじいさん!』……ってこれは一階の話だ。二階はってぇと、いつまで経っても『半ちゃん!』『ダメです!』 ……この夜、若い2人が結ばれるという。『宮戸川』の上でございます」



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『浜野矩隨』

腰元彫りの名人・浜野矩康が49歳で妻子を残して亡くなり、10年後。倅の矩隨は跡を継いで腰元彫りの職人となり、矩隨の作品はすべて若狭屋が買い取っていた。

「若狭屋さんに行ってくるよ」と病床の母に告げる矩隨。「お前の作ったものを見せてごらん。ああ、これか、若駒だね」「出来は……」「いいよ! お前は名人だよ矩隨」「それ、足の数が」「そこがいいところだよ、春にピッタリだ。若々しくて。お前は名人だよ。私はそろそろ、おとっつぁんがお迎えに……」「そんな気弱なこと言わないで」

若狭屋に行くと、旦那は寄り合いで昼間から酒を飲んでホロ酔い。「おお、矩隨さん、持ってきたか。はい、二朱」「あの、一応見てください」「はいはい」「馬を、若々しく」「……コレかい。自分でどういう出来だと思うの?」「新しい視点で、これまでにないものだと」「心底、いいと思ってる? 馬の脚って何本? 三本しかないよ、何コレ?」「よく見てください。一本に見えるのは重なってるんですよ、躍動感があっていいでしょ?」「ああまたそういうの始まっちゃうの?」 ウンザリする若狭屋。

「オマエのおとっつぁんは名人だったよ。お前が理屈こねてるこういうの、世間は好きじゃないんだよ。普通の、いいモン作ってよって言ってるだろ? 芸術家気取りか何か知らないけど、売れないんだ、こんなの! いつも二朱で買ってるけど、全部売れないから、箱に入れてあって、もう13箱だ。マトモなものを普通に彫ってりゃいいんだよ!」「それじゃ、私がやらなくても他の職人さんでも同じ…」「だから他の職人さんと同じように、普通にやっておくれよ!」

「寄り合いでも、お前さんの話が出たよ」 若狭屋は続ける。「よそでコレ買ったトコあったんだって? いい笑いモンだよ。こんなのが世に出ると、おとっつぁんの名声にまで影響するって、みんな心配してるんだ。もうやめろよ。商売替えしろよ。どうしてもやりたいんなら、浜野の名前を使うな」「いえ、おとっつぁんから頂いた大事な名前」「お前はその名前に泥を塗ってるんだよ!」

「あのね、お前の腕は悪くないよ。そこらへんの奴より上手い。でも、こんなのいいって言い切れるか? お前、世間がいいと思うもの彫れるか? 彫れないよ、芸術家気取りのお前には。先代の顔に泥を塗るからやめてくれ」「いえ、それはイヤです」「強情なトコだけは父親に似たんだな。真っ当なモノ彫って欲しいんだけど、それもダメ? わかった…(大声で)帰れッ!!!」

「おとっつぁん…俺、ダメなのかな」と独り言を言いながら帰る矩隨。「世の中、俺のもの要らないのかな。一生懸命いいもの作ろうと思ったけど、生きてるとおとっつぁんの名前に泥を塗るって……でも、俺、死なないよ……死ぬもんか」 涙をこらえて帰宅した矩隨を迎えた母は、何かがあったことを見破り、問い質す。わけを聞いた母、「いいんだ、心配することないよ、お前が名人なのは、おっかさん、よーくわかってる」「でも世間はせせら笑ってるって」「お前はいいものを作ってる。いつかみんな、わかってくれるよ」

「私はもう二、三日もつかどうか…おっかさんが、おとっつぁんのところへ真っ直ぐ行けるように、観音様をこしらえておくれ。手のひらに入るような。それを胸に抱いて、おとっつぁんのところへ行くよ」「うん、わかった」「お前ね、心を込めて彫ってごらん。今までお前は名人だ。でも今までこさえたものには心が入ってないんだよ。心を込めて一生懸命彫ってごらん」といって、母は首に掛けていた物を息子に渡す。「憶えてるかい? お前が五つの時に初めてこしらえた、おっかさんのために彫ったウサギだ。嬉しかったよ。宝物だ。肌身離さず持ってた。こしらえとくれ、観音様を」

一心不乱に制作に彫り始めた矩隨。「おっかさん、お粥…」「そんあものいいから、彫っておくれ」「でも食べないと。死んじゃ、やだよ」「お前が幼い頃の夢を見たよ。みんなで花見に行って、お前は三つだったか、お侍さんを見ては『この人の持ってるのはおとっつぁんのだ』『この人は違う』って、全部ピタッと言い当ててた。これは将来どんな名人になるんだろうって、お弟子さんたちもみんな、驚いていたよ……」

いよいよお迎えが来たのか、母はずっと「ナンマンダブ、ナンマンダブ…」と唱えている。それを聞きながら彫る矩隨。「待っててくれよ、おっかさん…」

二日経った明け方、若狭屋が矩隨の家を訪れる。「やってるね、よかったよかった。こないだのを真に受けて商売替えでもしてたらどうしようと…おっかさんは寝てるのか…あっ! 何だ、矩隨、この白い布! おっかさん、亡くなったのか!」 手を合わせる若狭屋の前で、観音を手に取り、眺めて涙する矩隨。「おっかさん、見とくれ、いいのが彫れたよ」「矩隨さん、それ、お前が!?」「いいでしょう?」 

観音を見て驚く若狭屋。「ああ…これは…私も長年この商売で何千と観音様を見てきたが、これほどまでに優しそうな、心のこもった観音様は初めて見た。矩隨さん、お前、おとっつぁんを越えたよ! いいものを彫った! (母親に向かって)おっかさん、いい職人になったよ、倅は。親父を越えた!」 そして若狭屋は矩隨に力強く言う。「さあ、これが彫れたってことは、忙しくなるぞ! お前に注文が殺到する」 すると矩隨、決然と応える。「いえ、、まだ新しいものに取り掛かれません! あの13箱の作品、全部に心を込めるんです!」

矩隨は名人だと評判が立ち、あの三本脚の若駒も五百両で売れたとか。83歳まで生きて最後の日までノミを振るい続けた矩隨は、大勢の弟子に見守られて天寿を全うする。その工房の片隅には、小さな観音と、かわいいウサギが鈍い光を放っていたという。「名人に二代あり」、浜野矩隨の一席で、長く続いた「J亭 談笑落語会」の幕は下りた。
談笑プロフィル

立川 談笑(たてかわ だんしょう)
東京都江東区出身。1992年、7代目立川談志に入門。1996年7月、二つ目昇進。2003年、6代目立川談笑を襲名。2005年には、真打昇進と史上まれにみるスピード出世を遂げ、50人以上いる弟子の中でとりわけ若くして「立川流四天王」と称される実力と人気を兼ね備えた逸材といわれる。
フジテレビ『とくダネ!』リポーターとしても活躍。

広瀬プロフィル

広瀬 和生(ひろせ かずお)
1960年生まれ、ハードロック/ヘヴィメタル月刊音楽誌「BURRN!」編集長。東京大学工学部都市工学科卒業後、レコード会社勤務を経て、1987年「BURRN!」(シンコーミュージック)編集部入社。1993年から同誌編集長を務める。本業とは全く関係なく、30年来の筋金入りの落語ファン。ここ数年は年間350回以上の落語会にほぼ毎日通いつめ、1500席以上の高座に生で接している。
著書に『この落語家を聴け!』(アスペクト刊)などがある。