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花鳥風月 月・Part 3

『岸柳島』『宮戸川』『浜野矩隨』

平成23年2月25日に開催された、J亭談笑落語会・最終回「花鳥風月 月・Part3」のお題3本を、広瀬和生さんの解説でお届けします。


~立川談笑独演会~

『岸柳島』

満員の渡し舟の中、横柄な態度の若侍がキセルを取り出してタバコを吸い始める。すると火玉を払おうと船べりでキセルを叩いた弾みに、雁首が取れて川の中へ。悔しそうな侍のところへ屑屋がしゃしゃり出て、「その吸い口を買わせてください」と申し出る。カチンと来た侍、「無礼な! 手討ちにしてくれる!」と怒りだした。

その様子を見ていた侍が二人。若い方が「ご老体、あの屑屋、手討ちに遭いますぞ」と、助けるよう求める。「しかし、ワシのようなものが出て行っても、到底たちうちできませんぞ」 すると若いほうの侍は「おい! 見逃すわけにはまいらん!」と怒鳴り、「武士として許せん! と師匠が申しておる」と老武士に責任を押し付ける。「なに!?」と凄むキセルの若侍はいかにも強そう。ボケたふりをする老武士、それを後ろから操って「勝負だ!」と挑発する。

「そうかご老体、あの中州で勝負したいと言うか。断っておくが、俺は今まで3人殺しているぞ」「ええっ!?」と怯える老体に、後ろの侍が「助太刀しましょう」と言うが、助太刀も何も、全部この若い侍が老人の後ろで言ったこと。「あなたが言い出したんでしょ!」「ご安心を。骨は拾います」

先に中州に飛び降りたキセルの侍。と、船頭がサオをグッと突っ張って、中州から舟はどんどん離れていく。「大丈夫ですよ、お侍さん!」 船頭の機転で助かった…と思うと、取り残されたキセルの侍、フンドシ一丁の裸になって小刀をくわえ、川に飛び込んだ。「あれは水練の達人だ! 来るぞ!」「皆殺しだ!」「舟の上に現われた侍は斬って斬って斬りまくり、舟が真っ赤な血に染まったという…しかしそのとき小次郎少しも慌てず…」「おい講釈師、その講釈だか浪曲だかわからないようなのやめてください」

すると水面にザバッと飛び出した侍が舟に近づく。舟から老武士「何をしに来た!」と問いかけると、水中から出てきた侍、「雁首みつけたの!」と答える。「おお! して、吸い口は?」「あっ! 水の中に忘れてきた」



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『宮戸川』

大店の若旦那、半七は17、8歳のいい男。将棋をさしていて夜遅くなり、締め出しを食らってしまった。「開けてください、おとっつぁん!」 すると、向かいの家でも16、7歳の若い娘が締め出されていた。「ババァ、開けろよ! 日の出暴走で遅くなるの当たりめぇだろ! 開けないってぇと近所のガキ刺しちゃうぞ!」

「お花ちゃんじゃありませんか」「あ…ピンクのクジラがしゃべった」「またヘンなクスリやってますね。半七ですよ! 私、締め出し食っちゃって」「私、アンパン食っちゃったの」「一晩中ラリっててください。それじゃ」「どこ行くの?」「霊巌島の叔父さんの所に行って泊めてもらいます」「ピョンちゃんも行きたい!」「誰ですか! ダメですよ、お花ちゃんなんか連れてったら、くっつけられちゃいますよ。あの叔父さん、飲み込み屋で、全部くっつけちゃうんですから。あの人が『飲み込んだ!』って言ったら自民党と共産党だって連立しちゃいます」 逃げ出す半七。

「変わっちゃったな、お花ちゃん。こないだまで、ごく普通の可愛い子だったのに」「今でも可愛いもん!」「うわっ! 何でついてくるんですか! 背中に箱乗りしないで!」 振り切っても振り切ってもヘビ女のようについてくるお花。「うわ、長屋の屋根の上でワオー^ン!って、なんだありゃ」「ガルルル」「シッシッ! あ、着いちゃったよ。叔父さん、開けてください! 小網町の半七でーす!」

「いてて、腰が痛てぇ。いま開けるから! おい、バーサン、起きなさいよ、小網町の半七が来たよ!」「あらあら! じゃあお位牌を…」「何やってんだよ?」「小網町から半鐘が鳴ったって」「面白くないんだよ、古典ババア! 開けてやれ」「はいはい。よく来たねぇ半坊。何モジモジしてるんだい、さぁ、後ろのお連れさんも…あっ! おじいさん、半坊が、きれいな娘さん連れてきたよ!」「どれどれ…お! よし飲みこんだ!」「いや違います」「いい娘じゃないか、腕に根性焼きの跡がいっぱいあって、内側には注射痕も。素敵な娘さんだ」「素敵じゃない!」「照れるんじゃない! さ、二階へ上がって寝ちまえ! …バアサン、こんな日が来るとはなぁ。子どもだと思ってた半七が」「思い出しますねぇ。初めて2人が結ばれた晩のことを…あたしの中のメスがうずいてます…」「うずかせるんじゃないよ!」

「お花ちゃん、ここに帯を置きますから、こっちに入っちゃいけませんよ。そっち側で寝てくださいね。この帯は、38度線です。こっちは韓国、そっちは北朝鮮」「何それ」「縄張りですよ! 入ってきたら喧嘩になるの」「スペクターと東海連合みたいな?」「そうそう」「吸収!」「吸収されません! 戻して! あのね、私、昔はお花ちゃん好きでしたよ! でもそれは昔のお花ちゃん! 今は変わっちゃって、昔のお花ちゃんのカケラもない。あなたの悪い仲間と一緒にされちゃ、迷惑なんですよ! あなたは汚れちゃったんだ!」「半ちゃん」「……」「半ちゃんってば」「……」「半ちゃん……(小声で)私を、たすけて……(泣)」 泣いているお花の髪に、半七の手が伸びて、そっと撫でる。いつしか絡み合う指と指。どちらからともなく唇が重なり、激しく舌を絡める。半七の手がお花の胸元にすべりこみ、まっ白い乳房をまさぐると、その手が徐々に下へと伸びていく。

「お花の内腿の奥にある潤いを指先に感じながら、半七の手が滑るように……ここで本が破けてまして、後は読めません、というのがこの落語の従来のオチだったんですが、私はこの先の、欠けていた重要な部分を発見したしました!」と言って演者の談笑が露骨な性描写へと突入する。「男は下から腰を突き上げて、いきり立った欲望の塊で、女体の奥深くを貫いた。『おじいさん!』……ってこれは一階の話だ。二階はってぇと、いつまで経っても『半ちゃん!』『ダメです!』 ……この夜、若い2人が結ばれるという。『宮戸川』の上でございます」



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『浜野矩隨』

腰元彫りの名人・浜野矩康が49歳で妻子を残して亡くなり、10年後。倅の矩隨は跡を継いで腰元彫りの職人となり、矩隨の作品はすべて若狭屋が買い取っていた。

「若狭屋さんに行ってくるよ」と病床の母に告げる矩隨。「お前の作ったものを見せてごらん。ああ、これか、若駒だね」「出来は……」「いいよ! お前は名人だよ矩隨」「それ、足の数が」「そこがいいところだよ、春にピッタリだ。若々しくて。お前は名人だよ。私はそろそろ、おとっつぁんがお迎えに……」「そんな気弱なこと言わないで」

若狭屋に行くと、旦那は寄り合いで昼間から酒を飲んでホロ酔い。「おお、矩隨さん、持ってきたか。はい、二朱」「あの、一応見てください」「はいはい」「馬を、若々しく」「……コレかい。自分でどういう出来だと思うの?」「新しい視点で、これまでにないものだと」「心底、いいと思ってる? 馬の脚って何本? 三本しかないよ、何コレ?」「よく見てください。一本に見えるのは重なってるんですよ、躍動感があっていいでしょ?」「ああまたそういうの始まっちゃうの?」 ウンザリする若狭屋。

「オマエのおとっつぁんは名人だったよ。お前が理屈こねてるこういうの、世間は好きじゃないんだよ。普通の、いいモン作ってよって言ってるだろ? 芸術家気取りか何か知らないけど、売れないんだ、こんなの! いつも二朱で買ってるけど、全部売れないから、箱に入れてあって、もう13箱だ。マトモなものを普通に彫ってりゃいいんだよ!」「それじゃ、私がやらなくても他の職人さんでも同じ…」「だから他の職人さんと同じように、普通にやっておくれよ!」

「寄り合いでも、お前さんの話が出たよ」 若狭屋は続ける。「よそでコレ買ったトコあったんだって? いい笑いモンだよ。こんなのが世に出ると、おとっつぁんの名声にまで影響するって、みんな心配してるんだ。もうやめろよ。商売替えしろよ。どうしてもやりたいんなら、浜野の名前を使うな」「いえ、おとっつぁんから頂いた大事な名前」「お前はその名前に泥を塗ってるんだよ!」

「あのね、お前の腕は悪くないよ。そこらへんの奴より上手い。でも、こんなのいいって言い切れるか? お前、世間がいいと思うもの彫れるか? 彫れないよ、芸術家気取りのお前には。先代の顔に泥を塗るからやめてくれ」「いえ、それはイヤです」「強情なトコだけは父親に似たんだな。真っ当なモノ彫って欲しいんだけど、それもダメ? わかった…(大声で)帰れッ!!!」

「おとっつぁん…俺、ダメなのかな」と独り言を言いながら帰る矩隨。「世の中、俺のもの要らないのかな。一生懸命いいもの作ろうと思ったけど、生きてるとおとっつぁんの名前に泥を塗るって……でも、俺、死なないよ……死ぬもんか」 涙をこらえて帰宅した矩隨を迎えた母は、何かがあったことを見破り、問い質す。わけを聞いた母、「いいんだ、心配することないよ、お前が名人なのは、おっかさん、よーくわかってる」「でも世間はせせら笑ってるって」「お前はいいものを作ってる。いつかみんな、わかってくれるよ」

「私はもう二、三日もつかどうか…おっかさんが、おとっつぁんのところへ真っ直ぐ行けるように、観音様をこしらえておくれ。手のひらに入るような。それを胸に抱いて、おとっつぁんのところへ行くよ」「うん、わかった」「お前ね、心を込めて彫ってごらん。今までお前は名人だ。でも今までこさえたものには心が入ってないんだよ。心を込めて一生懸命彫ってごらん」といって、母は首に掛けていた物を息子に渡す。「憶えてるかい? お前が五つの時に初めてこしらえた、おっかさんのために彫ったウサギだ。嬉しかったよ。宝物だ。肌身離さず持ってた。こしらえとくれ、観音様を」

一心不乱に制作に彫り始めた矩隨。「おっかさん、お粥…」「そんあものいいから、彫っておくれ」「でも食べないと。死んじゃ、やだよ」「お前が幼い頃の夢を見たよ。みんなで花見に行って、お前は三つだったか、お侍さんを見ては『この人の持ってるのはおとっつぁんのだ』『この人は違う』って、全部ピタッと言い当ててた。これは将来どんな名人になるんだろうって、お弟子さんたちもみんな、驚いていたよ……」

いよいよお迎えが来たのか、母はずっと「ナンマンダブ、ナンマンダブ…」と唱えている。それを聞きながら彫る矩隨。「待っててくれよ、おっかさん…」

二日経った明け方、若狭屋が矩隨の家を訪れる。「やってるね、よかったよかった。こないだのを真に受けて商売替えでもしてたらどうしようと…おっかさんは寝てるのか…あっ! 何だ、矩隨、この白い布! おっかさん、亡くなったのか!」 手を合わせる若狭屋の前で、観音を手に取り、眺めて涙する矩隨。「おっかさん、見とくれ、いいのが彫れたよ」「矩隨さん、それ、お前が!?」「いいでしょう?」 

観音を見て驚く若狭屋。「ああ…これは…私も長年この商売で何千と観音様を見てきたが、これほどまでに優しそうな、心のこもった観音様は初めて見た。矩隨さん、お前、おとっつぁんを越えたよ! いいものを彫った! (母親に向かって)おっかさん、いい職人になったよ、倅は。親父を越えた!」 そして若狭屋は矩隨に力強く言う。「さあ、これが彫れたってことは、忙しくなるぞ! お前に注文が殺到する」 すると矩隨、決然と応える。「いえ、、まだ新しいものに取り掛かれません! あの13箱の作品、全部に心を込めるんです!」

矩隨は名人だと評判が立ち、あの三本脚の若駒も五百両で売れたとか。83歳まで生きて最後の日までノミを振るい続けた矩隨は、大勢の弟子に見守られて天寿を全うする。その工房の片隅には、小さな観音と、かわいいウサギが鈍い光を放っていたという。「名人に二代あり」、浜野矩隨の一席で、長く続いた「J亭 談笑落語会」の幕は下りた。

『疝気の虫』『千早ふる』『オトミ酸』『三味線栗毛』

平成23年1月28日に瀧川鯉昇、柳家喬太郎を招いて開催された「花鳥風月 月・Part 2」のお題4本を広瀬和生さんの解説でお届けします。


立川談笑『疝気の虫』

 疝気とは下腹部が痛む病気を指す漢方用語だが、特に男性の睾丸や尿道、膀胱あたりの激痛を伴う病気をイメージしておくとよい。病気にはすべてその原因となる虫がいて、疝気は「疝気の虫」が起こす、という設定による古典落語『疝気の虫』は、古今亭志ん生ヴァージョンを愛した立川談志が好んで演じることで知られ、当代柳家権太楼の得意ネタでもある。

通常の『疝気の虫』は、夢で疝気の虫に「好物が蕎麦、弱点が唐辛子。危なくなると別荘(睾丸)に隠れる」と教わった医者が患者の治療にその知識を用いる滑稽噺だが、談笑版は、通常のものとは異なる改作。船の中が舞台となって、大暴れする疝気の虫の大群を人間が撃破する凄まじい攻防を描いた「エイリアン編」だ。

長崎から江戸へ向かう船の中で主人公の男を起こす娘。彼女の父は直次郎の師で、長崎の医師だ。船内では乗客が次々に疝気の虫の大群に襲われて大パニック。「先生、あれは!」「出たー! 疝気の虫だぁーっ!」「こんな噺じゃなかった…」 逃げ惑う船客。だが誰も逃げられない。「船中みんな疝気になってしまった!」 そして遂に、娘の父も…。

主人公は夢で聞いた「疝気の虫の好物は蕎麦、弱点は唐辛子」を思い出し、唐辛子の湯を用意して、蕎麦を娘に食べさせる。すると父の口から巨大な怪物(疝気の虫)が飛び出し、そのまま娘の口に入り込んでしまった。疝気の虫に身体を乗っ取られて苦しむ娘に唐辛子湯を飲ませると、疝気の虫は別荘を求めて下っていくが、女に別荘は無い! 仕方なく怪物は股間から逃げていった。「お嬢さん!」「無事、安産で済みました」

しかし、巨大化した疝気の虫に体を蝕まれた父はもはや息も絶え絶え。「お父様!」「…この疝気の虫は南蛮渡来の疝気の虫だ…こんなものが江戸に入ったら大変なことになる。この船を焼き払ってしまうのだ…江戸へ入れてはいかん!」 そう言い残して先生は息を引き取る。

男と娘が船内を見回ると、もはや病人の姿は跡形も無くなり、疝気の虫の卵がビッシリと床を埋めていた。火薬の詰まった荷がその向こう側にある。「あの火薬に火をつけましょう!」「でも、あの卵は、もう生まれようと…危険です!」「お嬢さん、私は帰ってこられないかもしれませんが、こんな男が居たってことを覚えておいてください」「私が行きます! 私には別荘は無いから大丈夫!」 娘は唐辛子の湯を飲みながら突っ込んでいく。孵化した疝気の虫が娘の口の中に入るが、娘は次々に股間から虫を産み落としながら奥まで走っていくと、行燈の火を火薬の荷へ。「さあ逃げましょう!」 その一瞬後、船からドーン!と火柱が上がった。

船はもはや粉々。海の中で材木に掴まった二人のシルエットが浮かび上がる。見事、脱出に成功したのだ。水面に浮かぶ「お材木」のおかげで助かった二人。「あそこに見えるのが品川の灯り…この大変な事態を江戸の皆に伝えに行かなくちゃ!」 だが海中の男の睾丸の中で、疝気の虫がギュルギュルギュル………。


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瀧川鯉昇『千早ふる』

J亭、二度目の登場となる瀧川鯉昇。今日の演目『千早ふる』は、百人一首の在原業平の歌「千早ふる神代もきかず竜田川 からくれないに水くぐるとは」の意味を娘に訊かれた男が、近所の物知り(多くの場合、ご隠居)」に教わりに行くと、相手も実は何も知らず、デタラメを教える、という噺。鯉昇ヴァージョンは、そのデタラメが通常の演者よりもスケールの大きなホラ話となっていく。

「おや、八っつぁん、何モジモジしてるんだい、上がりなよ」とご隠居。「いや、今日はここでいいです」 なかなか家に上がろうとしない八っつぁん。「お上がりってんだよ」「ホントにいいですから」 実は、歌の意味を娘に訊かれて進退窮まった八五郎は「便所に隠れて下の格子を蹴破って裸足でここへ来た」のだ。だから遠慮していた八五郎を、無理やり家に上げたご隠居、わけを聞いて「え、じゃあ裸足で…? あっ! この 野郎、足跡こんなに付けやがって!」と掃除をさせる。「雑巾できれいに拭いときな! 雑巾は固く絞って! 長火鉢もずらして、ちゃんと隅々…拭いたか。じゃ向こうの部屋も掃除して」「向こうの部屋、行ってねぇですよ」「モノはついでだ。そう、きれいに! 床柱も磨け! 終わったか、じゃバケツの水撒いて雑巾をキュッと絞って、そこに干して帰れ!」「いや、あっしはここに掃除をしに来たわけじゃない」

「この歌は、この辺から(と横に水平に手をかざして)、奥まったところから真っ直ぐ来たら、ここ、ここで曲がる! それでクルッと廻って。歌だからね、リズムが大事。で、位置関係がね、ここ、いやここかな」「いや、あの、遊んでネェで!」「じゃあ訊くが、この竜田川って何だと思う? ヒントをやろう。ナイル、インダス、チグリス・ユーフラテス、黄河」「川の名?」「違う! 外国人力士の名だ。竜田川はモンゴル草原に居た、怪力の持ち主。その怪力を活かそうと日本に夢を抱いてやって来た」

隠居曰く、「成功するまで女は断つと願掛けをした」竜田川、三年で大関になったのを機に吉原へ行ったが千早という花魁にフラれ、その妹分である神代にもフラレて「もう力士は辞めた!」とモンゴルへ帰って豆腐屋になったという。

「……あのすみません、聞き漏らしたようなんですが……豆腐屋?」「オマエは歴史に疎いな。その当時は女にフラれた相撲取りはみんな国へ帰って豆腐屋になったものなんだ」「でもモンゴル」「モンゴルにもあるよ豆腐!」「でもいきなり大関から豆腐屋にならなくたって」「実家が豆腐屋だったんだよ! おとっつぁんが年取って、今にも潰れそうだった。パオが傾いてた」

「おとっつぁんの跡を継いで豆腐屋になった竜田川はモンゴル平原で豆腐を売り歩いた。あるとき、向こうからポコポコやって来るラクダ、その上に乗っていた女は誰だと思う?」「オレ、あんまりモンゴルに詳しくネェから」「ラクダに乗った女乞食の正体は…この物語に女は二人しか出てこない。よく考えろ」「千早?」「ファイナルアンサー?」「はい」「………………正解!」「でも千早が何で江戸からモンゴルに来て乞食に?」「当人の強い意志だ!」

「竜田川にトン!と突き飛ばされた千早はモンゴル平原を飛んだ。土手があったから良かったな。跳ね返って戻ってきた。そこに柳の木が」「モンゴル平原で?」「あるよ柳。その脇に井戸が」「井戸?」「モンゴル平原にも井戸はあるよ! そこに飛び込んで千早は死んだ」「それで?」「おしまい」「だって」「続きは無いよ! もう雑巾も乾いたな? じゃ、帰んな!」 モンゴルにも豆腐があるというウンチクを語る鯉昇版『千早ふる』、ご隠居はあくまで掃除にこだわるのだった。


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柳家喬太郎『オトミ酸』

またしても物知りのご隠居のところにモノを訊きに来た八五郎。「オマエ、よくモノを聞きに来るな」「ご隠居、こないだの業平の歌、教わったまんま発表したら、ウチの娘、成績下がりっぱなしで」「あ、信じたのか!」「娘の学校、懐メロが流行っちゃって、今『お富さん』が流行ってるんですよ」「どんな学校だ」「それで『お富さん』の歌詞のわけ聞こうと思って」「ハードル上がったなぁ! 千早で一杯いっぱいだぞ!」

「江戸っ子の好きなものといえば祭りだな。江戸八百八町の中でも威勢がいいことで知られる黒兵衛さんという人が、毎年、荒神(こうしん)、つまり荒い神を祭って神輿(みこし)の先棒かついでワッショイ、ワッショイとやってたんだが、ある年、具合が悪くてウチでグッタリしていた。すると、そこへ源ちゃんが来た」 ご隠居は話し続ける。

「黒兵衛は『源ちゃん今年はダメだよ』と言うが、『何言ってるんだよ、町内の神輿がかわいそうだよ』と源ちゃん。『神輿に心があるのか』『あるんだよ! みんな待ってるんだよ!』と源ちゃんに言われて黒兵衛は起き上がり、ダラダラ汗をかいてやって来た。『死んでもいいや!』と神輿担いでワッショイとやってたら元気になったって話だ」

「祭りに付き物の振る舞い酒、こいつを飲んで酔っ払った黒兵衛さんは荒い神の裏のほうへフラフラと来ちまった。まだ病気で酔いも廻った黒兵衛さんは裏っ手の社務所の縁側でグッタリしていると、南蛮人が身につけるというガーターベルトが落っこってる。それをみて首をひねり、クンクンと匂いをかいでいると、『ああ…』とか『イヤ』とか淫靡な声が…中へ入ってみると掛け軸の向こうに抜け穴があって、『ピシッ!』『ああ…もっと! やめないで!』なんて声がするではないか」

「何事かと行ってみると、さあ大変、巫女さんたちやら何やらが神主を四つんばいにさせて『ああくすぐったい!』『ねぇ旦那!』『ビシビシッ!』って乱チキ騒ぎだよ。『ちょっと大将! 何です皆さん!?』と黒兵衛さんが入っていくと、中の皆は凍りついたな! で、見ると源ちゃんもいるんだよ。『これはこれは黒兵衛さん』と神主が寄ってくる」「ふんふん」

「神主は『これを見られちゃ生かしちゃおけない。源さん、オマエが始末しな』とドス黒い相談。『ここに南蛮渡来のオトミ酸という毒がある』『オトミ酸』『オートミールというモノによく似ているからオートミール酸、というところから来ているそうだ』 そのオトミ酸なる毒を、源ちゃんが黒兵衛さんに飲ませると、バタッと倒れこむ……」

「と、そのとき、上のほうから『御用だ! 御用だ!』という声が聞こえ、黒兵衛さんはハッと目を覚ました。源ちゃん、友達の黒兵衛さんが生きてて良かったとは思ったが、やったのは自分。掴まってはならじと走って逃げていった。その先には一面の畑。ふと見ると一本の良い竿があり、源さんは昇ってはみたが、結局は落っこちてお縄になった。源ちゃんは『あー、やだな』と言ったという」「へえ」「これが歌詞のワケだ」「へ?」

「わからんか? 行きなよ神輿が待ってるぜ、あだなすガーター荒い神、死んだはずだよオートミー酸、生きていたとは…ちなみにこの『とは』は黒兵衛の本名だ」「おお!」「源ちゃん『おっしゃ』と思ったけど逃げた夏…サマーでも、知らない、ホットケ、ええ竿、源やだなー、という」 と、そこへおかみさんが入ってきて「何言ってるの! バカばっかり言って! あれは歌舞伎から来てるのよ!」「おいおい、横槍を入れるな」「いいえ、横櫛(よこぐし)」でサゲ。

「J亭」二度目の登場となる喬太郎、今日の噺は自作の新作落語『オトミ酸』。『千早ふる』のパロディ的な内容で、自分のすぐ前に誰かが『千早ふる』を演ったときにしか演らないので、滅多に聴くことができない貴重なネタだ。ちなみにこのサゲは『お富与三郎』の別題『与話情浮名横櫛』から来ている。


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立川談笑『三味線栗毛』

大名・酒井雅楽頭の三男・角三郎が按摩の錦木と心を通じ、「自分が大名になったらオマエを検校にしてやる」と約束、やがて角三郎は病身の兄に代わって父の跡を継いで大名となり、約束どおり錦木を検校としてやる、という講釈ネタの人情噺。江戸時代の按摩はお上から官位を得なければならず、最下層が衆分、その上に座頭、匂当とあって、検校は最上級。

文楽・志ん生・圓生らがこぞって崇拝していた「名人」四代目橘家圓喬の十八番として知られ、志ん生も演っていた。近年では志ん生とは異なる演出でしんみりと終わる『錦木検校』として、今日のゲストの柳家喬太郎が演っているのが有名。喬太郎の演出は八代目林家正蔵から橘家文蔵(故人)に伝えられた型をベースに、自分の演出を加えたものだ。

談笑版は志ん生の型をベースにしており、めでたく検校となった錦木が、雅楽頭から「新しい馬の名を三味線と名付けた」理由を直接聞いてサゲる。仲良くなったのにプッツリと来なくなった錦木を案じた角三郎が、事情を探って「わずらい寝付いている」錦木の汚い長屋を訪れて見舞い、そこで「俺が出世したらおまえを検校にしてやる」という約束を交わす、という演出に談笑の工夫が活かされ、爽快な後味を残す噺になった。

『山号寺号』『掛取り』『あわびのし』『鼠穴・改』

平成22年12月17日に柳亭市馬、柳家三三を招いて開催された「花鳥風月 月・Part 1」のお題4本を広瀬和生さんの解説でお届けします。


立川談笑『山号寺号』

上野広小路での、とある若旦那と幇間の一八との会話だけで成り立つ噺。今日は柳亭市馬、柳家三三と2人のゲストが出演するので、1席目には短めの噺にしておこう、ということだろう。談笑は2009年10月の「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part 1」でもこの噺を演じており、そのときのゲストは柳家喬太郎だった。

「若旦那、どちらへお出かけで?」「浅草の観音様だよ」「金龍山浅草寺にご参詣ですか」「違うよ、浅草の観音様だって言ってるだろ」「ですから金龍山浅草寺」「何だそれ?」「ですから金龍山浅草寺」「逆らうね! 浅草の観音様だって!」「それを正式に言うと金龍山浅草寺に安置したてまつる観世音菩薩。拝むのは観音様でも、行くところは金龍山浅草寺でしょ? 山号寺号ってヤツですよ」「サンゴウジゴウ?」「なんとか山、なんとか寺、これが山号寺号ですよ。成田山新勝寺、東叡山寛栄寺、身延山久遠寺。ね? どこにでもある」

「どこにでもある?」「ハイ」「じゃあここにもあるんだな! 言ってみろ!」「え? いや、お寺があればどこにでも、ってことで」「うるさい! どこにでもって言っただろ! さあここの山号寺号は何だ? 言えたら祝儀に一円やる。言えなきゃ出入り止めだ」「そんなぁ~」「ま、これからは口の利き方に気を付けるんだな」と立ち去ろうとする若旦那にすがりつく一八。「あそこに車屋がいますね? 車屋さん広小路、ってのはどうです?」「おっ、そう来たか。一円やるよ」

「さ、これで出入り止めは無しですね。あとはジャンジャンいただきますよ」 さあここから、「○○さん××じ」のダジャレを連発、若旦那の財布はカラになる。「今度は俺の番だ」と若旦那は一八の財布を預かる。「若旦那、どうするんです?」「これをこう、懐に入れて…」「え?」「一目散、随徳寺」と言うなり走り去る若旦那。「あっ! みんなご破算、大赤字!」


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柳亭市馬『掛取り』

今回、もう1人のゲストは柳亭市馬。1961年生まれで、1980年、五代目柳家小さんに入門。圧倒的な歌唱力を持ち、昭和歌謡を嬉々として唄いまくる人として知られているが、もちろん、落語の上手さにこそ市馬の魅力がある。古典落語の真髄を味わわせてくれる、「マトモに演って面白い」落語家だ。今日の演目『掛け取り』は、年末に市馬があちこちで演る得意ネタ。ちなみに、この日、市馬の落語協会副会長就任が発表された。

大晦日、貧しい夫婦の会話。「お前さん、どうするんだい? 借金取り、掛取りがどんどん来るよ」「去年の手は?」「死んだ振り? ダメだよ!」 去年の大晦日、亭主が棺桶に隠れて借金取りを返していたら大家が来て香典を差し出し、まさか受け取れないからと女房が断わったら、亭主が棺桶からニュッと手を出し「いいからもらっておけ!」と言ったので、大家は大慌てで下駄履かずに帰った…という一件を振り返り、「あれから一年たつなあ」と呑気な亭主。

「その大家さんが店賃とりにきたわよ」「好きなモノで断わろう。大家は何が好きだ?」「狂歌家主って言われてるくらいで、狂歌に凝ってるよ」「よしきた」 こうして、狂歌の好きな大家には狂歌で、喧嘩好きな魚屋には喧嘩で追い返す。「あ、三橋の旦那が来たわよ」「あの旦那は三橋美智也が好きだからなあ」と、亭主は嬉しそうに三橋美智也を唄いまくる…。

時間があれば芝居好きには芝居の真似で、相撲好きには相撲甚句でと、市馬の芸達者振りが際立つこの噺だが、今日は時間の都合で芝居と相撲甚句をカット。そこをカットしながら「三橋美智也を歌う」というオリジナル演出は欠かさないのが、昭和歌謡マニアの柳亭市馬ならでは、というところ。


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柳家三三『あわびのし』

頼りない亭主(甚兵衛)が「ハラ減ったから帰ってきた。オマンマ食べさせて」と、しっかり者の女房(おみつ)に泣きつく。「オマンマ買うお金が無いよ」「何で?」「お前さんが働かないからだろ!」「オマンマ! オマンマ! オマンマ!」うるさいわね…「明日から、ちゃんと仕事する?」「する(泣)」「じゃあ、お隣の山田さんちに行って、五十銭借りといで」「貸してくれないよ」「お前さんじゃ貸さないだろうけど、アタシがって、そう言えば貸してくれるよ」「アタシが? アタシは、アタシ?」「女房のおみつが、って言うんだよ!」

おみつが考えた作戦は、まず五十銭借りて、それで尾頭付きの魚を買って、大家のセガレの婚礼の祝いに行き、お礼に一円くらいくれるだろうから、そこから五十銭を山田さんに返して、残った五十銭でご飯を買おう、というもの。ところが甚兵衛さん、借りた五十銭で魚屋からアワビを買ってきた。尾頭付きの鯛は五円もするからだ。魚屋は「あの大家はアワビが好きだから」と好意で売ったのだが、おみつは「本当は婚礼にアワビは縁起が悪いんだけど…」と困惑。

それでも仕方なく、おみつは甚兵衛にお祝いの口上を何とか覚えさせ、大家のところへ行かせるが、甚兵衛さんは全然マトモに口上が言えず、挙句の果てに「五十銭借りて大家にお祝いを持っていって一円もらう」という女房の作戦を大家に明かしてしまいそうに…。

J亭には二度目のゲスト出演となる柳家三三。この『あわびのし』という噺は、大家が「こんなモノ受け取れない!」とアワビを突き返し、その顛末を聞いた鳶頭が怒って甚兵衛さんに啖呵を教えてもう一度、大家のところへ行けと知恵をつける、という後半があるのだが、今日の三三は大家のところで甚兵衛さんが「口上が言えなくてアタフタする」ところまでで終えた。三三ならではの「ブッ飛んだ甚兵衛さん」のキャラが実に可笑しい、爆笑編の『あわびのし』だった。


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立川談笑『鼠穴・改』

談笑のトリネタは古典の大ネタ『鼠穴』を現代版に作り変えた、改作落語。田舎から出てきた兄弟の物語を、談笑は中国福建省から日本に来て一旗上げた兄とその弟による現代の物語に変えている。

「社長、福建省から弟のチク(竹)さんがいらっしゃいました」「おお、チクか!」「兄さん、お店、大きいね」 兄は日本のパスポートを「買って」福建大飯店チェーンで大成功を収めている。観光ビザで来日した弟は「団体旅行ではぐれた」と言いながら、実は兄を頼って日本で金儲けしたいと思って出てきている。『鼠穴』と同じく兄は「使用人じゃダメだよ、自分で事業やらないと」と商売の元手を貸してくれる。だが、「使い込むなヨ」と言って渡してくれたのは、現金30円。この兄の仕打ちへの怒りをバネに、30円を元手にのし上がろうとする竹。

盛り場に行けば何とかなるかと新宿に行き、多くのホームレスを発見。「アイツら、どうやって生きているんだろう」と、ホームレスの行動を追いかける竹。中央公園の炊き出しに並び、空き缶集めが金になるのだということを知って、30円でビニール袋を買い、新宿末広亭の横の自販機がズラッと並んでるところで空き缶を集めて中野に運び「10キロで50円」。その繰り返しの中、大久保駅で自転車が「たまたま捨ててあった」のでそれを入手して効率アップ、5万ほど金が貯まった頃に新大久保駅の裏で「たまたま」軽自動車を手に入れると、中華鍋・庖丁・俎板などを揃えて無免許で移動中華料理屋を。朝は職安通りで中華粥、昼はオフィス街で中華弁当、夕方は住宅街で点心類を売り、夜はラーメン屋。夜中にはオカマバーの手伝いまで。 

寝る間も惜しんで働いて、百万円貯めて新大久保でアパートを借り、プロバイダー事業を開始。中国から一時的に来ている人達相手の商売は、「携帯電話の貸し出し」業も大いに重宝がられ、福建出身者の華僑社会とのパイプも出来て無尽のようなシステムにも参加、どんどん成長して、3年経った今では六本木ヒルズで4フロア占拠する世界有数のIT企業「ハードバンク」に。プロ野球の球団も所有し王監督を迎えている。

古典の『鼠穴』と同じく、兄に元手を叩き返しに行く夜に事件が起こる。日本で儲けている竹に対し、本国政府から「寄付しろ」と強力なプレッシャーが掛かっている、というのが伏線に。兄のところへ向かおうとする竹、番頭格の部下に「うちの使ってる中国製のウィルス対策セキュリティソフトには問題がある。孫悟空という、中国政府が極秘に開発したウィルスが侵入できるよう、小さな穴(マウスホール=鼠穴)が空いているので、必ずマカフィ(米国製ウィルス対策ソフト)に変えておくように更新しておくように」と言い残して出る。

店長が出迎え、「チクさん! お久しぶりです!」「4年ぶりだよ! よく覚えてたネ!」と言いつつ、兄のところへ行き、30円を叩き返す。4年前の仕打ちを恨んでいる弟に、兄は「オマエはあの時、元手があったらきっと遊んでた。中国から来ると皆、遊んでいいと誤解する。日本に来たら遊んじゃダメ! でもそれ、無一文になってから皆、気づく。ワタシ、オマエのスタートライン早めてやったよ」と弁解するが、竹は「それは言い訳だヨ!」と怒りを爆発させる。それに対して、涙まじりで真情を吐露する兄。「ずっと見てたヨ…朝から晩まで…空き缶集めてるところからずっと…おまえの結婚式には出なかったけど、姪が出来たのは知ってるヨ…すぐに奥さん亡くなったときも、外から見てたよ…恨んでもいいケド、許してくれ」「兄さん、見てた?」「見たヨ。オマエはワタシのタカラモノだよ! この30円は私達の宝物ダヨ…」「兄さん! 兄さんがいなければ今のハードバンクはなかった…」「わかってくれたか…」

仲直りした2人、中国人ならではの物凄い酒盛りが始まり、やがて弟は「もう帰る」と言い出すが、兄は「泊まっていけ」と引き止める。「でも心配ヨ。中国政府から目をつけられてるから。お金出さないから、潰される」「つぶれたら兄さんのチェーン店、全部やるよ! 日本全国36店舗、オマエが社長だ! 兄さんが副社長になるヨ!」 結局、引き止められて、夜更けまで呑み続ける。

夜中、竹がふと目覚めると、携帯にずっと着信が入ってたことに気づく。慌てて会社に戻ると「うちのサーバーが全部ダウンした!」と大騒ぎに。東京だけでなく、名古屋も、大阪も総てコンピュータが誤作動してどうにもならないという。「電源をオフにしても何故消えないか? ウィルスではないのか!?」 そして、竹は気づく。「中国のサイバーテロだヨ。セキュリティソフト交換したか!?」「…あ、いえ、交換しておけと指示して…」「オマエがやったのか訊いてる!」「いえ…」「やっとけと言ったヨ!」

「末端のコンピュータはどうでもいい。メインのホストサーバー、3台あるヨ。それさえ残れば…」と言ってるうちに1台のハードディスクが「ギギギギ…パン! プシュー」と白い煙を上げて壊れた。そして、2台目、3台目も…「全部やられた」 そこへ、突如社内のスプリンクラーが一斉に作動して水浸しに! そして、消えていたはずの総てのパソコンのモニターに真っ赤な文字で「人民への裏切り者に鉄の制裁を」の文字。「今、何時だ?」「ちょうど12時です」「今日は10月1日…中国の建国記念日だ…わが社の財務は!?」 真相に気づいて竹が愕然とする。「あーこれ、ウィルスでもサイバーテロでもないヨ! ハッキングだ! この騒ぎに乗じて、私とわが社の資産、全部抜き去られたよ! ウチの資産ゼロだよ!」

「中国政府の制裁だヨ…みんな今までありがとう。中国の田舎から出てきて、夢見ることが出来た。泣かないで…ありがとう。また夢見るヨ!」 残った財産はベンツ一台だけ。どうにもならずに兄を頼る。ところが、娘を連れて訪ねた竹に、兄は冷酷な対応をする。「おい、チク! 新聞やテレビでハードバンクの会長が失踪したってオマエを探してるヨ!」「兄さん…一文無しになったよ。兄さんのところでワタシ使って!」「ダメだよ!」「もしもの時は社長にしてやると、あの晩…今がソノときだよ!」「ナニを言う、この会社ワタシのものだヨ! 覚えてないヨ」「だって兄さん、自分は副社長でいいと」「言わないヨ。オマエ、中国共産党に付け狙われてるんだよ。オマエがいると迷惑だヨ。オマエ、自分でいい思いした、そのシッペ返しだよ。いいコトあれば悪いコトあるよ。私知らないヨ!」 そんな兄を指差し、竹は幼い娘に言う。「中国の古い話に鬼が出てくる…コレが鬼だよ!」

兄に追い返された父娘。「こうなったらオマエの母さんの…上海の人たちに頼るしかないネ」と、亡き妻の親戚のところへ。福建華僑の隅々まで中国共産党の目が光っているが、妻は上海出身で、福建華僑とは違う世界の住人だったので、そっちの助けを借りられないかと思ったのだ。「ここで待ってなさい。このあたり危険だからしっかり鍵かけて」と車の中に娘を残して、上海のオジさんのところへ。しかし、ここもまた冷たい。「何しに来た! 来られると迷惑だヨ!」と追い返される。

車のところに戻る…と、車が無い! 「ココにあった車知らないか!?」「あ? 誰か乗ってったけど? 中で女の子が泣いてたね。持ってかれちゃったよ。この辺、危ないんだよ、子供とかよく売りとばされたりするんだ。臓器とか売られたり」「ワタシの娘が! ハナコ! ハナコ!」 絶望する竹、「弱いお父さんでゴメンよ…」と首をつる…。

「おいチク、起きろ」「あっ! 鬼!」 今はあの晩で、サイバーテロも何も起こっていない、酔っ払って寝て夢を見ただけだ、と納得するまでしばらく掛かるが、やがて竹は夢での出来事を兄に話す。「…それとても不幸な夢だな。一時間掛けて夢オチとは許せない。でも火事の夢は燃え盛るって言うから、夢は土蔵(五臓)の疲れだ」と、いきなり古典のサゲを言う兄。「お兄さん、それ、何の伏線も無いよ!」「そうだな。それにしても一番危ないのはそのウィルスだ。孫悟空だ」「ああ、孫悟空は三蔵の使いだヨ」

『お血脈』『松曳き』『ジーンズ屋ゆうこりん(紺屋高尾・改)』

平成22年11月26日に桃月庵白酒を招いて開催された「花鳥風月 風・Part 3」のお題3本を広瀬和生さんの解説でお届けします。


立川談笑『お血脈』

その昔、お釈迦様が開いた仏教が天竺から日本にやって来たとき、時の権力者、守屋の大臣(おとど)は「わが国には相応しくない」とこれを弾圧、一寸八分のプラチナの仏像を叩き潰そうとしたが、どうやっても潰れないので阿弥陀ヶ池に捨てた。後にこの池を通りかかった本多善光という侍が仏像の呼びかける声を聞き、拾い上げた仏像の「余は信州にまかりこしたい」という言葉のとおり信州に運んでお祭りした。これが「善光寺」の由来。

この善光寺の名物が「御血脈の印」。この御印を額にいただくと、どんな悪人でもすべての悪行が消滅、必ず極楽へ行けるというもの。これが大変な人気を呼び、地獄へ落ちる者がいなくなってしまった。寂れる一方の地獄の閻魔大王はこの状況に弱り果て地獄会議を開いたところ、「地獄の亡者の中から大泥棒を選んで善光寺に忍び込ませ、血脈の印を盗み出させれば良い」との結論に達した。

選ばれたのは地獄のスパゲッティ屋で釜茹でを担当していた石川五右衛門。五右衛門は「いと易きこと」と娑婆へ行き、居酒屋巡りなどして時間を潰して夜中になるのを待ってから善光寺の宝蔵に侵入、まんまと盗み出したまではよかったが、何しろ芝居がかったことの大好きな五右衛門、「奪い取ったる血脈の印、これさえありゃあ大願成就、ありがてぇ、かたじけねぇ」とこれを額にいただいたものだから、そのまま極楽へ行っちまった…。

善光寺の由来を長々と語る導入部や地獄の描写などの「地の語り」で各演者の個性が発揮される「地噺」の傑作。談笑がこれを演るのは珍しい。


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桃月庵白酒『松曳き』
そそっかしい赤井御門守という殿様と、それに輪をかけてそそっかしい重臣の田中三太夫。ある日、殿様が屋敷で三太夫を呼び出した。「お召しにございますか」「何ヤツじゃ!?」「田中三太夫でございます」「して何用か」「いえ、殿ご自身がお呼びで」「そのとおりだ、うろたえるな!」

殿様が三太夫を呼んだ理由は、「庭の松が月見の邪魔だが、先代お手植えの松ゆえ枯らすわけにはいかん。枯らさずに泉水べりに移せないか」というもの。

「餅は餅屋と申します」「では餅屋が松を移せるのか」「はい。あ、いえ、餅屋はたとえ。植木屋でございます」「そうか植木のことは餅屋か」などという会話の果てに、三太夫は「餅屋! 餅屋!」と植木屋を呼び、植木屋が来ると「曲者じゃ、出会え!」と大騒ぎ。植木屋だと言われて「餅屋ではない! 植木屋じゃ、タワケ者!」と怒り出す。そんなドタバタの果てに殿様の前に出た植木屋の八五郎に、殿様は「よいか八三郎」「では八十郎」「して富十郎」「団十郎」とまるで違う名前ばかり連呼。「ひょっとして全部あっしのこと?」と戸惑う八五郎だが、枯れずに移せることを赤井御門守に教える。

喜んだ殿様が酒を振る舞い、八五郎たちに「無礼講じゃ」と飲ませていると、三太夫の屋敷から遣いが。急ぎ戻ると国許からの手紙。「何も書いてないぞ!」「裏返しでございます」「何? …裏返しじゃ、落ち着け! 何!? 姉上様御死去! 何をこれへ持て! ナニじゃ! 上と下じゃ!」「…カミシモなら既にお召しでございます」「そうだ! うろたえるな!」 三太夫は殿様のところへ戻り「殿の姉上様が御死去あそばされました!」と報告。「何! 姉上が亡くなったというのにこんなところで勝手に酒など飲んでおって無礼者! 手討ちにいたすぞ!」と植木屋たちを追い払う。

姉上はいつ亡くなったのだと訊かれて答えられない三太夫は再び屋敷に戻り、書面を改めようとするが、「手紙が無い!」と大騒ぎであちこち探す。「畳の裏はどうじゃ?」などと言ってるうちに、自分の懐に入っているのを発見した三太夫「懐に入っておって判らんとは何事じゃ!」と家来を叱る。「薄墨で書いてある」「ですから裏返し」「そうじゃ! 何…御貴殿姉上…御貴殿とは誰じゃ! 貴 様か!」とうろたえる三太夫。殿様の姉ではなく、自分の姉が亡くなったことを知らせる手紙だった。重大な間違いに気づいて「かくなるうえは一服してお詫びを…何故煙草盆を出す!? 一服じゃ!」「ですから煙草…」「そうではない、九尺二間…ではない九寸五分!」

先走ってはいけない、殿様にお話してからでも遅くは無いと三太夫の家来が説得する。「なるほど、確かこういうことを『名物に美味いもの無し』とか申したな」「…全然違います」 切腹覚悟で殿様の前に出る三太夫。殿様は「何たる粗忽! 顔も見たくない! 切腹じゃ!」と怒りまくるが、はっと気づいて一言。「まて三太夫、切腹には及ばぬ。余に姉はおらん」

1992年に五街道雲助に入門、20059月に真打昇進した桃月庵白酒は、今最もホットでエキサイティングな若手真打だ。良く通る声と卓越したテクニックで語る白酒は「羊の皮を被った狼のような古典」の使い手だ。白酒の現代感覚に満ちたセンス抜群の滑稽噺は強烈な破壊力を持ち、マクラで吐く毒の強烈さと共に、いまや人気はうなぎのぼり。今回披露した『松曳き』は粗忽な人々を描いた滑稽噺で、真面目な顔をして真剣に言ってることが総てトンチンカンな殿様と三太夫の二人の粗忽者を大暴れさせる、素敵な爆笑落語。鷹揚で突き抜けている呑気な粗忽者の殿様と、常にアタフタ気ぜわしく勘違いを繰り返す慌て者の三太夫の会話のバカバカしさ。特に三太夫の逆ギレ系リアクションがたまらなく可笑しい。白酒オリジナルのギャグを大量にブチ込んだ大傑作だ。

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立川談笑『ジーンズ屋ゆうこりん(紺屋高尾・改)』



岡山県倉敷市は繊維の町。その中で児島はジーンズ業界の最先端。ダメージを付ける技術は倉敷児島が世界でトップクラス。この児島の工場でジーンズにダメージを付けている職人・久三(きゅうぞう)が、ある日から寝込んでしまい、今にも死にそうだという。心配した社長がわけを訊くと、「アイドルの小倉優子に恋わずらい」だという。「ちょっと会えるだけでいいんです」と言う久三に社長は「芸能人なんて金出しゃ呼べるよ」と忘年会に呼ぶ交渉の電話を事務所にかけたものの、賀やらが高すぎて断念。「じゃあ、たとえばこちらから『東京の、指定の場所に出かけていって、会って話をするだけなら?」と尋ねると、それには七百万円かかるという。それを聞いた久三は、「月の手取り二十万で三年分が七百二十万、今から三年かけて七百万円貯めます!」と、その日から工場の隅の小屋に住み、食事は給食のオバサンにおにぎり恵んでもらったりしながら見事に三年で七百万円貯める。

「ただ金持ってっても、ジーンズ工場の職人じゃ会えない。久三、オマエのホントの仕事は隠して…」「あいよ、あいよ、って?」「違うよ。六本木ヒルズのIT企業の社長ってことで、広報誌用のインタビューってことにする。手袋外すんじゃないぞ。インディゴブルーに染まった手…それはジーンズ工場でダメージつけてる職人の手だ」「何で藍色って言わないんです?」「何となく元ネタに近づいちゃうから」

社長の機転でマネージャーに席を外させ、二人っきりでゆうこりんに会った久三だが、何も言えないまま時間切れ。「バイバイりん♪」と去ろうとするゆうこりん、ふと久三の顔を見て「…泣いてるんですか、社長さん?」 すると久三、真相を明かす。

「七百万円取ってるなんて知りませんでしたけど…」と、シリアスな口調になって話し始める小倉優子。「私は、あなたが一生懸命貯めた七百万円をもらう価値のあるような人間じゃありません。リアルな私を見てください。あなたのリアルな七百万円を払う価値はありません。厭な話もたくさんあります。私はお金儲けの道具なんです。したいことも出来ない。こんな芸能界に居ても意味が無い。誰も私の中身を見てくれないのは哀しいことですね。あなたも皆と同じ、私の外見しか見ていない」

それを聞いた久三、「ジーンズは、真っさらなモノより、穿き古した、ダメージのあるジーンズのほうが価値があるんですよ」と返す。「テレビのあなたは真新しい、ダメージの無いジーンズ。素顔の貴女はダメージがある、だからこそ素敵な、価値のある人だと思います。十年後、二十年後、三十年後でも、引退したら、俺の嫁になってください!」

「こんな私でも結婚できるのかな…もらってくれる人、いるのかな…」
「ここにいます! ください!」
「あげます! もらってください」
「本当に?」
「来年三月、私の契約が切れます。そしたら私をお嫁さんにしてください。…嘘だと思ってるでしょ? あなたが本当のことを言ってくれたから、私も嘘はつかない。その証拠に……」
「あっ!? うわっ…ああああ」

「さ、いくぞ久三。どうだった? ちゃんと話したか?」「…らいねんボクとゆうこりんは、けっこんすることになりました…そのしょうこに、こんなことをしてくれました…」「しょうがねぇな、バカになっちゃった」 社長は、ボーッとしている久三を連れて、倉敷へ帰る。久三は工場へ帰って「来年三月十五日にゆうこりんが来る」と毎日一生懸命に働き続ける。

その、三月十五日の前日。「明日ゆうこりんが来なくてもガッカリするなよ」と社長が言い聞かせる。「本当です! でなきゃ、あんなコト…」「本当にそんなコトがあったとしてもだよ、所詮、オマエは職人なんだよ。もうやめようぜ、その『三月十五日』っての。悲しすぎるぜ。来ねぇよ! オマエは七百万ドブに捨てて、いい夢見た。それだけだ」

「俺だってわかってますよ! 来ませんよ!」と叫ぶ久三。泣いている。「俺が一番よくわかってます…こんな田舎の、こんな工場の職人の嫁にあの人が来るわけないって…でも、彼女の言葉を信じたいじゃないですか! 明日まで信じてちゃいけないんですか!」

三月十五日、全スポーツ紙の一面を飾った「小倉優子、電撃引退!」のニュース。「結婚のため引退…お相手はかねてより噂のプロ野球選手と思われ…」と書かれている。それを見ている久三の同僚たち。「久三に見せるな、隠せ!」 …そこにやって来たのは、真っ白なTシャツと真っ白なジャケット、下にはボロボロのジーンズという姿の小倉優子。ジーンズは、久三が会いに行った日に手土産に渡したものだ。「きゅうりん、来たよ♪」「信じてました! これからは俺がキミにとってのこりん星だ!」「大切にしてね」

「そのジーンズ、随分ダメージ付いたね」「あの時から毎日穿いてた。嬉しいときも、悲しいときも…死にたいと思ったときも」「生涯掛けて、おまえというジーンズを穿き潰してやるぜ!」 二人が新たなジーンズショップを立ち上げて、久三の名前を取って『Q3』というブランドで世界的な成功を収めたのは半年後のこと。アイドルに、誠なしとは誰が言うた…「紺屋高尾改めジーンズ屋ゆうこりんの一席で、お時間です」

紺屋の職人が花魁に恋をした『紺屋高尾』は立川談志十八番として知られる人情噺の傑作。これを談笑は、現代のアイドルとジーンズ職人との噺に置き換えた。なお、登場する人物名はすべて架空のもので、実在の人物と一致していても、それはあくまでも偶然である。(笑)




『鉄拐』

昨年10月29日に立川志らくさんもお招きして開催された「花鳥風月 風・Part 2」の3題を広瀬和生さんの解説でお届けします。

立川談笑『鉄拐』

上海の大店「上海屋」は、創業記念日に派手な余興を見せることで有名だが、何年も続けているうちにネタが尽きてきた。困った上海屋の主人、唐右衛門は、芸人に詳しい番頭の金兵衛に「旅に出て珍しい芸人を探して来い」と命じたが、そうそう珍しい芸人なんているものじゃない。あてどなく旅を続ける金兵衛、気が付くとどこかの山奥にいた。水墨画のような風景が何とも素晴らしく、心地好い調べが聞こえてきて心が軽くなる。次第に夢うつつになってきた金兵衛は、一人の老人に出会う。「死神さん!?」「それは噺が違う。ワシは仙人だ。名は李鉄拐。ここは仙境じゃよ」「入船亭?」「それは扇橋」

鉄拐仙人に何が出来るか訊くと、身体から魂だけ抜け出て浮遊できるという。「今の身体は本当のワシではない。魂を浮遊させて遊んでいたら、死んだと思ったバカな弟子が身体を火葬してしまったのだ」「バカですね。何て弟子?」「キウイ。それでワシは乞食の身体に入った。だからこんなに小汚い」「魂が抜け出ても、それ、観てて面白くないですね。何かもっと、派手な芸は?」「ワシは芸人ではない! だが、それなら一身分体の術というのがあるぞ。ワシの身体の中からもう一人のワシが出てくる。そして己と己で会話し、己で楽しむのじゃ」「自分でやって自分で楽しむ…ナルシストのオナ ニー?」「腹は立つが、そうじゃ」 やってみせる鉄拐。口からスーッと、もう1人の鉄拐が出てきた。「おおおっ! 凄い!」


「素晴らしい芸だ! 感動で胸が苦しい! この幸せを人々にも分けてあげたい! 癒される!」と、おだてまくる金兵衛。「私と一緒に上海へ行きましょう。都会の人たちを救ってください! みんな、幸せを求めてさまよっているんです」 下界は汚くてイヤだという鉄拐を説得する金兵衛。「わかった。行ってやろう。さあ、目をつぶって、この杖につかまれ」「目を開けたら一面にロウソクが…?」「その噺から離れろ!」 修業の1つでテレポーテーションを身につけたという鉄拐、金兵衛と共に瞬間移動で上海屋へ。

いよいよ創立記念日。観客の前に現われた鉄拐は、もう1人の鉄拐を口から出すと、出てきた鉄拐が元の鉄拐を飲み込むという大技を披露、観客は拍手喝采! 「…声が出ない。これがドキュメント」と立川談志のような鉄拐。あちこちから「来てくれ」とオファーが殺到する。「村祭りの余興? いいよ、行ってやろう。オマエの村の連中を喜ばせてやる」 やがて、寄席からも声が掛かる。「寄席はイヤなんだよなぁ…汚いし、臭いし…セコいんだよ」「詳しいじゃないですか」(笑)

あっちの寄席、こっちの祭りと掛け持ちし、コマーシャルにも出演、CDや本も売れまくる。次第に贅沢を覚え、増徴して「コイツが出るなら俺は出ないよ」と寄席の香盤にも口を出すようになり、「不愉快だから帰る」なんてことも。大勢の弟子をゾロゾロ連れて、弟子からは上納金を取って…。これはかなわんと、プロモーターたちは桃源郷へ別の仙人を探しに行く。出会った仙人、瓢箪から馬を出すという特技を披露。「瓢箪から駒というのはここから来た」「あなたの名前は?」「張果老だ」


張果老は上海に出てくると、「瓢箪から駒」の芸でたちまち人気者となる。張果老は馬を出すだけでなく、出てきた馬が龍に変わって客席の上を廻りだし、その龍ごと客席の皆を腹の中に吸い込んで、客だけ吐き出す、という派手な大技を披露。張果老が大評判になると同時に鉄拐人気は急降下。「金兵衛、面白かったよ、世話になったな。オレは、これまでの数千年の人生を見つめなおしてみたい」 そう言って鉄拐は張果老の楽屋に忍びこむ。瓢箪に吸い込まれてしまった鉄拐は、これまでの数千年の人生を思い、下界に出てきて自分の発言が人々に支持され、人気者となった華やかな日々を見つめなおした。

しばらく経って、ある日の上海の街角。通行人が、道端に座っている汚い老人を見て言う。「あなた、鉄拐さんでしょ? オレが子供の頃、本とか書いて人気があった…」「ああ」「やっぱりそうだ! 流行りましたよね、あの一身分体って! 今はどこで何を演ってるんですか?」「何を演ってるでもない。俺は鉄拐ではない、昔鉄拐と言われた男だ。もう芸はやらない。ああいう術を使うのは飽き飽きした」「じゃあ、今は何を?」「己のこれまでを考えているようでもあり、ここに居ながらここに居ない者のことを考えているようでもあり、座ってるようでもあり…」

「今まで演った芸で一番凄かったのは何です?」「宇宙のすべてを瓢箪から飲んだ。今、すべてがこのオレの腹の中にある」「え?」「この世のすべてがオレの腹の中にあり、それは瓢箪の中でもあるかもしれない」「芸は演らないんですか?」「オレはもう鉄拐でも何でもない。静かにこのままここに居させてくれ」「そうですか、でもお話できて嬉しかったです。ありがとう鉄拐さん…あ、鉄拐じゃないのか。じゃ、何と呼べば?」「そう…松岡克由カツヨシとでも呼んでくれ」

立川談志十八番『鉄拐』を、談笑は後半をまったく変えて独自の演出で演っている。ちなみに「松岡克由」とは談志の本名だ。

立川談笑『鉄拐』(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 風・Part 2」より)


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立川志らく『反対車』


上野駅まで急いでいる男、人力車で行こうとして車屋を呼び止める。「万世を渡って上野まで!」と告げると、車夫は「マンセイってのは朝鮮語でバンザイのことですね。バンザイが日本で始まったのは明治22年に日本国憲法が出来た時なんですよ。万世橋の歴史は延宝4年に架けられた筋違橋(すじかいばし)が始まりで、明治になって石材で作り直されて日本最初の石橋に…」「そんなウンチクどうでもいいから!」

花火の玉屋・鍵屋の話、左ト全の『老人と子供のポルカ』の歌詞など、ウンチクばかり語っていっこうにスピードが上がらない車屋。「歌でも唄いましょうか」と『悲しい酒』のメロディで『サザエさん』の歌詞を唄ったり、『勝手にしやがれ』のメロディで『舟歌』の歌詞を唄ったり。「もういいよ!」とウンチク車夫の人力から降りて次の車屋を探す。次の車夫はやたら速いのが自慢。「オレの特技は一つの所でグルグル回ってバターになることです! さ、いきますよ! あらよっ! あらよっ!」と猛スピードで疾走する。「サービスに口太鼓やりましょうか? 三平の出囃子とか」

疾走する車夫、さらにサービスで『ハンガリー舞曲』を口ずさみながら、それに併せて人力を操るという芸も披露。やがてこの車、一ヵ所をグルグル高速回転し始めて…。「あ! 車屋がバターになっちゃった!」 するとそこにさっきのウンチク車夫が来て「お客さん、『ちびくろサンボ』ってのはね…」「オマエは出てくるな!」

今回のゲストは立川志らく。「前座時代の談笑(当時は「談生」)の才能をいち早く見出したのは私」と常々言っている、立川流の兄弟子だ。(ちなみに志らくも『鉄拐』を独自の演出で得意ネタとしている) 志らくは2010年の中頃から「クレイジー落語」を標榜しているが、「J亭」で披露した『反対車』は、彼自身「今年の収穫の1つ」としている、クレイジー落語の傑作だ。

立川志らく『反対車』(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 風・Part 2」より)


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立川談笑『子別れ(下)』


「お疲れ!」「お疲れ様です!」「オート三輪、ちゃんと満タンにして返しとけよ」「ハイ!」 とある建築会社の社長と社員たちの会話だ。「社長、このあと、来年からの新しい現場をちょっと一緒に見に行って欲しいんですよ。仕事請けようかどうしようか迷ってるんで」「いいけど、おい、テツ、おめぇ早く帰って子供風呂に入れてやれ。今いくつだ」「3つです」「可愛い時期だ、今よくよく見とかないと後悔するぞ」

「トラック戻しときますから、社長」「おい、2人っきりのときは昔どおり、アニキでいいよ」「じゃあ、アニキ…あの子、亀ちゃんでしたっけ、あれから会ってないんですか?」「ああ、会ってない。母親も子供も、どこでどうしてるんだか」「アニキのこと『ウルトラマンだ』って言ってましたねぇ。思い出しませんか?」「思い出さない日はねぇよ。今は3年生くらいか…」「またカミさん持つ気は?」「もう懲りちゃったよ。二度だからな。オレは人を幸せにしてやれないのかもな。二度目のあの女、あれとデキて女房と別れたけど、家庭に入る女じゃなかったな。若い男作って出て行きやがった」 鰻屋の前に差し掛かる。「ここで明日、寄り合いですね」「ああ、明日は鰻だ。家族も連れて来いよ。それにしても、このあたりは昔住んでたところだから、ちょっと決まり悪いな…懐かしいけど…」「小学校ですね…あ! あの子、亀ちゃんですよね?」「えっ!?」

「嘘つき!」「嘘じゃないよ、父ちゃんが霞ヶ関ビル建てたんだ!」「母ちゃんと二人暮らしのクセに!」「外国で高いビル作ってるんだよ!」「嘘つき! オレたち3人でキングギドラ攻撃だ!」「ゴジラの方が強いもん!(泣)」「嘘つきーッ!」「嘘じゃないもん……嘘じゃないもん……」 嘘つき呼ばわりされてイジメられていた男の子に声を掛ける社長。「よお」「あ…!」「わかるか、覚えてるか?」 語りかける父に無言でうなずく亀。「大きくなったな」「……」「甘いもんでも食うか?」「……」「ケンカ、強くなったな」「……」父の問いかけに総て無言でうなずく亀。目はジッと上目遣いで父を見つめている。「あんみつ食うか? クリームあんみつ!」 無言で同意する亀。

「食え。大きくなったな」「……」「お父ちゃん、元気か?」「……(うなずく)」「優しいか?」「……(うなずく)」「お父ちゃんのこと好きなのか」 上目遣いでうなずき続ける亀。「そうか、当たり前だな…何か買ってくれたりするのか」「…クリームあんみつ」と、ここで亀が初めて口を開く。「いや、今のお父ちゃんだよ」「今のなんていないよ。お父ちゃんはお父ちゃんだよ」「あ、そうなのか!? そうか、2人で…大変だな」「ホントに大変だよ」[すまなかったな。いろいろあって…でもオマエのことはかわいいと思ってる]「バカ女と一緒にいるじゃないか!」「…バカ女って呼んでるのか。いや、もういないんだ。幸せにしてやろうと思ったけど、してやれなかった。もうずっと一人だ。もう結婚しない。だから、お父ちゃんの子供はオメェだけだ」

「え、もうバカ女いないの? なーんだ、先に言ってよ、先に!」 急に表情が変わって饒舌になる亀。「ねえ、ウチすぐそこだからさ、ウチに来なよ! 喜ぶから」「いや、喜ばないな。お父ちゃんはオメェのおっかさんに許してもらえないようなことをしたんだ。大人のことなんだよ…泣くな泣くな」「お母ちゃん、いつもお父ちゃんの話するよおかあちゃんのこと嫌い?」「いや、過ぎた女だと思ってる。あんな素敵な人の人生を踏みにじっちまった」

「お父ちゃん、社長なんだ。ほら、財布」「すっげぇ! 石油でも掘り当てたの!?」「鳶の職人だよ、相変わらず。今は池袋のサンシャイン60ってビル作ってる」「霞ヶ関ビルも作ったんだよね!」「ああ」「お父ちゃん、ウルトラマンなんだもんね!」「あれはテツが『お父ちゃんは巨大化して飛べるんだ』って…」「すごいね、大金持ちなんだ」「小遣いやろうか」「へっ!? 伊藤博文! そんなもの受け取れませんよ!」「何買ってもいいから」「じゃあ、ウルトラホーク1号のプラモデル! みんな持ってて、オレだけ持ってないんだ…それとも、青い色鉛筆とか言ったほうがいいのかな?」「何のことだ? 亀、明日、鰻食うか? 鰻、好きか?」「わからない、食べたことないから。いつも鰻屋の前通ると、いい匂いがする」

「お小遣いと鰻のことは、お母ちゃんには内緒だ」「何で?」「大人の事情だ、わかってくれ。男と男の約束だぞ。指切りしよう」 ♪指きりげんまん嘘ついたら針千本のーます、と約束する父子。「行きな、日が暮れる」「ねえ、ゴジラとガメラ、どっちが好き?」「ゴジラだな」「だよね! じゃあ、王と長島は?」「長島」「だよね! 銭湯、下駄箱3番だよね! じゃあドリフの中で…」「もういいから!」

帰宅した亀、ラqンドセルを放り投げて、テレビの前に。「ちょっと、これ、どうしたの?」と、母が見つけたのは、ランドセルの中のウルトラホークのプラモデル。「テレビ消して! ここに座りなさい! これ、どうしたの? お金は?」「買ってもらったの」「誰に?」「…お金拾ったの」「一緒に謝りに行こう。万引きしましたって」「盗んでないよ!」「なんでこんなことを…」と泣き出す母。すると亀、泣き声で叫ぶ。「お父ちゃんにお小遣いもらって買ったんだ!」「え?」「お父ちゃんと会ったんだよ」「…本当に?」「本当だから針千本ちょうだい」 泣いている亀に、母は優しい声で話しかける。「そう…辛かったね」

「お母ちゃん、お父ちゃんのこと、嫌いなの?」「うーん……好きだった」「今は?」「……ちょっと、今のオマエには難しいかな。ごめんごめん、泣くな」「プラモデル作ってもいい?」「私には色々あるけど、お父ちゃんの子供ってことに変わりはないんだから。それで、久しぶりに会ってどうだった?」「いいこと教えましょう。バカ女はもういません!」「また仕事もせずに…」「ううん、お父ちゃん社長さんだよ! 趣味の悪いワニ革の財布に一万円札ビッシリ入ってた。だから…」「昔は好きだったけど、もう違うの。ハシャぐんじゃないの! 大人の世界はそんな簡単なもんじゃないの」

「明日のお昼、お父ちゃんと鰻食べてもいい?」「わかった」「一緒に行こう! 他の人たちも家族で来るって」「行かない。オマエの前でケンカしてる姿、見せたくないから」「お父ちゃんはお母ちゃんにとって何?」「もと夫。身内か他人かっていったら他人」「じゃ、よその人に鰻ごちそうしてもらうのにお礼言わないの?」「……」

翌日、鰻屋の二階で社員を待つ社長。そこへ亀がやって来る。「お待たせ!」「お、来たな! オメェ来たのはいいけど、みんな遅いな。まだ誰も来ない」「みんないないうちにスペシャルゲストが」「誰だ?」「わかりそうなもんでしょ」「ああ、来たのか…」「いい?」「ああ」「お母ちゃんスゲェんだよ、朝から化粧しちゃって!」

3年ぶりに、もと妻に再会する社長。「あの頃は、色々とすまねぇことを」「この子がお世話に……」「オレの子だからな」「もしまた気が向いたら、またごちそうしてあげたりしてください。じゃあ私これで失礼します」「えっ? お母ちゃん帰っちゃうの!?」「ごあいさつしましたから」「お母ちゃんと一緒に鰻食べたい!」「ダメです…離しなさい!」「(号泣)お母ちゃん、帰っちゃイヤだ!」「ゴメンね、泣かなくていいから」

「悪いのは俺なんだ。辛い思いをさせたこと、俺は忘れちゃいねぇから。どうかな…子はかすがいっていうし、こんなこと言えた義理じゃないけど、これを縁にヨリを戻すとかって…」「ありません!」 キッパリと言いきる母は、泣いている。すると亀が泣きながら叫ぶ。「お母ちゃん……お父ちゃんと一緒にいたいよ!!」

「今日、明日で気持を切り替えろと言われても…」「わかる! わかるよ。だから、たまに3人で会って、食事でもして……すまない! あの頃のこと、今までのこと、このとおり……」「手をついて頭下げるようになったんだね…」「また俺と……こいつのために……」「じゃあ、たまに会って食事くらい」「うん、そこから始めてくれ」 二人のやり取りを聞いていた亀が「いいんだね! じゃ、握手!」と間に入る。「何だよ、照れくせぇな……それにしても遅いな、アイツら」

「皆さーん、入ってきてくださーい!」と亀が叫ぶと、社員たちがゾロゾロと入ってくる。「な、何だオマ エら! 後ろに金屏風なんて立てて、拍手なんかしちゃって! どうした……あ、テツ、あれはてめぇの了見か?」「社長、絵を描いたのは亀ちゃんなんですよ!」「あ! 言っちゃった! 針千本!」

「あのサンシャインの現場にこの子が来ましてね、『テツさんだよね?』って…。何でわかったのかって訊いたら、『高い建物たててる場所に行けば、いつかお父ちゃんに会える』って、東京中の建築現場を探してたって……亀ちゃん、ランドセル作戦、うまくいったか?」「うん!」

「ヨリを戻したってわけじゃねぇんだ。これからまた始めていこうかなぁ…みたいな…まあいいか、とにかく乾杯!」「よろしく…」 大きな拍手。亀にテツが話しかける。「よかったな。やっぱりお父ちゃんはウルトラマンかい?」「ううん、もうウルトラマンじゃない」「じゃあ、今は何?」「帰ってきたウルトラマンだよ!」

『子別れ』という噺は「上・中・下」に分かれ、「上」は『強飯の女郎買い』、下は『子は鎹(かすがい)』と言われ、独立した噺として演じられることが多い。本来の『子別れ(下)』では母が子をゲンノウで殴ろうとする場面があり、「あたいが鎹? それでおっかさん、ゲンノウでぶつって言った」がサゲとなる。夫婦の会話や子供の反応に抜群のリアリティを感じさせる談笑版の『子別れ(下)』は昭和四十年代を舞台とした改作で、「どの辺の時代までが古典になり得るか」という限界点に談笑が挑戦した、とも言える。亀が歌うアニメの主題歌や観たいと言うテレビ番組など、細部の描写に懐かしさを覚える作品だ。ちなみに『帰ってきたウルトラマン』本放送は昭和46~47年である。

立川談笑『子別れ(下)』(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 風・Part 2」より)

『岸柳島』『お直し』『シシカバブ問答』

お待たせしました。
9月24日(金)に開催されました「花鳥風月 風・Part 1」3題を広瀬和生さんの解説でお届けします。

立川談笑『岸柳島』

ギュウ詰めの渡し舟。のんびり屑屋がタバコを吸っていると、侍が横柄な態度で乗り込み、周りに怒鳴り散らす。船頭が舟を出し、侍がキセルを取り出してタバコを吸い始めた…と、火玉を払おうと船べりでポンとキセルを叩いた弾みで、雁首が取れて川へ落ちてしまった。すかさず、「その吸い口を買いましょう」と近寄る屑屋。「屑屋ふぜいが無礼な!」と怒りだした侍は、屑屋を手討ちにすると息巻く。

その様子を見かねた老武士が「許してやってくだされ」と声を掛けるが、聞く耳を持たない。さらに別の若侍が仲裁に入るが、「2人まとめて斬り捨てる! そのあと、屑屋、キサマも無礼討ちだ!」 中洲に飛び降りて、老若2人の侍を待ち受ける雁首の侍。若い侍は老人に「先に行け」と押しやるが、老人は竿で突っ張って…「あっ、舟が作用・反作用の法則で、川に戻った! 兵法ですね、ご老体! さすが! ボーっとしてるのかと思ったら」「…死ぬかと思ったぁ~(泣)」


中州に取り残された侍に、悪態の限りをつく舟の上の町人たち。調子に乗って「そんな変なキセルなんかほしくないモーン!」と侍に向かって叫ぶ屑屋。すると、何を思ったか裸になった侍。「小刀を口にくわえると、ドボンと川に飛び込んだ!」「来るぞ!」「皆殺しだ!」「舟の上に現われた侍は斬って斬って斬りまくり、屑屋も一刀両断、ああ、哀れ…」「講釈師、やめろ!」「あ、すいません」「まだ水の中だよあの侍」「怖いよー!」

侍は潜ったまま…おそらくこっちへ向かってきている。怯え切って水面をみつめる、舟上の人々。すると水面にザバッと飛び出してきた侍が「雁首みつけたーっ!」


******************



立川談笑『シシカバブ問答』

バグダッド郊外、シシカバブ屋の店先でハッサンがシシカバブを焼いている。「おい! ハッサン」「なんです、アブドゥルの親方」「おまえ、いつまでもウチでシシカバブ焼いててもしょうがねえだろ」「でも、ビンラディンの親方が雲隠れしちまって」「一人で自爆テロでもやれ」「いや、あっしはそんな大看板じゃネェんで」

シシカバブ屋の親方は、居候のハッサンに、自分が後見人となっている古モスクの寺守りになれ、と命じる。「オメェの仕事はアザーンくれぇのもんだ」「出てこい…」「シャザーン、って違うよ! 1日に5回、お祈りの時間になったら村中に知らせて歩くだけだ」

モスクの寺守りに収まったハッサンは、アザーンそっちのけで寺男のハシュムッディーンと来る日も来る日も酒を飲んでドンチャン騒ぎ。と、そこにある日、旅の修行僧がやって来て、イスラム問答を挑んでくる。問答に負けると追い出されてしまうとハシュムッディーンに聞き、ハッサンが弱っていると、カバブ屋の親方がやって来て、「じゃあ、俺が修行僧に化けて問答やってやろう」と引き受けた。親方は問答なんて出来ないのだが、何と旅の僧は「まいりました」と退散してしまう…。

古典落語『こんにゃく問答』の改作。「不信心な仏教徒の噺を、不信心なイスラム教徒の噺に変えました」とは談笑の弁。


****** 仲入り ******




立川談笑『お直し』

年増になって売れなくなった花魁が、若い衆といい仲になった。本当はご法度だが、主人の計らいで二人は夫婦となり、二人は通いで店で働くことに。だが亭主は金が出来たのをいいことに博打にハマり、家に帰らず店にも行かずに休み続け、女房ともども店で働けなくなってしまう。久々に帰ってきた亭主。「博打はやめたよ」「遅いよ! もうウチん中、何も無いよ!」「すまねぇ」

「しょうがない、商売やろう」と女房。「でも何を? 俺達、この吉原でしか働けないだろ」「だから、私たちがやってた商売をやるんだよ」「店は?」「羅生門河岸に店だそう」「ケコロに!? よそうぜ」 ケコロとは吉原の最下層。「私が女郎になる」「あんなとこで、オメェが!? ダメだよ、俺が許さネェ」「じゃあ他にどうすればいいの! アタシだって、やりたかないよ!」「やりたくないなら、やめろよ」

「何だい! あたしが一番やりたくないよ、そんなこと!」号泣する女房。「すまねぇ…もう言わねぇ…オメェを泣かしたくないんだ…こんな亭主ですまねェ」 元は売れっ子の花魁だった女房が、「私たちが金を稼ぐにはもうこれしかない」と、切羽詰まった状況の中で自ら最下層の店で女郎となり、銭を稼ぐというのだ。「2人して、お天道さま見られるようになるまでの辛抱だ」

「じゃあ今日からやろう」と女房。「あ、でも若い衆を雇わなきゃねぇ」「それなら、俺がいるじゃネェか」「ダメだよ、アンタにゃ務まらないよ!」 ケコロは、若い衆のすぐそばで女が客に抱かれる場所。亭主に若い衆をやらせるわけにはいかない。だが、亭主は「俺がやる」と言ってきかない。「お前さん、やり損なって客逃がさないでね」「大丈夫だよ、この商売長いんだ」

だが結局、さもイン ランなふりをした女房が、すぐそばで男に「抱いて」と迫っている状況に耐え切れず、亭主は何度も「直してもらいなよ」と声を掛ける。(「直す」とは、時間ごとに追加料金を払うシステム) 客が「亭主いるの?」と聞けば「入るわけない、いりゃこんなことしてられない」と応え、客に甘える女房。「優しくして」「俺と一緒になるか」「私なんかをもらってくれるの?」「大丈夫だよ、金ならある。佐野槌の壁やった左官オレなんだ」

あまりに頻繁に「直してもらえ」と声を掛けるだけでなく、女房の言うことにいちいち大声で反応して邪魔をする亭主。客は若い衆が嫉妬に燃えた亭主だと気づく。「外で立ち聞きしてる男、オメェの亭主だろ」「違うの、一応そういうことにしてあるけど、アイツ、騙されてるの! あんなヤツ大嫌い! 口も臭いし」たまらず亭主、また「直してもらいなよ!

「聞こえてるわよ! ヤなヤツ!」「オメェ、悪い男に捕まってるな」「私を連れて逃げて」「子供何人ほしい?」「3人」「みんな大人になって、正月とか孫連れてきて」「私そんな正月知らない…(泣)」 亭主、たまらず入ってくる。「直してもらえ!」「何よ、びっくりした! いつもこうなのよ、この男!」「わかったよ、兄ちゃん、いいよ、直してない分も全部ゼニやるよ、とっときな。明日三十両持ってくるからよ。悪いな兄ちゃん、この女、幸せにしてやるからよ」と、銭を渡して帰る。

「何してんのアンタ!」「オマエがお嫁に行っちゃう(泣)「バカ! 手練手管でしょ!」「俺、もう判った。俺よりアイツのところへ行ったほうがいいよ。ああいう職人と幸せに…」 バシッと亭主を殴る女房。「私たちのためにやってるのよ!」「だって…」「お前さんがいるから、私はここまで生きてこられた! わからないの!?」 号泣する女房。「お前さんじゃなきゃイヤ! 他の人と生きられるわけないでしょ!」


「私のこと嫌い?」と女房。「オメェがいるから俺は生きていられるんだ…オメェが、あの野郎と一緒になったら、俺は死んじまおうと思ってた。でもアイツのほうが…」「バカだね…そんなお前さんが大好きだよ…そんな人、世間中探したって、いやしない」「なあ、こんな商売よさネェか? よそう! クズ拾いでも何でもするよ!」「ありがとう(泣)」「すまねぇな。(泣) かわいそうなオメェが好きで好きで仕方ない」「頼りなくてどうしようもないお前さんが好きで仕方ない…」「死ぬまで一緒だよ!」「ずっと一緒」 と、そこにさっきの職人が現われて「直してもらいなよ」



『井戸の茶碗』『長短』『船徳』

「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・PartII」3題を広瀬和生さんの解説でお届けします。

立川談笑『井戸の茶碗』

主人公の屑屋。「♪くず~ぃ」「屑屋さん…」「しまった! ここは声出しちゃいけないところ…あ、らくださん死んじゃったんだっけ。そう、呼んでいたのはらくだではなく、貧しい浪人、千代田卜斎の娘。「こんなキレイな人が、こんなみすぼらしい身なりでかわいそうに…あ、千代田様! いつもありがとうございます。こんなおきれいな娘さんがいたんですね、ちっとも知らなかった」「今日は、買って欲しいものがあって」「ダメですよ左甚五郎のカエルとか」「いや、木彫りの仏像だ」「どれどれ…(裏を見て)矩隨? あ、違った」

千代田から二百で仏像を預かった清兵衛、「あの人は面白い人だ、夜は表でバイドク売るんだって…」などと言いながら歩いていると、上から「屑屋!」と若い侍に呼び止められる。仏像を買いたいと言うのだ。「行きますよー!」「投げるな! 廻って上がってこい!」 その高木作左衛門という侍、仏像を手に取り「随分と重みがあるな。時代もついておる。いくらだ?」「こんなところで」と両手を広げる屑屋。「なんだそれは」「道具屋に伝わる『手いっぱい』で」

「二百文で手に入れまして、二百文でお売りします。儲けは無しということで、クレームはノー」と屑屋は仏像を二百で置いていく。「良造はおるか!」と家来を呼ぶと、アコーディオンのポーズ。「それは横森リョウゾウ。面白いことしなくていいから、この仏像を洗え」「おお、随分と時代がついておりますな。時代を取ると何も無くなる」「それは違う噺のギャグだ」

仏像を洗うと底が外れて何か出てきた。「腹ごもりかと思ったが、紙に包んだ金子だ。五十両あるぞ」と言う作左衛門に良造は「じゃ二十五両ずつ!」と山分けにしようとする。「何を言ってる。中の金子は私のものではない」「え? 全部私の?」「違う! 仏像は買ったが中の五十両を買った覚えは無い!」 屑屋を見つけて元の持ち主に返させようと、高木主従は下を通る屑屋に片っ端から声を掛けるが、それが屑屋の間で「きっと誰かヘンなもん売ったんだ。それで無礼討ちに遭うんだ!」と噂になる。それを聞いた清兵衛、自分が斬られるに違いないと思い、怯えきったまま商いに。あのお屋敷の前を通って「屑屋!」と声を掛けられると「私が仏像を売りました! らくださんを殺したのも私です!」と号泣。

「え? 仏像の下か取れた? じゃ修理代金をよこせと?」「そうではない。五十両が出てきたのだ」「はあ、ありがとうございます」「オマエには、やらん。五十両を、仏像の前の持ち主にお返ししてほしいのだ」「え、要らないんですか? へえ…(含み笑い)わかりました、じゃあ私が。へへへ」「キサマ、本当に返す気はあるのか!?」「はいはい、じゃあそういうわけで。ありがとうございます」と五十両を手にした屑屋、「これ届けなくたってわからねぇよな」と言いつつ歩いていく。「こういう五十両持ってるときに通っちゃいけないのは吾妻橋…」

「あの浪人さんより、うちの方が貧乏だよ。これもらっちゃっていいよな!」とその気になった屑屋だが、いつの間にか千代田の家の前に来ていた。「屑屋さん」「あっ! すみません、おたくの五十両を身につけようとしたのは私です!(号泣)」 千代田は屑屋に差し出された五十両を見て「仏像が百両で売れて、山分けか?」「いえ、あれはただのクズ。でも台座が取れて中から五十両出てきたんですよ。そしたら二百問で買ったその高木って人、『売った人に返せ』って。頭おかしいでしょ? で、私がネコババしちゃおうと思ったんですけど、何だかここへ来ちゃって」「えっ! あの仏像の中に五十両? 痛恨!(泣) それはご先祖様が残してくれた五十両、なのにjこのワシの浅はかさ!」

痛恨の千代田だが「それは受け取るわけにはいかん」と五十両を拒否。「その高木というかたにお返しください」「口ではそう言っても心は違うでしょ?」「いいのだ! その金に手をつけるような性分ならとうの昔に仕官しておる。正直に生きよと言うのが父の教え。私も武士!」「そういうもんじゃないでしょ。もともと自分の金なんだから受け取ったっていいじゃありませんか」「施しを受けるわけには」「施しじゃないでしょコレ」「屑屋ふぜいが侍に人の道を説くか!?(と刀を抜く)」「わ、わかりました!」

「高木様!」「先方は喜んだだろ?」「いえ、もらえるくらいなら死体とヤルって」「その屍姦じゃない。…死んだ人とヤルなんて理解できない…」「何を言っておる。施しは受けたくないと申されたか。嬉しいな、まだそういう武士が! それを聞いて私がその金を身につけるわけにはいかん」「いやでも」 「屑屋ふぜいが侍に人の道を説くと…刀にモノを言わせても」「行きます!」

千代田宅を再び訪れた清兵衛。「屑屋です」「まだいたか? 刀にモノを…」「もういいです、私のこと斬り捨てても。それでこの五十両はどうします?」「捨てるまでだ」「それ、おかしいでしょ? 娘さんだってかわいそうですよ。子孫が困ったときのためにご先祖様代々が五十両を残したんでしょ? 肩肘張って受け取らないのはご先祖様に申し訳ないんじゃありませんか?」「一理ある。では、この家から何か持って行って、それを売ったということにしてくれ」「お侍って面倒ですね」「これは父も使っていた茶碗だ、これを売ったということに」「それでアナタの気が済むんでしょ」「今、アナタと言ったか?」「すいません。でもこの茶碗、まさか良いモノじゃないでしょうね」

「行ってきましたよ高木様。ただもらうわけにはいかないから、この湯呑みを売ったことにしてくれって」「え? 何だこの湯呑み! うわー、こんなもんが五十両とはまた、言ったもんだな」「いいんですか?」「そのかたが気が済むなら。これで心安らかに」「あと、面白い太鼓もあるんですけど」「要らん!」

この美談を聞いた殿様が噂の茶碗を見たいと所望。すると脇にいた目利きが「殿! これは!」「何だ? ワシには皆目わからん」「井戸の茶碗です! いい仕事してます!」「イドの茶碗? するとイドの茶碗の中にエゴの茶碗が?「違います! 何百両、何千両という井戸の茶碗」「そうか…では高木に六十両も渡すか」「いえ何百両、何千両…」「六十両か。どうだ高木」「では三百両で」「おいおい!」

「屑屋、あの茶碗がなぁ…」と高木。「割れて何が出てきました?」「いや割れないが、三百両だ。何を言いたいかわかるな?」「お返しするんですか? いやーわからない! いえいえ(含み笑い)すぐにこれを届けますよ、へへへ」「オマエ、持って逃げるだろ!」「だって屑屋が持った額としては史上最高ですよ! 道具屋なら三百…並んじゃいましたよ!」

「千代田様」「まさかあの茶碗が売れたとかいうんじゃ」「三百両です」「なに!? 痛恨! 父から受け継いだあの茶碗…ああ、そうか!」とキョロキョロする千代田。「やかんとか探してる? 歯ブラシでも何でもいいでしょ」「その高木様とはどういうおかただ?」「いい人ですよ」「じゃあわかった、受け取る!」「代わりに何を?」「喜んで受け取るが、その代わり、あれにおる娘いとを娶ってもらいたい」「ほほう、美しい噺になるんですか、ここから」「三百のうち、百両は支度金、百両は持参金として娘に持たせて高木様に。残り百両はオマエに仲介料として」「断りません!(泣) この噺の登場人物で一番お金が欲しいの私!」

「高木様、首を縦に振ってください」「いや、屑屋、ありがたいお話だが、この良造が私の妻」「ええええっ!?」「嘘だ」(笑)  かくしてめでたく千代田の娘いと高木に嫁いで高砂や、その新婚の夜、いとと一緒に湯に入った高木が、新妻の滑らかな太ももをザーッと湯で洗い流すと、何と義足が外れて小判がザラザラザラ…っというようなこともなく、娘の中からたくさんの子宝が恵まれたのだった。

立川談笑『井戸の茶碗』(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part 3」より)

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立川談春『長短』

気が短い「短七」のところに、気の長い「長七」が訪ねてきた。仲のいい二人だが、あまりにスローペースな長七にイライラさせられっぱなしの短七。ゆっくりゆっくり饅頭を半分食べる長七から残りの半分を取り上げて「こうやってフンガックック!って食うんだ」とサザエさんみたいに飲み込んでみせる。

煙草の火もなかなかつけられない長七。「じれってぇな! 煙草なんてこうやって吸うんだ!」とやってみせる短七。それを頑張って真似した長七、ようやく火がついて一服。「三日ぶりの煙草だ…」「三日も火がつかなかったのか!?」「うん、挑んではみたけど」

やがて、何か言おうとして躊躇している長七の様子に「言いたいことがあったら言えよ!」とイラつき始める短七。「怒るから…」「怒らねぇよ!」「でも…」「怒らねぇって言ってるだろ!」「短七っつぁんは怒ると怖いから」「そりゃ、何か怒りゃ、それなりの危険が身に及ぶぞ」「じゃあ、やめる」「オマエは別だよ!」「でも…」「(腕まくりして)おい! オレは気は短いけどナラズ者じゃねぇぞ! 言え、この 野郎!!」 すると長七、短七が先ほど叩いた火玉が袖口から入って着物が焦げていると教える。「あっ! テメェ! これ仕立て下ろしなんだぞ! こういうことは早く言え、このバカヤローッ!!」「ほらそんなに怒る。だから言わねぇほうがよかった」

今日のゲストは「平成の名人」の呼び声も高い立川談春。重厚な大ネタが得意と言うイメージの談春だが、実は滑稽噺でのハジケた面白さも格別。今日の『長短』は、気の短い「短七さん」が気の長い「長七さん」が好きなのにイライラして怒鳴ってしまう描写が実に巧みで、談春ならではの落語的リアリティに満ちた独特な台詞回しが爆笑を呼ぶ傑作。長七の何とも可愛いキャラがまた実に魅力がある。


立川談春『長短』(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part 3」より)

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立川談笑『船徳』

遊びが過ぎて勘当になり、なじみの船宿に居候している若旦那。宿の主人に「二階でヘンなクスリやってばっかりじゃダメですよ。何か仕事してください」と言われ、「じゃオマエンとこの船頭やるよ」と。「それより湯屋の番台紹介しますよ」「噺が違うからヤダ!」

「親方が呼んでるって」「何だろう」「また小言だろ」「あれかな?」と、親方が何で怒ってるのかあれこれ探り合う船頭たち。喧嘩してよその船頭の腕を折ったなんて奴もいれば、新造の船に勝手に乗ってぶつけてしまった奴、「親方のカミさんといつも寝てる」なんて奴まで。「まずいよ、親方は気が短いから早く言わないと『オマエ ら全員クビだ!』なんて立川談春みたいなこと言い出すぞ」 ところが親方は小言じゃなくて、若旦那が船頭になるからと説明するために皆を集めたのだった。「仲間なんだから徳って呼び捨てにしてください」と言われて戸惑う船頭達。

四万六千日の暑い盛り。浅草の観音様に参詣に行こうという二人連れの一人が「暑いから船で行こう」と言い出す。船はイヤだと言う連れを説得してなじみの船宿に行くと、船頭は出払っていていないと女将に言われる。「あそこで膝抱えてガタガタ震えてるの船頭だろ?」と若旦那の徳を見つけた客に、女将は慌てて「あれは船頭のようなもので」と断ろうとするが、断りきれず、徳が船を出すことに。

サオも満足に扱えない徳は「お客さん、船って乗りつけてますか? 船はオツでいいもんですよ。でも乗りつけてない人はすぐに船酔いして…」と言いながら、自身が船酔いしている。「やだな船酔いしてる船頭!」  だが気を取り直して唄いだした徳、「サオが長いのが吉原の女に評判なんですよ。堀から上がって一杯やって……退屈で……退屈で……」とサオをキセルに見立てて『あくび指南』みたいなことを始める。

「櫓に変われよ」と客に言われて「はい…」と不安げに櫓を見つめる徳。「コイツ、どう見ても初めて櫓を見てる目だよ!」 何とか漕ぎ始めると今度は汗が目に入り、「汗ふいて!」と客に命令。悪戦苦闘する徳の船を橋の上から見つけた竹屋のオジさんが驚いて「一人で大丈夫かい!?」と声を掛けるので、客の恐怖は増すばかり。グルグル廻ったかと思うと激しく揺れ、「うわー! つかまってないと死にますよーっ!」と座布団ごと高座でひっくり返る。

船はどんどん流され、客は「もう降りるよ、岸につけて!」と要求するが、徳は「出来ません! 周りを見てください!」と答えた。「周り? …あっ! 海だ!」 彼らは完全に遭難してしまった。「やがて彼らは房総沖でアメリカ船に拾われて、十年後帰国したという……ジョン万次郎の物語でした」と談笑はサゲた。

立川談笑『船徳』(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part 3」より)


『紙入れ』『ぼんぼん唄』『千両みかん』

7月の「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・PartII」3題を広瀬和生さんの解説でお届けします。

立川談笑『紙入れ』

新吉という若い男を家に引っ張り込んで浮気をする女房。ところが、帰ってこないはずの亭主が帰ってきた。慌てて裏から帰る新吉。ところが紙入れを女の家に忘れてきたことに気が付いた。旦那はその紙入れが新吉のものだと知っているうえに、紙入れの中には女からもらった手紙が入ったままなのだ。その手紙を旦那がもし見たら大変なことに…。

翌朝、様子を見にやって来る新吉。恐る恐る旦那の顔色をうかがうが、どうやら全く気づいてないようだ。ホッとした新吉、増長して「旦那の前ですけどね、私、間男してるんです」と言い始める。「良くネェと思うぞ」と言う旦那に新吉、「おかみさんから『今夜来てね』って手紙が来たりして。亭主ヤロウ、気がつかねぇでやんの!」と、さらにいい気になって大胆発言。「いや、気づいてると思うぞ」「…えっ!? そ、それは個人的な話ですかそれとも一般論?」「知らぬは間男ばかりなり、って言うぞ」「…あーよかった! 怒ってない、怒ってませんね♪」

「で、ゆうべ女とイチャついてたら、その亭主が帰ってきちゃって! 慌てて逃げたんですけど紙入れ置いてきちゃったんです」とすっかり安心しきっている新吉。「それがオメェの財布だって、その亭主知ってるのか?」「知ってるんですよ。しかも中に手紙まで入ってるし。でも気づいてないんですねぇ。いいなこの状況」「新吉、おまえ、うちに何しに来たんだ?」「え?」「俺ゆうべ予定より早く帰ってきたんだよ。おい、新吉、オメェちょっとそこ座れ」 この亭主の言葉に動揺する新吉。

「新吉、ニコニコしてるけどな、俺にも女房がいるんだよ。不思議な話もあるもんだな、俺もゆうべ、早く帰ってきちゃったんだよ」 やっぱりバレてるのか!と焦る新吉。「あ、あの…」「だからなうちのカミさんはそんなことしてなくてよかったなーと」「…あ、そういうことですか?」「嬉しそうだな」「ホントにわかってないんだとわかって安心したところです」 そこへ女房が顔を出す。亭主が「今の聞いたか? 間男して紙入れ忘れてきたんだってさ」と言うと、「そういう女はね、ちゃんと財布みつけて、後でそっと返すと思うよ」「なーに、女房を寝取られて気づかネェようなヤロウは、財布があったって気づかネェだろ」

と、この落語本来のサゲを言った後で、亭主が「でな、新吉、オメェの言ってる紙入れって、これのことだろ?」と、紙入れを取り出してみせる。「あーっ!!」「これ、オメェの紙入れだよな? ほら、ここに手紙も入ってる。『旦那が帰ってこないから』って。新吉、どうだオメェ」 ドスの利いた亭主の台詞に泣き出す新吉。それを見て、亭主は続けた。「オメェの紙入れをオメェがここに置き忘れて経ってことは、答えは一つだ。オメェ、その家に手ぶらで行ってるよ」

通常の古典のやり取りをさらに複雑化させ、二転三転させるスリリングな談笑版『紙入れ』。この「J亭」では「四季『冬』Part 1」以来、二度目の登場だ。

『紙入れ』(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part II」より)

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立川談四楼『ぼんぼん唄』

子供が大好きなのに子宝に恵まれない小間物屋の吉兵衛・おみつ夫妻。浅草の観音様に願を掛けて、今日が満願の日。帰り道、橋の袂で何やら人だかりがしているので何事かと気になり、人波を掻き分けて前へ出てみると、まだ二つか三つの女の子。迷子だという。吉兵衛になついてくる、その子のあまりの可愛さに、吉兵衛は思わず「町内の子ですよ!」と口走り、自分の家に連れてきてしまう。

吉兵衛夫妻がこの子を「おひろ」と呼んで可愛がり、一年立ったお盆の頃。当時、子供がよく唄っていた「ぼんぼん唄」を、おひろが口ずさむのを聞いた吉兵衛は愕然とする。この唄の歌詞の一節に、自分の町内の名を入れる箇所があり、おひろはそれを「♪相生(あいおい)町~」と唄ったのだ。「この子の本当の親は相生町にいる!」と気づいた吉兵衛。それを妻に打ち明ける。

「こんなになついた可愛い子を手放すのは寂しいけれど、本当の親御さんはどれだけ悲しい思いをしているか…」と、吉兵衛は相生町を訪ねる。案の定、一年前におしずという娘が迷子になって戻らないという材木問屋があり、吉兵衛はそこの旦那に正直に「お宅のお子さんが私どもの家にいます」と打ち明ける…。

今日のゲストは、立川流の「寄席育ち」世代の実力派にして「落語も出来る小説家」のキャッチフレーズを持つ立川談四楼。一九五一年生まれ、一九七〇年に立川談志に入門。一九八三年に落語協会の真打昇進試験を受けて不合格、これが師匠談志の落語協会脱退の原因となった。談四楼はこの顛末を小説『屈折十三年』に書き、作家デビュー。一九八四年、立川流の第一号真打となった。

大ネタを得意としつつ、軽い滑稽噺にも冴えを見せるオールラウンドプレイヤーの談四楼。今日の「J亭」で披露した『ぼんぼん唄』は、かつては五代目古今亭志ん生だけが演っていた「珍品」で、今では談四楼の専売特許だ。

立川談四楼『ぼんぼん唄』(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part II」より)


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~仲入り~


立川談笑『千両みかん』

「おい、番頭! 番頭!」「はい、金魚は高いところに乗せました買ってまいりました」「それは『猫と金魚』だ。もっと大事な話」「お嬢様のおしずさんが見つかったんですね」「それはさっきの『ぼんぼん唄』だ! 私が言いたいのは、うちの寝込んだセガレのことだ。二階へ行って、様子を見てきておくれ」 若旦那の部屋へ入った番頭、寝込んでる若旦那の枕元へ。「若旦那…寝てますか?」「番頭か」「そんな寝込んでちゃダメですよ! 頑張って! しっかり!」「オマエね、そういうこと、一番言っちゃいけないんだよ」「そこを頑張って!」「やだ。頑張れない」「甘ったれてないで起きなさい! あなた、このままじゃ死んじゃいますよ。一体、何なんです? 瀬をはやみ? 違う? 擬宝珠がナメたい?」「古典わからない」

「食べたい…」 ぼそっと呟く若旦那。「は?」「食べたいの…」「何か今すっげぇ、イライラしてきたんですけど!」「ミカンが食べたいの」「食べりゃいいじゃないですか」「どうやって?」「八百屋行って買ってきますよ」「今は真夏だよ。売ってるかい?」「もちろん! 頭に『夏』ってつきますけどね」「夏みかんじゃやだーっ!」 そんな若旦那のためにミカンを買って来いと命じられた番頭、「ミカンごときであんなんなっちゃうようなヤツ、死んじゃったほうがいいよ。甘やかして育ててるから悪いんだ」と愚痴りながら、方々を探し歩く。「探し歩いて六ヶ月経ったらミカンが手に入った、っていうのじゃダメなのかな」

日本橋のミカン問屋、紀伊國屋へ向かった番頭。店に入ると「はいいらっしゃい! ミカンをお求めてすか?」と出迎えられる。「頼もしいね」。ミカン欲しい」「かしこまりました」 紀伊國屋は氷室に番頭を案内する。「先々代の頃からずっと、あなたのように真夏にミカンを買いたいという方をお待ちして、こうして毎年、この氷室一杯にのミカンを囲っております」「食べられるのあるかな」「もしも無ければ、この身代ごとそっくり差し上げます」「そこまでミカンに!」「いえ、盛り上がると思って」

「一つだけ、ございました」「売って! いくら?」「千両です」「えーっ!?」「毎年、舟一艘分のミカンを無駄にしているのでございます。もしも他の落語家が全部死に絶えて林家正蔵だけ残ったら、千両払ってでも聞くでしょ」「払いませんよ!」 番頭はとりあえず保留にして店に戻り、千両掛かることを告げるが、「安いな」と旦那はあっさり。「千両ですよ!?」「オマエだって十年前に大変な遊びをしてたじゃないか。花見で私とハチ合わせして…あのときは穴あけてないと思ったから許したけど、よく調べたら穴だらけだ! オマエの遊びであけた穴うめるには二百五十年くらい掛かるよ」

「じゃあ、私も一緒に行こう」と旦那は番頭と共に紀伊國屋へ。「オマエにこの千両持って逐電されたら困るからな」「私も、確かにこの千両持ってミカン買いに行くときが逃げどきだってこないだ気づいたんですが、旦那が一緒に来るんじゃ逃げられない」  そんなこんなで千両と引き換えにミカン一つを買ってきた。「さ、セガレに渡してきなさい」「あーっ!」「どうした?」「落としてきました」「拾ってきなさい!」

「ありました!」と言いながら談笑は高座の後ろからミカンを取り出すと、最前列の客の1人を指差して、「若旦那! ほら、こっち来て! ミカンですよ!」と高座に引っ張り上げ、皮をむいて「さあ十袋あります」と、食べさせる。ちゃんと古典どおりに三袋残して若旦那(役の客)が席に戻り、「この三袋を番頭と、両親に」と若旦那がくれた、という設定に進行していく。「ミカンが十袋で千両、このミカン三袋で三百両か…」と番頭、ミカン三袋持って逐電しました…と本来のサゲを言った談笑だが、そのままでは終わらない。

ミカン問屋の紀伊國屋。「旦那!」「どうした?」「表に、泣き濡れた番頭さんが」「どれどれ…ああ、さっきの番頭さん! どうです、若旦那、ミカン喜びましたか?」「…これ!」「あ、ミカンを三袋お持ちですな、わかりました、三百両で買い取りましょう。番頭さん、その三百両持って、ウチで働きませんか?」 

「この番頭がこれから一生懸命働いて、紀伊國屋の旦那にまで上り詰めたという、おめでたい『千両みかん』でした」と談笑は締めくくった。古典の「穴」を修正して新たな結末に持っていく、いかにも談笑らしい改作だ。 
『千両みかん』(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part II」より)


『代書屋』『鰻の幇間』『品川心中』

6月18日の「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part1」 3題です。


立川談笑『代書屋』

昔あって今は無い職業の一つが代書屋。無筆の男が履歴書を代筆してもらおうとやってきた。「今度、仕事すんの。ゲーキョーヤ」「なに?」「知らない? 芸者とかいっぱいいて」「ああ、芸伎置き 屋ね。それで履歴書が要る、と。じゃ、まず本籍地」「ゴホンと咳?」「違うよ。生まれ育ったところっていうか」「あ、それ? 北砂」「はい」「七丁目」「はい」「六番地」「はい」「後藤ナットの裏」「はい…って余計なこと言わない! 『一行抹消』…ハンコ貸して。名前は?」「誰の?」「お前さんだよ!」「なーんだ?」「当てっこしてどうするんだよ!」…と延々、トンチンカンな会話が続く。

生年月日を訊かれて岡田有希子が自殺した日を答えたり、カミさんのことを訊かれて人形の話をしたり、学歴を訊かれて隣の学校名を言ったりと面倒極まりない相手に「一行抹消」を繰り返して疲れ果てる代書屋。何とかこの客を帰すと、今度は無言で「ジェスチャー」を行なう客が来た。「何ですか?」「「…(無言で鼻を指す)」「鼻?」「…(置いといて、車の運転)」「自動車?」「…(惜しい! 速い)」「「F1?」「…(当たり! 車の運転、壁に激突、死ぬ)」「セナ!」「…(みぞおちを指す)」「おなか?」「…(違う、ここ!)」「胃?」「…(そうそう!)」「っていうと『鼻』『セナ』『胃』…話せないなら字くらい覚えろ!」

変な客が何人も来ては帰っていく。すると今度は、なにやら切羽詰まった様子の客が「あの、とにかく書いてください!」と入ってきた。「お急ぎですな。何と書きましょう?」「まず、「『人生に疲れました。遠いところへ行きます』と」「え? それって」「「いいから書いて! 『私の全財産は、私の亡骸を最初に見つけた方にお譲りします』」「…ハイ、書きました」「ありがとよっ!(と刺し殺す)」「グワッ!」「へへへ、こんな店でもいくらかになるだろう。(ハンコを押して)『自署不能につき代書』と」

師匠の談志家元も得意とする『代書屋』を、談笑は独自のアレンジで展開、最後に見事なオチをつけた。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part 1」より)


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立川談笑『鰻の幇間』

野だいこの一八、羊羹を二本持って得意先を廻るが、二軒とも旦那は留守で、目ざとい女中に羊羹を取られておしまい。このままじゃ昼飯も手泉で食わなきゃいけない、何とか客を取り巻かなきゃ…と思っていると、知ってる顔に出くわした。「あの人知ってるよ、こっち見て笑ってる…」「おい、師匠、何やってる?」「あ、どうも! ご無沙汰してます」 相手は湯屋の帰りだと言い、「ちょいと鰻屋でも」と誘ってきた。

「お住まいは?」「先のとこだよ、知ってるだろ?」「え? あ…確かこの近所」「近所ってことはネェだろ」「ご商売は」「先と同じだよ」「えっと…ご商売…でしたっけ…昼間ッからこうやって…」「いや、俺は堅気だよ。たまにゃ危ないこともするけどな。ちょいと色っぽいことも…って一八! オメェ俺の商売忘れたわけじゃねぇだろうな! 随分世話してやったぞ!」「え、ええ、もちろんです」などと話しながら、思い出せない一八を連れて、男は歩き続ける。

「ここだ」「えっ!? ここですか?」「ここだよ」「だってここ、鰻屋じゃないでしょ?」「鰻屋だよ」 入っていくと店員が「イラサリマケー!」と迎える。実に汚い店。二階へ上がると汚い座敷から小さな子供がバラバラ出てくるし、お爺さんが寝てるし。「いい店だろ」「…ええっ?」「まさか、一八、この店嫌い?」「いえ…」

酒が出てくる。「これ何ですか?」「見ての通り日本酒だよ」「うわー白く濁ってますよ」「イラサリマケー」「あ、鰻重を二人前と、お土産で三人前ね」 注文を聞いた店員、すぐに戻ってきて漬物を出す。「さ、コウコで一杯」「これ何ですか?」「おコウコだよ」「赤いコウコって初めて」「オツなもんだよ」「…あ、このピリッと辛いのが白いお酒に合いますね」「あ、来た来た、鰻」「頂戴します…えっ!?う、美味い! トロッととろけますよ! この店、鰻だけは本寸法なんですね! そっか、面白い遊びだなぁ…この鰻、上野の伊豆栄に似てますね」 男が「ちょいとはばかりへ」と席を外す。寝たきりの爺さんとギラギラした目つきの子供が四人見つめる中、鰻を「美味い、美味い」と食べ続ける一八。

なかなか客が帰ってこないので店員に訊くと、先に帰ったと言われ、「粋な客だね」と感心し、白いお酒を追加注文する一八。ところが、勘定書きが廻ってきて、騙されたと気づく。「これ全部、私が払うの!? だって兄ちゃん、言葉使いでどっちが旦那かわかりそう…」「ワタシワカラナイヨ」「…ヒデェ店だなしかし! 鰻は美味いけど! 酒はマッコリだし、この漬け物、キムチだろ?」 ひととおり文句を言って、五人前払った一八。「驚いたね、この店は! 鰻は美味いんだよ…」と下に降りていくと、知った顔が。「あれ? 伊豆栄の兄ちゃんじゃない?」「あ、どうも」「どうしたの?」「ここへ出前を届けにきたんで」「…そうか! あれは伊豆栄の! いつもどおり美味かったって、大将に言っといて」

「俺のゲタは」と下足番に言うと、「お連れさんが履いて帰った」と言われ、さらに「あなた宛ての書き付けを渡されてますよ。あの人の素性が書いてあるって」「なに?」と手紙を見てみると、そこにはこう書かれていた。「バーカ、オマエの兄貴だ!」

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part 1」より)


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立川談笑『品川心中』

「江戸時代の品川というのは、今で言うと川崎あたりのイメージでしょうか」という話をしてから本題へ。品川の白木屋で移り替えの五十両が出来ずに悩む女郎お染、以前は店で一番の売れっ子だっただけに、今の自分がミジメに思えて仕方ない。いっそ死のう、でもただ死ぬんじゃイヤだ、心中なら…などと考えつつ、馴染み客の中で「死んでも誰も困らない」相手を選別。「貸し本屋の金蔵…スケベでバカで大食いでアッチもヘタ。こいつならいいや」とお染は金蔵をを呼び出した。

「移り替え? 五十は無理でも三十なら出せるよ」「え! 三十両出せるの?」「ええっ!? 両? まさか、三十文」「そんあことだろうと思った。もういいよ、あたし、死んじゃおうと思って」「へえ、死んじゃうんだ。わかるよ惚れてるから。孤独だしね。とりあえずこの鯛ウメェぞ」「私1人が死 んじゃえばいいんだ」「俺が一緒にしねばいいんだろ? いいよ、死ぬ死ぬ」「軽いわねー」「だって、誰でもいいってワケじゃないだろ? 他の客はかわいそうだからって、オメェは俺を選んだから呼んだんだろ?」「うん」「いいんだよ、軽く言ってるけど、俺、嬉しいんだよ。俺だって孤独だから」「…ゴメンね(泣)」「いいよ、心中、お染金蔵だ。ここに通わなきゃ金も貯まるけど、惚れたオマエに会いに通ったから三十文しか出せない。でも、俺はここに居るときだけ『生きててよかった』って思えたんだ。一緒に死のう。報われない俺たちの人生に乾杯!」「金ちゃんに会えてよかった!」

「どうやって死ぬ?」と金蔵。「ここにカミソリを二丁…」「えっ、今?」「死ぬ気ないの?」「いや、この形で心中はあんまり…明日になったら家財道具一切合財売っぱらって、銭こしらえて刀屋行って、刀をそろえて白装束に真っ赤な血しぶきって形で、寄り添うように倒れるってのは?」「金ちゃん、それイイ!」 というわけで一晩こってりミッチリと手練手管でお染は金蔵を喜ばせる。翌日、安い刀を買った金蔵は親分のところへ立ち寄って挨拶を。「何だ、本持ってきたのか? それとも紙入れの件か?」「それ、噺が違います」「じゃ何だ」「あの…暇乞いに」「やっぱり紙入れの噺じゃネェか」 西の方に行ってしまうのでと挨拶を済ませた金蔵、刀を置き忘れたまま帰ってしまう。

死ぬ前に「あの世で一緒になろうな!」と酒を酌み交わし、夜中になってみなが寝静まるのを待ちながら、お染は何人か廻しを取って戻ってくると、金蔵は酔っ払ってイビキをかいて寝ている。「あらやだ、マヌケな顔。何で私、この人と死ぬのかしら。もっといい男と心中したかった…」 刀を忘れたので「品川だから海で死のう」ということになる。「飛び込もうか」「品川の心中なら、やっぱり海だよな」 海岸に出て行った二人、桟橋の先で思案していると、店のほうから若い衆の「お染さんへ! お染さんへ!」という声が近づいてきた。「金ちゃん、先に行って!」 ドボーン、と金蔵が飛び込む音。「私も今から…」と飛び込もうとするお染を若い衆が止め、「番長の旦那が四十両持ってきてくれた、死んじゃいけねぇ!」「金ちゃーん!」 一方、金蔵は遠浅なので助かって「お染ーっ!」と叫ぶが、波の音がそれをかき消して、お染の心には届かない。若い衆に連れられて行ってしまったお染の後ろから金蔵が悲痛な叫びを。「裏切りやがった、チクショーッ!!」 お染は「金ちゃん、金ちゃん…」と後ろを盛んに振り返っているが、暗闇の中に金蔵は見えない。

助かった金蔵は、刀を置き忘れた親分のところに転がり込む。「金蔵か、幽霊じゃネェな? 刀なんか置いてったから出入りにでも駆り出されたのかと…何があったんだ」「心中したんです」「女は飛び込まねぇのか」「いくら呼んでも戻ってこないんです。俺は一体、今まで何のために生きてきたんだ…好きだったのにーっ!」「そうか、ヒデェことしやがる。よし、仕返しだ!」「仕返し?」「騙してやろう。幽霊になってやれ。ひと芝居うつんだ。オメェはお染のところに行く。オメェが寝た頃を見計らって、俺の子分が『金蔵が死んだ』と言いに行く。女が見に行ってみると布団にはオメェは居なくて、戒名が書かれた札があるって寸法だ」「えっ! 何それ、誰が犯人?」「バカ、オメェがふんどしにでも戒名書いた札隠しておいて、それを置いて逃げるんだよ」「あの、親分、ひとつお願い」「何だ?」「お染さんを幸せにしてやってください」「何言ってんだ、復讐の話だろ!」「でもお染さんかわいそう…」

翌日、白木屋の若い衆が「おあがりを! えー、おあがりを」とやってるところに金蔵が現われる。幽霊のような雰囲気を漂わせた金蔵、「お染の部屋に行きたい…」と。若い衆はお染のところに金蔵を通す。やがて、親分が一人連れてやって来ると、「おい、金蔵って貸し本屋が通ってただろ! この野 郎は弟分でな、こいつが言うには金蔵が死んじまった、お染に心中を持ちかけられたって、占い師が言ってるってんだ」 すると若い衆、落ち着いた態度で応じる。「そうでしたか、天涯孤独と聞いていましたが、お身内の方がいらっしゃったのですね。女のほうも天涯孤独でした」「…? あがらせてもらうぞ」「かわいそうな心中でしたよ。朝方あがった金蔵さんの亡骸を見て、女はワーッと泣き崩れて、カミソリで……惜しいことをしました」

若い衆の言葉に、親分は切り返す。「おい、若い衆さんよ、どんな茶番なんだ。俺が尻尾巻いて逃げ出すとでも思ったか?」「いえ、もう品川の心中、お染金蔵ってんで、凄い騒ぎで…」何言ってるんだ、金蔵は生きてるだろ!」「いえ、お亡くなりに」「ふざけるな、当人連れて来い!」 と、そこに子分が血相変えて「親分!」と飛び込んできた。「どうした?」「便所に行ったらこれが…」と見ると、戒名が書かれている。お染の部屋に行って布団をめくると、そこにも戒名が。「何だこの戒名は!」「お染の戒名です」「ちょっと待て…金蔵の屍骸は今朝あがったのか? そ、そうか…帰ろう!」と親分は昨夜の金蔵は幽霊だったとゾッとして去っていく。

誰も居なくなったのを見届けて、白木屋の若い衆が「さ、お染さん、金蔵さん、出ておいで」「よろしいんですか?」「ここに旅支度いっさい揃ってる。二人で江戸を離れて新しい土地で手に手を取って、仲良く暮らしな。これは道中の路銀だ。気をつけてな。浜松の置き 屋にお染さんを売るって形になってるけど、それは形だけだ。どこぞの百姓家の手伝いでもして、子供でも生んで幸せにね。一度死ぬ気になったんだ。二人揃えば知らない土地でもやっていけるさ」「ありがとうございます」「いいって、いいって。これからお染金蔵心中の店って、ウチは儲かるよ!」 二人は生きていた。すべて、この若い衆が仕組んだのだった。「後ろを振り返っちゃいけないよ」「こんなお金までもらっちゃって…ご恩は一生忘れません! ありがとう、居残りさん!」

前半だけ演じられることの多い『品川心中』を、談笑は全くオリジナルの「意外な結末」を創作してサゲまで演じた。お染と金蔵を助けた若い衆の正体は…落語ファンならおわかりのとおりだ。もちろんこのストーリー展開は談笑オリジナル。談笑版大ネタ古典改作の名作だ。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 鳥・Part 1」より)

『原発息子』『妾馬』『おせつ徳三郎(通し)』

5月28日の「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part3」 3題です。


立川談笑『原発息子』

時代は就職氷河期、「隣の幼稚園よりレベルが低い」とまで言われる某大学を卒業する男が主人公。成績も悪く、元気だけがとりえの彼はTEPCOの面接を受け、外回りを希望するが、「内勤じゃないと採用にならないよ」とほのめかされ、内勤で就職内定をもらう。

「テプコに内定もらったよ!」と母に報告する彼。「え? テレビに出てるヘンな髪形の」「それはテツコ。勤務地が原発なんだよ」「え? どうにかならないの? …そう。じゃあ悲しいけど母さんが床屋してあげる」「母さん、コレ辮髪! ベンパツじゃなくてゲンパツだよ!」「ゲンパツって危ないんじゃないの? 放射能浴びて巨大化しない?」

初出勤の日。「あの…」「あ、新入り? いいか、そこのペットボトルの水しか飲んじゃダメだぞ。危ないからな。紙コップに自分の名前書いて…え? オマエ、内勤!? 出てってくれ! ウチは警備会社だよ、オマエ らとは関係ネェよ!」 新入社員が改めて先輩を探すと、釣りをしている豪快な男が「おー! 来たか新人!」と笑顔で迎えた。「ずいぶん釣れましたね…あっ! 何ですかこの魚、背中がS字に曲がって…」「ここいらの魚は頭が二つあるからダブルチャンスだ♪」

先輩社員に案内される新入社員。「どんどん下に降りていってますけど、どこに繋がってるんですか、死神さん?」「それ違う落語だよ!」 果たしてこの新入社員の運命は…? 

今回の一席目は談笑オリジナルの新作落語。原子力発電の放射能漏れの問題を風刺した「社会派」談笑ならではのブラックな一席。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 3」より)


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柳家三三『妾馬』

ある裏長屋を訪れた、品の良い武家。この長屋から赤井御門守様に見初められて奉公に出た娘おつるが、このたびめでたく世継ぎの男子を産んだので、褒美におつるの兄に殿様へ目通り許す、との知らせを持って来た、赤井家の家臣である。井戸のところで出っくわしたよく喋る男に大家の住まいを尋ね、大家に仔細を話すと、何とさっきの男がおつるの兄、八五郎であった。

正装して殿様の前に出た八五郎は、大家に教わった丁寧な言葉遣いで返答しようとするが、何を言っているかわからない。殿様は「共に話すように喋ってよい。無礼講じゃ」と八五郎に告げ、酒や食べ物を振る舞う。八五郎は気分良く酔い、妹おつるに「いい気になっちゃいけないぞ、実るほど頭を垂れる稲穂かな、だぞ」と説教し、殿様に「母親に一目この孫を見せてやってくれ」と頼むのだった…。

今日のゲストは人気・実力ともに若手随一の柳家三三、演目は『妾馬』。研究熱心な三三らしく、普通の噺家が演るような「親孝行の八五郎が出世する人情噺」ではなく、前半を膨らませて後半を短めに抑えた滑稽噺としての『妾馬』で楽しませてくれた。三代目・四代目柳家小さんが演じていたという型を基に「三三の噺」としての素敵な『妾馬』を聞かせてくれた。陽気に取っ払った八五郎が御老女をからかう場面でスパッと切った演出も見事。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 3」より)


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立川談笑『おせつ徳三郎(通し)』

今日、トリネタとして談笑が予告していたのは『庖丁』…だが談笑は「今日は『庖丁』は演りません! その代わり、大ネタのネタ下ろしを…」と言って、前半『花見小僧』から後半『刀屋』まで、『おせつ徳三郎』を通しで演じたのだった。

ある大店の旦那が、番頭に「うちの一人娘、おせつは36回もお見合いをしたのに婿を取ろうとしない」と嘆くと、番頭は「それは無理ですよ。お嬢様は奉公人の徳三郎と深い仲ですから」と明かす。驚いた旦那、小僧の定吉を呼び出して、今年の花見でおせつと徳三郎がどんな様子だったか「忘れたのならお灸を据えるぞ」と脅して聞き出す。

定吉がベラベラと喋ったせいで徳三郎は暇を出され、叔父の許に預けられる。ある日、叔母から「お店で婚礼がある」と聞いた徳三郎、何のことか訊くと、おせつが今日、婿を取るという。「そんなはずが…ついさっきも手紙が来て『男はあなた一人』って…その気にさせといて、この仕打ちか!」と逆上。「自分だけ幸せになろうったって許さない! 日本刀でぶった切って、そのあと俺も死んでやる!」と、刀屋へ。

目が血走って常軌を逸した様子の徳三郎を見て、刀屋の主人は事情を尋ねる。「何度も何度も、一緒になろうねって…」と言い募る徳三郎に「どうにもならないんですよ、お嬢さんにも。そんなの自由に出来る世の中じゃない。私の娘も駕篭かきに惚れて…」と、刀屋は娘の話をし始めた。「うちの娘を駕篭かきなんぞにやれない、と私は許さなかった。すると、その駕籠かき、身を投げちまった。男の死体が上がって、それを見た娘も身を投げました。死んだ娘の歳を数えても仕方ないが、お前さんを見てると、あの駕籠かきの顔を思い出します。何であのとき、一緒にさせてやらなかったのかと…」

「でもお前さんの場合は違う」と刀屋。「お嬢さん一人だけでも幸せになるんだから…そう諦められませんか?」「私一人が、バカな目を見るんですか」「いいんじゃないですか、本当にお嬢さんのことを好きなら。その人と幸せに添い遂げてくれるなら…お前さんだって、まだ若いんだ。これからだよ」

そこへ、「お店の婚礼からお嬢さんが消えちまって大騒ぎだ」という知らせが。「何でも、奉公人と惚れあっていたのを生木を裂くように無理やり…おせつさんっていう娘さん…」それを聞いて飛び出す徳三郎。走っているうちに、お店の女中おきよとバッタリ。「徳さん! お嬢さんもいますよ!」

「お嬢さん、俺のこと嫌いになったのかと…」「もうお店もおとっつぁんも知らない!」 号泣する二人。「どこか遠いところで所帯を持って」「そんなの無理」「じゃあ、どうすれば…」 そんな二人に、「もう心中するしかない」とそそのかす、おきよ。「お嬢さん、俺のこと好き?」「死ぬほど好き!」「でも、両親を亡くした俺を引き取って育ててくれた旦那様に申し訳ない」「そのおとっつぁんが、私たちを許さなかったのよ」

二人が川へ身を投げた直後、駆けつけた旦那。「おきよ! おせつは!?」「飛び込みました」「何だと! おせつを返せ! ああ…私は悪い親だった。どうしてあの二人を添わせてやらなかったのか…」「もし、今ここであの二人が飛び込む前に、生きて会えたら」「添わせてやった! もちろんだ!」「旦那様、ここは木場なんです」

「おーい、大丈夫かー?」と上からの声に「イタタタタ…丸木にモロですよ!」と徳三郎。「全然死ねないじゃない! 水も浅いし! こんなに人が集まってきて恥ずかしいカッコ見られて」とむくれるおせつ。「旦那様、あの二人…」「ああ、これも新人のおかげだ、一本のお材木(題目)で助かった」「こんな長い噺に、そのサゲですか!」

従来のサゲ(お題目=材木)を茶化した後、地の語りで「身分違いの徳三郎がいったん刀屋の養子になり、お店の婿養子に入ったという『おせつ徳三郎』でした」と締めた談笑、会心の一席だ。おきよ大活躍のくだりは、もちろん談笑オリジナル。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 3」より)

『饅頭とか怖い』『鹿政談』『死神』

4月16日の「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part2」 3題です。


立川談笑『饅頭とか怖い』

町内の若い連中の寄り合い。遅れてきた一人が「そこでヘビに出っくわした。俺は何よりヘビが怖い」と言ったのをきっかけに、それぞれ自分にとって怖いものを言い合おう、という展開に。カエル、ナメクジ、毛虫、ムカデ、フナムシ、ベンジョコオロギ、ゴキブリ等、次々に挙がってくる。

「俺はネズミ!」「ネズミは虫じゃねぇぞ」「ヘビだってカエルだって虫じゃないだろ!」「漢字だと『蛇』に『蛙』で、どっちも虫偏だ」「だったらネズミも虫偏で書けよ!」「意味わかんねーよ。ネズミ怖いか?」「怖い! たとえば、オメェが裸で手足を縛られてドラム缶にケツから突っ込まれるだろ? ドラム缶の底にはネズミが入れてあるんだ。ネズミは腹が減ると、オメェのケツを食い破って内臓を食うんだよ! そうやって地獄の苦しみを与えてジワジワ殺すマフィアのリンチに使われるネズミが怖い」「そりゃマフィアが怖いんだよ」

そんな仲間をせせら笑う一人の男。「オメェら、そんなのが怖いのか!」と馬鹿にしていたが、ハッとした表情で、自分が何よりも怖いものを思い出す。「やっぱり、オメェにも怖いものはあったか。何だ?」「…饅頭」「え?」「まんじゅう!」「どんな生き物?」「食うマンジュウだよ」「栗饅頭とか温泉饅頭とか?」「わーっ! やめて! 甘くて美味しいものは、思い出しただけで気持が悪くて…」「じゃあ、あっちの部屋に布団敷くから横になりな」

日頃から、この「甘くて美味しいものが怖い」男のヘソ曲がりでイヤミな態度にカチンと来ていたほかの連中は、「懲らしめてやろう」と手分けして甘くて美味しいものを買い集める。「でも、話だけであんなに怖がってるんだ。死んじゃうかも」「いいよ死んでも」「饅頭で殺して『餡』殺?」「菓子を見て『仮死』状態とか」

「買ってきたよ! 塩瀬の饅頭、榮太郎の金鍔、茂助団子」「俺は虎屋の羊羹」「金龍山の揚げマンジュウ、梅園の豆かん、梅むらの豆かん」「うさぎやのドラ焼き」「アイスモナカ」「モロゾフのカスタードプリンと、パステルのなめらかプリン」「プリンっ食いだね、江戸っ子だね! そっちは?」「風月堂のゴーフル、ステットラーの生チョコ」「俺はイチゴのズッパイングレーゼ」「レカンのネクタリン・ペーシュと、マキシムのイチゴのミルフィーユだ」「フレンチな野郎だな!」

こうやって集められた甘くて美味しいものを男の枕元に置くと、連中は隣の部屋に戻り、「おーい、起きろよ!」「ああ…何だか甘くて美味しいものが目の当たりにあるような気がする…ああーっ! 饅頭だーっ! 怖いよー! こんな怖いものは…こうしてやる!」と、片っ端から食いつくす男。
「あっ、こ の野郎! 全部食ってやがる! オメェ、本当は何が怖いんだ?」「ここらでスタバのキャラメルフラペチーノがダブルで怖い」

古典落語『饅頭怖い』をグレードアップさせた談笑版のタイトルは『饅頭とか怖い』。前半の「怖い虫」の描写の生々しさ、後半の甘くて美味しいものの列挙が談笑らしい。「プリンッ食いだね、江戸っ子だね!」、「フレンチな野郎だな」といった談笑ならではの名フレーズでお馴染みの傑作。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 2」より)


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立川談幸『鹿政談』

奈良で鹿を殺した者は、たとえ過ちであっても死罪に処す、という定めがあった時代のこと。親孝行で正直者で知られる奈良三条横町豆腐屋の与兵衛、早朝に「きらず」(おから)の桶を倒して食べている犬を追い払おうと木を投げつけた。打ちどころが悪く死んでしまったその犬を見ると、犬ではなく鹿だった。奉行所に引っ立てられた与兵衛を何とか救おうと、あれこれ思案を重ねる名奉行、根岸肥前守。嘘のつけない正直者の与兵衛を、果たして奉行の「名裁きは救えるのか…?」

今回のゲストである立川談幸は一九五四年生まれ。一九七八年に談志に入門し、前座名・談吉。一九八二年に二ツ目に昇進して談幸と改名し、一九八七年に真打昇進。以前「J亭」にゲスト出演した龍志と同じく、「落語協会で二ツ目になったが真打昇進は立川流独立後」という世代だ。

軽い滑稽噺から大ネタまで何でも見事に演じる談幸が今回演じた『鹿政談』は、元々は上方落語で、「西の人間国宝」桂米朝の十八番としても有名。東京では「昭和の大名人」六代目三遊亭圓生が得意としていた。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 2」より)


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立川談笑『死神』

「ああ、もうダメだ、俺の人生。借金は返せないし、可愛い息子の金坊とも一緒に住めなくなっちまった。もともと、良くない人生だったんだよ、心臓も悪かったし、人力に跳ねられたこともあったし。あー、もう死のうかな。吾妻橋から身を投げるか。でも左官の長兵衛が通りかかって助けに来るかな。金さえあればな…ダメだ、死のう」 そう呟く男のところに「助けてやろうか」と現われたのは死神。「死神? まさか」「本当だよ、ホラ」「あれ? 体が通り抜けた! し、死神…?」

「俺はオマエをあの世に連れて行きたいわけじゃない。助けたいんだ。俺とオマエには深い縁がある。俺の言うことを聞けばこの世で贅沢に生きていける」「でも契約の罠でで地獄に落とされる」「いや、約束を違えさえしなければ天寿をまっとうして極楽へ行ける。医者になれ。呪文を教えてやる。病も怪我も、死神が枕元か足元で悪さをしてるんだ。それを取っ払っちまえば治る」「世の中の病気も怪我も全部、死神の仕業?」「足元からズンズン苦しめて枕元でズンッ!と落とす」「俺、大八車に轢かれたことが」「その大八車に死神が憑いてたんだ。危ない場所に行くなって言うのは、そこに死神が居るからなんだよ」

「アジャラカモクレン鳩山さん、そろそろ宇宙に戻りませんか、テケレッツのパ…これでポンポンと手を二つ叩く。これが呪文だ。この呪文で、足元の死神は消えて病気や怪我が治る。一つ大事なことは、枕元に死神が居るときは決して使っちゃいけねぇ」「使うとどうなるんですか?」「教えてやりてェけど、オメェに恨まれる…とにかく枕元に居るときはダメだ。この約束は守ってくれよ」死神は、男の頭を優しく撫でる。「言うこと聞いて、約束守れよ。いい暮らしが出来るんだ。オメェに、死神が見えるものを渡してやる」死神は男の首に何かを掛ける。「この数珠で、死神が見える。恨むなよ…約束守れよ」

医者になって大儲けした男は、女を連れて京・大阪へ遊山旅。派手に遊んで金を使い果たして江戸に戻ってみると、あっちでもこっちでも病人と見れば「アジャラカモクレン鳩山さん…」の呪文を唱えてポンポン、というのが流行っていて、病気は激減。誰も患者が来ない。また一文無しに戻り、弱っていると、「お願いします、ウチの旦那を治してください」と大店の番頭がやって来る。「いくらテケレッツのパってやっても治らないんです!」「そりゃ枕元に居るんだ、ダメだよ。私が行っても仕方が無い」「そこを何とか! 明日まで、いや今日だけでも生きていてくれれば、千両でも二千両でも差し上げます」

誘惑に負けた男は死神との約束を違え、枕元に居た死神がウトウトしている隙に病人の布団をさかさまにして、すばやく呪文を唱えて消してしまう。大金をせしめて浮かれる男の前に死神が「ナンだってあんなことをしたんだ」と死神が現われる。「あれほど約束を守れって」「いえ、足元にしましたから、グルッと回して」「屁理屈は通用しない。ああ…やっぱりオメェもやっちまったか」「…死神さん、泣いてる?」「オメェだけは何とかしてくれるんじゃないかと思ってた。俺はオメェのこと、ずっと知ってる。やらないと信じたんだが…連れて行かなきゃいけねぇ」「あの世へ? 地獄?」「もっとヒデェところだ」

死神が杖で男を引っ張って地面の下へ…「真っ暗だ、怖いよ!」 と、急にまぶしいほど明るい場所へ。見渡す限り、蝋燭また蝋燭。人の命の炎が全世界の分ここにあるという。「蝋燭が人間の寿命だ」「これ、元気に燃えてますね!」「ああ、それはオマエの寿命だった。まだまだ長生きする。だがさっきの布団クルッてやつで、あの病人の寿命とオマエは取り替えちまった。オマエの寿命は、コレだ」「えっ! もう消えそうじゃないですか!」「消えたほうがいいのかもしれない…つけたきゃつけな、消したきゃ消しな」 死神は男に蝋燭の燃えさしを渡す。その燃えさしに寿命の炎を移し変えようとする男。

「ついた! ついたよ! ♪ハッピーバースデー、フッと消したりしないようにしなきゃ。ふふ、これであと八十年くらいは生きられる…あれ? 死神さん? あ、前の蝋燭が消えた。クラッときたな。生まれ変わったんだ」 男は歩き続ける。「表に出ちゃった。まぶしい…そうだ、あの数珠持ってるから、まだ死神見えるし、医者やれるな」

「あれ? 懐かしい場所…昔の俺んち…? あっ! オヤジとオフクロ!」「生まれたばかりの子なのに、このまま死んじゃうの?」「おい! あ、向こうから俺は見えないのか! じゃあ、この赤ん坊は俺!?」 見ると足元に死神が居るので呪文を唱えて「アジャラカモクレン…」 これでよくなった赤ん坊、育っていくと大八車に跳ねられて「いてっ!」「あ。また足元に死神! アジャラカモクレン…」 さらに年月が過ぎ「あっ! 斬られた! 手間の掛かるやつだな! アジャラカモクレン…」

「死にたい」と呟く男を見ながら死神が「本当に、オマエは手間の掛かるやつだ。だがもうそろそろ死にてぇか…」と呟き、話しかける。「おい、助けてやろうか? オメェだけは約束を守ってくれるだろうな…頼むぞ…恨むなよ…」

と、これでサゲ。冒頭に戻ってストーリーはエンドレスに続くという、「巡る因果の物語」。もちろん、これは三遊亭圓朝作『死神』を談笑が大きく変えた「改作」版。談笑の『死神』は演る度に進化し、その都度まったく異なる演出が施されていたりする。今回の2010「J亭」ヴァージョンは、全体の仕掛けが意表を突きながらもスッキリとわかりやすい秀逸な演出だった。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 2」より)

『看板のピン』『初天神』『居残り佐平次』

3月の「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 1」 3題です。


立川談笑『看板のピン』

町内の若い連中がチョボイチ(サイコロひとつの博打)で大騒ぎしていると、隣の御隠居が「オメェら、寄るとさわると博打ばっかりやってやがって」と説教をしに来る。この御隠居、かつては相当博打うちとして鳴らした人物だが、ゆえあって四十で博打はやめたという。「俺に胴を取らせろ。オメェ達に博打ってもんの怖さを教えてやろう」と、壺皿を手に。「さあ、はってみろ」 見ると、サイコロが外に飛び出て、ピン(一の目)が出ている。

「はっちゃっていいの?」と、全員がピンにはる。「いいのか? 全員ピンだな。じゃあ、はりが決まったところで、看板のピンはこっちにしまって…」と、外にあったサイコロをしまう御隠居。「えーっ!?」「だから言っただろ、勝負は壺皿の中だって! オ マエら、誰一人として『外に出てます』って言ったヤツがいるか? そういう了見だからダメなんだ。中は五だ。ホレッ」と壺を開けると、確かに中の目は五。「オメェらから金とる気はねぇよ」と御隠居は全員に金を返す。

これを見て「カッコいいっ! 俺も脇でやってやろ!」と思ったハネッ返りが一人、自分の長屋に帰って真似をして失敗する…というのが通常の『看板のピン』だが、談笑版はここからがちょっと違う。胴を取ることになったものの、「壺の中にサイコロを入れながら外にもサイコロをピンにして置く」なんていう難しいワザを、見よう見まねの男がすぐに出来るわけがない。「おい、サイコロ何個使うつもりなんだよ!」「中にも入ってるだろうけど外にもサイコロ置いて何やってるんだよ!」とガンガン突っ込まれる。

ようやく外にピンを置いて、全員がピンにはる。「いい? じゃあ勝負になるよ」と男が言うと、「オマエ、まさか『看板のピン』やろうとしてるんじゃないだろうな」とツッコミが! 「それ、少し前に流行ったから俺達みんな知ってるよ。でもそれ、6回に1回は中もピンで6倍付けで取られちゃうし、もう誰もやらないよ」「ええーっ!? じゃ、じゃあどうすれば…」「外のピンで勝負するってんなら、袋叩き。中で勝負してピンが出たら10倍づけ。2から5まででも俺達インチキを知ってるんだからオマエの負けだよ」「ちょ、ちょっと待って! えーっと、どうすれば一番被害が少ないんだ…?」 さあ、悩みに悩んだ男の取る道は? そして彼を待つ運命は…?

普通の『看板のピン』の盲点を突いた見事な展開と、鮮やかなオチ。談笑の面目躍如たる、意表を突いた古典改作だ。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 1」より)


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立川談笑『初天神』

初天神に行こうとする父に、「連れてっておくれよ!」とせがむ息子。「連れてっておやりよ!」と女房。「オ マエら同じような顔してうるせーよ!」「連れてってよ、アタイこんなに信心深いのに」「うそつけ!」 渋々息子をつれて出る父親。女房は「おとっつぁんが変なトコ行かないように見張ってるんだよ!」と息子の金坊に声を掛ける。

「おとっつぁん、本当はその裏ッ手にある色っぽい場所に行こうとしたのに、行けなくて不機嫌?」と父の顔色をうかがう金坊。そのうち、チョコバナナだとか焼きそば、たこ焼き等々、いろんな屋台が出てきて「アタイ、アレ買ってくれコレ買ってくれって言ってないから、言わないことのご褒美として何か買ってくれるのはどう?」と言い始める金坊。「アタイが買ってくれっていうのと、おとっつぁんが自分から買ってくれるのとは違うと思うよ」「ダメ」「買ってあげたほうが子供のためじゃないの?」「ダメ」「ああ…アタイの心が今ビシッと割れた…」

「いや、いつも俺が何でも買ってやるからイケネェんじゃないかと思ってな」「でも飴は一番安いから…」「泣いたら絶対買わない」「あははは」「笑ってもダメ!」「チョコバナナ! ダメ? じゃあフィリピン人買ってよ」「バカ! …ホントは何も買わないつもりじゃなかったんだよ。じゃあ飴でいいな」

せっかく買った飴を落としてしまった金坊。かわいそうなのでタコ屋へ。「あたいは与太郎さん」「オメェ、道具屋だな。そのタコはヒョロピリ…ってそのタコじゃねぇよ!」「じゃあ、これ。ペンダコ」「これは?」「ヤッコだこ。初め四角であとはグズグズ」「うわっ! 何だコレ」「死んだコ」「おいおい!」「だって河原で上がってるのがタコだって神田の叔父さんが」

タコや糸を買ってスッカラカンの父親。「おとっつぁんの心がピシッと割れたぞ。タコ屋の与太郎に全部取られちまった。あーあ、俺、おでん屋で一杯やりたいのに…あっ! 与太郎、おでん屋で飲んでやがら!」 タコを上げに行くが、金坊は上手く上げられない。「金坊、引きずってる!」「タコ楽しー!」「楽しくないだろ! 手を離せ!」「……」「手で話すんじゃないよ!」 父親は息子からタコを取り上げて自分で遊んで大喜び。「おとっつぁん、やらせて!」「触るな、この 野郎!」と父親が金坊をボコボコに殴る。「タコなんか子供が触るもんじゃねぇ!」「いててて…こんなことなら、おとっつぁん連れてこなきゃ良かった」

飴を落としてからのやり取りやタコやの与太郎、父子によるタコの壮絶な奪い合いなど、随所に普通の古典には無い談笑独自の演出が。何を演っても一味違う談笑ならではの、ヒネリの効いた『初天神』だ。

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 1」より)


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立川談笑『居残り佐平次』

場所は新橋の居酒屋。遊びに行きたいけど金が無い、と話している四人組のところへ「あっしが知ってるいいところへ行きませんか? いえ、私、客引きじゃありませんよ。一人一円でいいですから。四人まとめて四円ってどうです?」「怪しいよ、どうせ後で何だかんだと…」「私も一緒に遊ぶんですよ。ヤリてぇでしょ?」「…うん」「じゃ、決まり!」と四人を誘ったこの男こそ、佐平次だ。五人で品川に繰り出す。大店に上がって、飲んで食ってドンチャン騒ぎ。

やがてお引けとなり、一人一円ずつ集めた佐平次は、「朝になったらアンタ達はサッと帰って。俺は居残るから」と指示。「おい、よしなよ、居残りって、酷い目に遭うんだよ、ボコボコにされて、腕折られたり…」「いいんだよ、居残りたいの」

翌朝、若い衆が勘定を取りに来ると、「俺がここに何しに来てると思うの!? のんびりくつろいでるところに、そんな冷ややかなモノ入れるの?」「あ、じゃあ…」「まだまだ遊ぶの! 終わった時に勘定はまとめてドーン!」と若い衆を煙に巻いて、もう一日。

再び若い衆が来る。「あの…」「おっ、久しぶり」「もう日も高いので、このあたりで…」「わかってねぇな! 切るか、ここで?」「一度切らせてください」「おととし、あそこの向かいの店で二十日続けて遊んだ五人が俺たちだよ? 知らないの?」「じゃあ、あの四人は」「河岸の、裏のほうの人間で、ツッツッツッて廻るとドーンって懐に大金が入るの! 今夜ドーンと撒き散らすよ」 さらに粘る若い衆に「じゃあ旦那を呼んでよ」と、旦那を呼ぶと、佐平次が前夜見せたナンキン玉 袋の芸に感心した旦那は「あの芸が出来る人に悪い人はいない」と、そのまま遊ばせる。


翌朝。「四人、来ませんでしたね。金あるのかよっ! 八円五十銭!」 若い衆はコワモテになって迫る。勘定が払えないと言う佐平次は、「布団部屋へ下がりましょうか」と平然としている。「テメェ、覚悟しとけよ! 腕の一本や二本…」と手荒に出てくる。「あ、ちょっとコレ」と差し出す佐平次。「何だよ、一円じゃ足りない…」「いや、これはキミに。居残りからキミへの祝儀だ」「こんなんで俺が丸くなるとでも…」「俺の気持。取ってといてくれ。あとは煮るなと焼くなと」

「おい、集まれ! あの居残り、思い知らせてやろう」「いや、必ずしもそういうことはしないでも…」と、さっきの若い衆。「何言ってんだ、二度とこういうこと出来ネェように片目つぶして…」「いや、旦那さんが出かけてるから、帰ってきたら何とかしてもらうってことで、今は…」

こうして手荒な真似をされずに済んだ居残りの佐平次。布団部屋から出てきては何かして、また出てきて何かして…と、いつの間にか存在が店に浸透していく。掃除は上手いし、買いものもするし、座敷に出ては芸をする。「近頃、俺たちのところに祝儀が来ない」「あの居残りの野郎が全部持ってってるんだ」と怒る若い衆。そこへ居残りが来て「何言ってるんですか、ちゃんと皆さんの取り分ありますよ。はいこれ」と金を渡し、「私の分はありません。居残りですから。皆さんのです」

「下地がねぇぞ!」と怒鳴る客のところに「お待ちどおさま!」と入っていく居残り。「紅梅花魁のところの勝つぁんでしょ?」とおだてにかかる。「紅梅さん、今いっぱい客取ってるのはあなたと一緒になりたいからですよ。泣いてますよ、客とった後。あなたは女に希望を与える人だ。こういうとこの女は人生、諦めてますよ。それを」と、そこに入ってきた紅梅花魁。「なに話してたの?」「オメェが俺と一緒になりたいって」「…言えなかったの、言い出したくても…こんな私でももらってくれる?」「きっと一緒になろうな!」「人情噺になったところで私は下がります」

旦那がしばらく留守をしているうちに料理だの何だのと、店の差配を居残りがするようになっていき、帳簿まで見るように…。花魁たちに踊りや三味線の稽古を付け、化粧の指南役も。「ほら! 基本は目尻から…こう! ここをこうして…ね? 全然違うでしょ?」とメイクアップアーティスト並みの力量を発揮して、ますます花魁たちの信望を集める。

「自分を好きにならなきゃ! キミはきれいだよ! 辛いこともあっただろうけど、今のキミがいい! どんな悲しいことがあったのかな」「…(泣)」「そうかそうか、キミの優しさだよ。さあみんな! 小菊ちゃんが自分の心を開くことが出来ました!」と怪しい自己開発セミナーみたいにな。「私達は皆、生かされてる!」「居残りさん!」「居残りさん!」「さあみんな、キミたちが仕事をするのは?」「お客様の笑顔のためです!」


すっかり店中を洗脳した居残り。そんなある日、旦那が久しぶりに品川宿の寄り合いから戻る。帳簿を見て、その稼ぎの多さに驚く旦那。「女房は…芝居か? ところで、居残り佐平次って酷いヤツがいるんだってね。店乗っ取られて、最後はボロボロに捨てられて。気をつけなよ」「いえ! うちのは良い居残りです!」「そういやウチにも居残りいたな。面通しさせなさい」「今、奥様と芝居を観に行ってます」

「芝居の後でこの人に抱かれて」と佐平次と一緒に帰ってきた女房を見て、「あ、なるほど。噂のとおりだ。吉原のほうで店を乗っ取って従業員を集団自殺させたり、店を二束三文で叩き売ったり…さあ、帰ってくれ!」と追い出そうとすると、「イノさんに何言ってるんですか!」と怒り出す従業員一同。

「旦那さん、いえ、元旦那さん、ですかね。私はちゃんと下調べして来てるんですよ。奥さんが土地から何から全部持ってるってことをね。皆に訊いてみましょう。この旦那に残って欲しい人!」 シーン…。「この私に、この店の旦那になって欲しい人!」「ハイ!」「ハイ!」「ハイ!」「ハイ!」 誰もがこぞって反応する。

「いいか、オ マエ達、みんな後悔するぞ!」と旦那は店の全員に言いながら、風呂敷包みを持って「私は絶対帰ってくるぞ! その日まで、アバヨ!」と歩いていく。「おい、旦那、そっち行っちゃダメだ、裏だよ、道はネェよ!」「いいんだよ、私は一からやり直すんだ。布団部屋へ通してもらうよ」

カルト教団の教祖のようなカリスマ性に満ちた天才詐欺師…従来の『居残り佐平次』とはまるで異なるキャラクターが大活躍する談笑版。佐平次が店の中でどんどんと存在感を増していく課程の、丹念でリアルな描写が素晴らしい。談笑版大ネタ改作の名演!

(「J亭 談笑落語会 花鳥風月 花・Part 1」より)

『長短』『百年目』『蔵前駕籠』

2月の「J亭 談笑落語会 四季・冬Part 3」 3題です。


立川談笑『長短』

気が短い短七、誰かが自分の家の戸口に立っているのを感じて「誰だそこで覗いてやがるのは!」と声を掛けると、そこにいるのは友達の長七。「長さんか、入れよ」「いいのかい?」「早く入れよ!」「でも、今俺が入ると邪魔かな」「そんなことねぇよ。突っ立ってられると気になるから入れ!」「でも忙しいかなとか、俺、気を遣って戸口に立ってたんだよ」「いいって言ってんだろ」「そうは言うけど角のタバコ屋のおばさんも…」「何言ってんだ?」「あの、火事が…」「火事か? どこが? 久保町か?」「火事になると、どうでもいいようなつまらないもの持って出ちゃうんだよね」と言って長七は黙り込む。イライラした短七は「で?」と訊ねるが、「え?」と不思議そうに長七は訊き返す。

「いや、汚い話だけどね、ゆうべ夜中におしっこで…」「泥棒か!」「え? 泥棒? 泥棒が入ったの?」「いや泥棒かと思って」「いや、泥棒と火事は一緒かな…よく八百屋なんかでもそういうことあるよ」と黙り込む長七。さらにイライラして「で!?」と短七が訊くと「え?」と訊き返す。「いや、だから!」「あ、星がね」「流星群か!」「え? 流星群なの?」「いや、俺が訊いてるの!」「だって短七っつぁんが言ったんだよ」「いや、俺は先回りしてさ」「あ。流星群じゃないの?」「流星群は忘れろ」「あ、星がきれいだなって、明日はいいお天気だなって思ったら本当にいい天気だなって。おはよう」

この調子で、会話が全く噛み合わない二人。早トチリで先回りしすぎる短七と、回りくどくて話があっちこっちに行ったり、いいかけて途中でやめたりする長七。通常の古典落語『長短』では、長七はものすごくゆっくりしゃべるだけの男だったりするのだが、談笑版の長七は全然ゆっくりしゃべらない。やたら話が回りくどくて何を言いたいのかわからないという、談笑版の長七のようなタイプは現実にいる。このリアリティが素晴らしい。

お茶を飲むにもお菓子を食べるにも、とにかく長七のすることなすことがまだるっこしくてイライラする短七。「短七さん、怒ってる?」「怒ってネェよ! 性分なの! イライラしてるだけ!」「ゆっくりしたほうが人生楽しいよ」「俺はやること全部済ませてからゆっくりしたいの! やることがあるとイライラするんだよ!」


長七のタバコの吸い方にもイライラする短七、「タバコなんてなぁ、こうするんだよ!」と、一服吸ったらすぐに叩いて次の煙草を詰める、というのを忙しく繰り返す。「わかったか! こうやるんだよ!」 それをジッと見ていた長七「ふーん……タバコって不思議……あり得ないようなことって見たことある?」「何だよ、言いたいことがあったら早く言え」「いや、ビックリするようなことがね…でもまたイライラするかな」「しねぇよ」「でも自分の失敗とか指摘されたらイライラ」「しねぇよっ! 俺は自分のことでオマエには怒らないから! オマエのことでイライラするだけだよ! 言わないとイライラするから言え!」

「短七っつぁん、さっき何服吸った?」「七、八服かな」「それの三服目…いや四服…?」「いくつめでもいいよ、どうした!」「火玉がね…ちょっとやってみるよ、ホラ」と長七、キセルを叩いて火玉を短七に向かって飛ばす。「危ネェな!」「ね? でも凄いよ。これ、どこ行くかわからないよ。なのにそれをスコーンと石川遼クンみたいに…あ、やっぱり言わない。怒ると思う」「怒らない」「でも、何で今さらそんなことを言うんだって怒るよきっと」「怒らないよ! 悪いところは自分で直さなきゃって思うよ俺は」「そう? 凄い速さだよ、火玉がね、こんな狭いところを、袂にスコーンと…」「なにっ!?」 短七が袂を見ると、火玉が入って焼け焦げている。

慌てて消した短七、「バカ! そういうことは早く言えよ! 俺達、丸焼けになっちゃうよ!」「え? 火が燃え広がって焼け死ぬまでジーッと待ってるほど、短七っつぁん気が長い人なの? あ、そうかあ…」「バカ! マヌケ!」と怒りまくる短七の様子を見て「うわーん!」と号泣する長七、取り乱してタバコ盆を引っくり返してしまう。「あっ、このバカ! タバコ盆引っくり返しやがって! 火事起こす気か! バカ! 帰れ!」「ほら怒った、やっぱり言わねぇほうがよかった」

「話が飛んだり言いかけてやめたり、マイペースで相手をイライラさせる長七」と「先回りしたがる短七」のコミュニケーションの破綻を描いた『長短』、談笑落語ならではの傑作だ。ちなみに談笑自身は「先回りしたい、先手を取りたい」タイプだという。


(「J亭 談笑落語会 四季・冬Part 3」より)


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立川志の輔『百年目』

10042703今、最も観客動員力のある人気落語家、立川志の輔。「志の輔らくご」は落語界という枠を超えた、日本でトップクラスのエンターテインメントだ。談笑はゲストに迎えた「立川流の兄弟子」志の輔に、「ガツン!と大ネタを演ってください」と依頼、志の輔はそれに応えて『百年目』を披露した。

大店を取り仕切って、奉公人からは旦那よりも恐れられている番頭。遊びを知らない「堅い男」という店での顔とは裏腹に、影ではまるで大店の旦那であるかのような大盤振る舞いの遊びに興じていた。桜が盛りの春のある日、この番頭が大勢の芸者や幇間を引き連れて向島へ屋形舟で花見に行く。素面のうちは人に顔を見られないように気をつけていた番頭だが、しこたま酔って土手に上がり、派手に遊んでいると、店の旦那とバッタリ出会ってしまう。「こんな派手な遊びをしているところを見て、旦那はお怒りに違いない。これでもう、俺も終わりだ」と絶望する番頭……。

人情味溢れる旦那の言葉が大きな感動を呼ぶ『百年目』は、志の輔の数ある古典の大ネタ十八番の中でも最も素晴らしい演目。旦那と会ってしまった番頭が、帰ってきて一晩悶々とし、翌朝、いよいよ旦那に呼ばれる。ここからが志の輔ならではの、最も印象的な場面となる。番頭を呼んだのは一緒にお茶を飲もうと思ったからだと言い、茶を淹れる旦那。沸いた湯をそのまま注がず、湯ざましをしてから注ぎ、「…どうですかね…」と独り言のように呟きながら、丁寧にお茶を入れる。

「番頭さん…昨夜寝られたかい? 私は眠れませんでした」と本題に入る。「おまえさんに任せてからは一度も見なかった帳面を、昨夜は初めてじっくり見させてもらいました。あれだけの遊びをするには、どれだけの穴を……しかし、針の穴ほどの穴もありませんでした。帳尻合わせをしたんじゃないことはわかります。帳面づらを誤魔化したりは一切していない。見事なもんです。帳面に穴を空けずに、あれほどの遊びをおまえさんがしているということは、おまえがそれだけの商人になっていたということ。いろんなお得意様がおまえさんを遊ばせてくれていたんですね。おまえさんがそこまでの商人になっていたことが私には見えなかった」

十五で店に連れて来られた頃は何も出来なかった子が、いつの間にか立派になって…と振り返る旦那。「私が今までで一番嬉しかったのは、おまえさんに『番頭になってください』と言った時でした。よくぞここまで、と…。でも、昨日はもっと嬉しかった。これだけの人を番頭にしておいて申し訳ない。もうとっくに店を持つべき人だった。なのに私は番頭として使っていた。おまえさんがそこまで立派になった嬉しさと、それに気づいてあげられなかった悔しさとで、ゆうべ私は眠れませんでした」  そして旦那は深々と番頭に頭を下げる。「おまえさんに頼みがあります。来年、きっと店を持ってもらいます。それまで、このまま番頭をやっていてくれませんか? やってくれる? そうかい! いやあよかった」と笑顔になる旦那。「もしもあなたがやってくれると言わなかったどうしようと、私はそれが心配で一睡も出来ませんでしたよ」 それを聞いて涙する番頭……。

三遊亭圓生、桂米朝、古今亭志ん朝らの名演で知られる『百年目』。志の輔もまた、そうした名人達にまったく引けを取らない名演で、観客に大きな感動を与えた。現代最高峰のエンターテインメント、「志の輔らくご」の真髄を味わわせる見事な一席だった。

(「J亭 談笑落語会 四季・冬Part 3」より)


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立川談笑『蔵前駕籠』

幕末の江戸、鳥羽伏見の戦いが始まってからはよからぬ輩が跋扈し、たいそう危険だった。特に、蔵前のあたりは夜になると必ず追いはぎが出て、吉原へ向かう駕籠を襲うという。駕籠屋はそれを承知しているから、そっち方面への客は乗せないことになっている。そんな中、追いはぎをも恐れず駕籠で吉原へ行こうという男がいた。

「お客さん、知らないの?」「俺は何も知らない男、九九だって一の段しか言えない」「追いはぎが出るんだ」「好きだよ、二人組で」「それ、おぎやはぎ。俺達はお客さんのためを思って止めてるんだよ」「そんなの民主党のマニフェストとおんなじ」「でも追いはぎが出たら俺達だって危ない」「いいよ、賊が出たら駕籠屋さん達は俺を置いてズラかっちゃって。向こうは駕籠ちゃん要らないんだろ?」「そうだね、辻ちゃんも要らない」

金をたんまり出すからと駕籠屋を説得し、追いはぎが出たら逃げていいという約束した男、駕籠に乗り込む前にすっかり着物を脱いで、畳んだ着物を座布団の下に入れ、紙入れもそこに隠してから座って「さあ、駕籠を出していいよ!」「凄いね、女郎買いの決死隊だね!」

案の定、追いはぎ出現! 駕籠屋は客を置いて逃げ、賊は駕籠の垂れを持ち上げて「身ぐるみ脱いで……あっ! もう済んだか! しからば行け!」 それを聞いて客が「あ、そうですか」と座布団ごと抱えて行こうとすると「おっと、それは置いていけ」

従来の『蔵前駕籠』のサゲは「もう済んだか」。だが談笑は、そのサゲを改良した。短い中にも談笑らしいセンスが冴える一席。

(「J亭 談笑落語会 四季・冬Part 3」より)

『時そば』『二番煎じ』『芝浜』

1月29日(金)に介されました「四季 冬 PartII」の3題です。

立川談笑『時そば』

10042701江戸の夜を流して歩く屋台の蕎麦屋を呼び止めた男、「屋号がいいね」に始まり「割り箸とはきれいごとだね」「器がきれいだ」「汁がいい! ダシが効いてる」「蕎麦が細くてポキポキ、こうじゃなきゃいけねぇ」「チクワが厚くて本物、夜鷹蕎麦にしちゃ出来すぎだ」などとしつこいくらいに蕎麦屋を誉めちぎり、いざ食べ終わって勘定をする段になると、「十六文? 細かいのでいいかい? ひぃ、ふぅ、みぃ、よ、いつ、む、なな、や…蕎麦屋さん、いま何どきだい?」「九つです」「とお、じゅういち…」と、一文ごまかす。

それを脇で見ていた通りすがりの男、「上手いことやりやがったな」と気が付き、翌日それを真似してやろうとするが、何もかも裏目に出る。あまりに汚くて不味くてサービスの悪い最低の蕎麦屋で、誉めるに誉められず、最後に「ひぃ、ふぅ、み、よ、いつ、む、なな、や…今なんどきだい?」と訊くと「四つです」「いつ、むぅ、なな、や…」

あまりに有名な古典落語だが、談笑の『時そば』はオリジナル・フレーズ満載のユニークな型。最初の一文かすめる客の段階から談笑ワールド炸裂で「モノは器で食わせる」のところで丼の底を見て「…ウェッジウッド?」と訊いたり、「本物のチクワだね。これをチクワブがどうのっていう小三治師匠の演出どう思う?」とか。中野の実在の立ち食い蕎麦屋を「蕎麦という概念がガラガラと音を立てて崩れるほど不味い」と引き合いに出すのも談笑ならでは。

一文かすめるのを脇で見ていた男、勘定の仕方を思い出して「わはは、間違えてやんの……え? どっちが損したんだ?」と混乱し、「ひぃ、ふぅ…」と両手で数えてもわからないので電卓叩いて「ひい足す、ふう足す、みぃ足す…十六は…五十五!?」(笑) しかも後から出てくる蕎麦屋のダシにはとんでもない秘密が…。談笑の滑稽噺の定番。

(「J亭 談笑落語会 四季・冬Part 2」より)


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瀧川鯉昇『二番煎じ』

火事が名物と言われるほど火事の多い江戸。「自分の家は自分で守る」と、町内の旦那衆が深夜、交代で「火の用心」の夜回りをすることに。二組に分かれて最初に廻る「一の組」、あまりの寒さに鳴り物を鳴らすのをサボったり、「♪火の用心~さっしゃりやしょう~」という声が謳いの調子になったり。

それでも何とか廻って番小屋に戻って来た「一の組」。一人が「こんなものを持ってきました」と酒を出すと、「番小屋でそんなものを飲んで役人に見つかったらどうするんです!」と一応言ってはみたものの、「実は私も」「私は猪の肉を。味噌と鍋も」といった調子で、「土瓶から出る煎じ薬」と称して燗酒を飲み、猪鍋を突付いて大盛り上がり。と、そこへ見回りの役人がやって来て……。

落語芸術協会所属の瀧川鯉昇は一九五三年生まれの中堅真打。肩の力を抜いた、フワフワした独特の「鯉昇ワールド」を愛する落語ファンは多い。飄々と演じながらも強烈な個性を発散する鯉昇の古典落語は、一見「フラ(演者固有の何ともいえないおかしさ)」で笑わせているようでいて、実はかなり「濃い」演出。「動きそのものが何だかヘン」な仕草で笑わせるのも鯉昇ならでは。落語協会や立川流ではちょっとお目にかかれない不思議なタイプの個性派だ。

鯉昇の『二番煎じ』は、夜回りの場面で「声を二階の隅々まで届くような大きな声で言わないと…火の用心なんだから」と言われて「あ、そういう目的があるんですか? 初めて知りました」と、そもそも何で夜中に廻るのかの意味を把握して無い旦那がいたりするのが凄い。鍋奉行になった男が「まず目で楽しみ、口で…」とウンチクを語りながらウキウキと猪鍋の用意をしたり、「家で飲むのと景色が違いますからなぁ。家だとこの辺に家内なるモノがいて…」と番小屋で飲む酒の良さについて語り合ったりと、随所にユニークな演出が施されている。

「ふくべに酒を入れて持ってきたんです」「何です!?  酒!? 困りますよ、そんなことされちゃ!」「じゃ片付け…」「待ちなさい!」と素早く止める「一の組」の長、「こんなことがあるような気がして…ジャン!」と猪の肉を得意げに出す宗助さん等、ちょっとした場面が無性に可笑しく、アツアツの肉を口の中に放り込んで「熱いっ!」という演技なども実に上手い。随所で芸の細かさを見せてくれる、鯉昇ならではの一席だ。

(「J亭 談笑落語会 四季・冬Part 2」より)


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立川談笑『芝浜』

天秤棒で魚を売り歩く商売の亭主、酒びたりで休んでばかりだが、ある朝、女房に無理やり起こされて芝の浜へ行くと、革の財布に入った大金を拾う。「もう商いに行く必要がない」と浮かれて仲間を呼び、どんちゃん騒ぎの末に寝てしまう。ところが起きてみると「それは夢だ」と女房に言われ、愕然として心を入れ替え、酒を断って商売に精を出す。三年後の大晦日、今では店を構えているこの亭主の前に、女房が「あれは夢じゃなかった、あなたのために夢にした」と財布を出してくる。「そうか、おまえは正しいよ。ありがとう」「ねえ、お酒飲んだら?」「そうだな」と飲もうとするが、「よそう、また夢になるといけねぇ」…。

以上が、三遊亭圓朝作の『芝浜』。人情味のある古典の大ネタとして知られ、サゲの台詞もあまりに有名。ところが談笑の『芝浜』は、従来のストーリーとはまったく異なる展開で、サゲまで違っている。

10042702朝。魚屋の勝五郎を女房が起こす。「仕事行ってよ」「ヤだ」「何で商い行かないの?」「俺の親方が死んでから、仲間内で色々あってな、面白くねぇんだよ。いい魚も廻してもらえないし」「それはアンタが毎日行かないでしょ! アンタの酒はイヤなことを忘れるお酒。ね、仕事いこ」「じゃあ明日から行くからお酒飲ませて」「わかった、じゃあもう知らない! このまま死のう!」「おい…泣くなよ…わかったわかった、仕事行くよ。俺、オメェに泣かれると弱いんだよ。仕事、行く」「…信じていいのかな」

見送られて河岸へ出掛ける。「うわっ、寒い! …今日ばかりはマジで怒ってたな…。でも、アイツは偉いな、俺が『酒持って来い!』って言うと、どっからか必ず持ってくる。出来た女だよ。真面目に働こっと」 だが、早すぎて河岸が開いてない。浜へ出て深呼吸し、海を見る。「日が昇ってきやがった。懐かしいな」 海水でウガイして朝日に向かって柏手を打つ。「お天道さん、ご無沙汰してました。勝五郎、帰ってまいりました。オヤジが言ってたな、『魚屋ってのは、海から獲れるもので食ってる。海で獲れる一番大きなものは、あのお天道様だ』って……」 一服した勝五郎、「カミさん泣かせちゃいけねぇや、働こ」と言いつつ、ふと見ると波間に革の財布が。「重いな…幾ら入ってるかな……ん!?」

慌てて家に帰る。「おっかあ、開けろ! 開けろ!」「何で帰ってきちゃったの? 商いに行って…」「いいんだ、何か言うな! これ見てから言え、これでも俺が働きに行ったほうがいいかどうか」「何この汚い財布」「開けてみろ!」 財布の中には大金が。数えてみると四十両。「誰のもの?」「俺のもんだよ、海で獲れたもんだから俺のだよ」「そうね、古いし」「これでも俺、働きに行ったほうがいいかな?」「ううん! 行かなくていい!」「これでオメェにも楽させてやれるよ。新しい着物もあつらえてやる。うめぇモン食おう」「あたし、お金持ちのオカミさんとか言われちゃうのかな!」「おい、酒だ! 肴は要らねぇ。金眺めながら飲もうじゃねーか」

飲めや歌えのドンチャン騒ぎの果てに酔っ払って寝込んだ勝五郎。翌朝、女房が亭主を起こす。「商いに行ってよ」 寝ぼけ眼をこすって「…おめぇ何言ってるんだ?」と魚勝。「お金が無いから働いてよ」「ん? ああそう、はいはい、ありがと。朝起きて、眠いなーって思って、ああそうだ働きに行かなくていいんだっていう満足感を与えてくれるために起こしてくれたは嬉しいよ。でも俺、ホントに眠いんだ。おやすみ」「お金が無いのよ」「面白いよ、わかった、寝る」「無いんだよお金が! 飢え死にしちゃうよ!」「ゆうべ拾ったのがあるだろ」「何それ?」

「いい加減にしろよ! 昨日拾ってきた四十両があるだろ!」「拾ってきた? ああそう、じゃあ出してよ。家捜しでも何でもして、出してみやがれ! あんなに飲み食いしてドンチャン騒ぎして…バカ!」「オメェ、どこまで嘘つきゃ気が済むんだよ」「……(黙って泣く)」「泣いてたってしょうがねーだろ」「……情けない……そんな夢見るんだ」「夢? だって俺は浜へ」「行ってないじゃないか! 昼過ぎまで寝てて、やっと起きたと思ったらアハハ、アハハ…酒買って来いって…あたし、あちこち借金して頭下げて…情けない夢見るよね…」「違うよ、俺は拾ったんだよ!」

「ねえ! あたし、これまで嘘ついたことある? ……あたしのこと、信じてもらえないってことだよね? だったらいいよ、二人で一緒に死のう。このまま一緒に死のう」「いや絶対夢じゃねぇよ…オメェが嘘つくとは思ってねーけど」「……」「飲み食いしたのがホントで拾ったのが夢?」「知らない!」「夢…?」「いいよもう!(泣)」「わかった…働くよ。オメェを泣かせてすまねぇ。…すまねぇな、こんなクソヤロー亭主に持って、オメェ苦労してるな、泣かせてすまねぇな…借金させてすまねぇ…。働くよ! 酒も飲まないで働く!」「……信じていいのかな」「俺が嘘ついたことあるか?」「……無い」「じゃあ今から…あ、でも飯台が」「大丈夫」「庖丁」「ピカピカ」「草鞋は」「出てます」「……夢かなァ……」

ここから魚勝、死に物狂いで働き始めた。元々魚を見る目があるうえに、客あしらいが上手くて世辞もいい。腕もあるが、商売の才覚もある。どんどん繁盛し、三年後の大晦日。今では表通りに店を構えている。「ただいま」「上総屋の件どうなった?」「決まったよ」「じゃあ、年が明けたら河岸の中に」「店が持てるんだ、仲卸しだよ」「凄いね!」「オメェのおかげだよ。百両あれば河岸の中に大きな店が持てるって言われた時に、オメェが『はいよ』って右から左に百両出してきたからな。スゲェな、オメェのやり繰り上手は」「稼ぎ男があればこそだよ」

「いい匂いだな…そうか、畳替えたんだ、いいねぇ、女房と畳は…あ、いやまあ」「ふふ」「……除夜の鐘だ。こんなもんなんだな、世の中の年の暮れって。これまでは毎年、掛取りや借金取りが来て…前の前の裏長屋にいたときなんざ、掛取り追い返してくれる人に頼んだり…掛取り追い返してくれる人の中でも、あの市馬さんって人が一番うまかった。どうしてあの人、歌うんだろ」(笑)

「さてと」と言いながら立ち上がって何かを探す様子の勝五郎。女房が「あの、あたし、折り入って話が」と言うのを制し、「いや、俺も話が…ちょっと待ってくれ……」と言って勝五郎が出したのは汚い革の財布。それを見て泣く女房。「私が嘘をついてました、ごめんなさい」「いや、怒ってないよ。手ェ上げてくれ。いいから、聞かせてくれよ。俺これ知ってたよ。…泣かねぇでくれ、ホントに怒ってないから」 意外な展開だ。

「知ってたよ、オマエ、嘘ついて辛かったよな? 探してたよ…夢かどうかぐらいわかるよ。でも、俺も夢のつもりで生きていこうと思ったんだよ。一生懸命働いて…でも、オメェが居ないときには『さあっ!』ってんで家捜しだ。ずっと見つからなかった。おかしいと思ってたんだ。だけど一年ぐらい経ったら、あの糠味噌の脇のところにあった。『ヤロー、やっぱり夢じゃない!』ってカッとして……いや、そんときだよ、今は怒ってない。ただ、そんときは、見つけた金持って、酒屋へ走ったんだ。飲めるだけ飲んでやろうと思ってな」

「走った……寒いんだよ。寒かった……それでオメェのこと思い出した。オメェ、いつも俺に酒持って来いって言われて、どんだけ寒かったか、どんだけ辛かったか…。そんな思いして、ウチ帰ると飲んだくれがいるんだって…それ想って、オメェがかわいそうで、辛くって…。酒屋まで行けなかったよ。……でも、どうやった隠したんだ? それまで一年」

告白する女房。「あのとき、店賃が三つたまってたから、すぐ大家さんのところへ持っていったの。そうしたら、いっぺんに三つも払えるなんてどうしたんだって言うから、拾ったって…そうしたら冗談じゃない、届けなきゃダメだって…奉行所へ…」「あっ! そうか! それで一年後に下げ渡されて…奉行所かぁ…奉行所ねぇ、探さなかったなあ…」と言いながら、勝五郎は一升瓶から酒を注いで飲み始めた。「ん? 酒? はは、隠し事はお互いじゃねぇか。それにしてもオメェ、隠しごと下手だよな。引っ越すとき『大事なもの』って書いた箱の中にこの財布入れてたよな」(笑)

「俺、いつも『おっかあ、すまねぇ』って言ってただろ? あれ、ハナのほうの『すまねぇ』と、後のほうの『すまねぇ』は、ずいぶん違うんだ。俺、この財布見つけたってオメェに言おうと思ったんだけど、言えなくて…。あるとき、気づいたんだよ。朝、いつものように出かけて、忘れ物したんで後ろ振り返ったら、オメェが俺の背中に手を合わせて拝んでたんだ。あれ毎日やってるんだって思って…」涙ぐむ勝五郎。「オメェは何も悪くないのに、『オマエさんゴメンね』って泣いてるんだ。正直者のオメェが嘘をついたまんま、どれだけ辛かったか……。早くオメェに『知ってるよ』って言ってやりたかった……気がついてること言ってなくて、すまねぇ! 今までありがとうな。こんな暮らしが出来るのもオメェのおかげだ」「ううん、オマエさんのおかげだよ」 「これからも…」「これからもヨロシクね」

「メソメソした暮れだな、ははは」「ねえ、お酒飲んじゃおうか」「え? だって…」「飲んでるの、お酢でしょ? さっきからアナタの吐く息が酸っぱい。優しいわね、本当に……」 「そうか…でも、本当に酒飲んでいいのかな」「大丈夫、あの頃のお酒は逃げるお酒、でも今は違う。今のあなたなら大丈夫」「わかった! 飲むなら一緒にやろう」「ダメよ」「一杯だよ、オメェもいけるクチたろ?」「ダメ!  ダメなわけがここにあるの」とお腹をさすって「今、三月(みつき)なの」

「よし、じゃあ飲もう」と嬉しそうに酒を口許に持っていく。「嬉しい年越しだ! 大好きな酒、大好きなオメェと一緒にいただくよ!」と言いつつ、一瞬ためらい、「よそう、また夢になるといけねぇ…なんてな!(ゴクゴクゴク…っと飲み干す)」「おまえさん、飲んじゃったね!」「ここは飲みてぇじゃねーか!」

飲みながら、革財布を手に取る。「ずっと知ってたけど、手はつけてない。金はそのまんまだ。中、見てみろよ、ホラ」と言って財布を開けると……「えっ! 石コロかよ、おい! これ、どういう…?」「だって私、繰り女よ。稼ぎ男に繰り女って言うでしょ? その中に四十両入ってたほうがいいなら入れてあげるよ。百両でも、いくらでも入るよ」と笑う女房。「そーか! オメェ、やっぱり俺より一枚上手だな。面白ぇもんだ! ハハハッ!」「ねぇ、おまえさん、これ拾ったこと、もう一度夢にしない?」「ああ、いい夢かもしれない」

(「J亭 談笑落語会 四季・冬Part 2」より)

『粗忽の釘』『紙入れ』『富久』

お待たせしました。
昨年12月に介されました「四季 冬 PartI」の
3題です。


立川談笑『粗忽の釘』

粗忽者の亭主に女房が「今日は引越しなのよ!」と言うと、亭主は「とりあえずこの粗忽を治しにお祖師様にお参りに」「それ違う噺(『堀の内』)だから!」「わかった、じゃあ風呂敷を広げて…派手な風呂敷だ、と思ったらオマエの腰巻! その噺にならないようにネタ出ししてるんだぞ! タンス持ってくから! 上に火鉢も乗せて! 薄型テレビも!」「時代が違うよ」

タンス担いで出てったまま引越し先にいつまで経っても現われない亭主。だいぶ遅くなって汗だくで来たので事情を訊くと「大変な騒ぎだったんだよ、吾妻橋のとこで身投げしようとする人に女物の着物きた汚い人が五十両たたきつけて」「待ってたんだから。ホウキ掛けるからクギ打って!」「一服させろよ」「大工でしょ! クギ打って! 早く! クギ!」「オマエの、その物言いが俺の心をささくれ立たせるんだよっ!」 怒りに任せて大量の釘を壁に打ち込む亭主。「あ…プラネタリウムみたい」

「長屋の壁は薄いから隣に全部クギが出ちゃってるわよ! 謝りに行きなさい!」「ちょっと一服してから」「いいから先に行って!」「何だよ! もう少し俺を落ち着かせろよ!」と怒りながら向かいの家に行った亭主、「こういうヤツをこういう風にして」と手真似で説明。「わかりません」「壁からクギだよ、理解力ないのかテメェは!」「え? ああ、でしたらウチは大丈夫。アナタ、お向かいに引っ越してきたんでしょ? ほら、間に道がある。見てください」「いや長いクギなんだよ! 人の話はちゃんと聞け!」

「おっかあ、行ってきた。頭のおかしいヤツでさ」「お向かいに行ってどうすんのよ! お隣行って! ちゃんと謝るのよ! 落ち着きゃ一人前なんだから」「じゃあタバコよこせ! クギも出せ! 向かいの家に打ち込んでやる!」

改めて隣家に行く亭主。いきなり上がりこんで「落ち着かせてください」と一服。「あの…ご用件は?」と困惑する隣家の亭主を尻目に「今のはおかみさんですか? いい女ですね。ウチのはね…まあ口やかましいんですがね…夜になるとメスなんですよ! 私もワザ使うんですが、もう毎晩ヒーヒーですわ。指を、こう折り曲げて」「それ話しに来たんですか?」 「え? あっ! 打ち込んだんですよ」「何を?」「クギ」

どこに打ち込んだのか壁を叩いて教えるために家に戻る粗忽亭主。「まいったよ、オメェの夜の秘密しゃべらされちゃってよ」「また!? アンタどこ行ってもそればっかり!」 隣家の亭主の「どこですか?」と訊ねる声が聞こえ、「どれから行きますか?」「は?」「じゃあ、新しいの打ち込みます! バン! バン! バン!」「やめてくださいっ!」……。

再び隣家へ。「何だってあんな大声を」「アンタがやめないからですっ! ほら見なさいウチのお仏壇を!」「ありゃ、こんなに沢山ナニか出てて…ブードゥー教?」「アンタが打ったクギだろが!」「そりゃ弱った、ここにホウキ掛けに来なきゃいけねぇ」

時に意外な展開を見せることある談笑版『粗忽の釘』、今日は比較的オーソドックスな型。

(「J亭 談笑落語会 四季『冬』Part 1」より)


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立川談笑『紙入れ』

「今日は旦那がお泊りで、帰ってこないから」と、若い男を家に引っ張り込んで浮気をする女房。「お清さんにも帰ってもらったから、今日は二人っきりよ。私があげた手紙は?」「紙入れの中にしまって、持ってます」と答える貸し本屋の新吉。「そんな手紙、読んだら破って捨てちゃっていいのよ…アタシって悪い女?」とお酌する女房。「恐れ入ります」「アタシみたいなおばあちゃん、興味ない?」「そんな! おかみさんの歳、聞きましたけど、とてもそうは見えません…差し向かいでこんなことして、変な気になるじゃありませんか」「いいのよ」「やめてください」「やめたほうがいい?」「……やめないでください!」

そこへ思いがけず旦那様が帰ってきた。「慌てないで! 裏から帰って」と新吉を逃がし、亭主を迎える女房。一方、新吉は「帰らないんじゃなかったのかよ…あっ! 紙入れが無い! 落とした? いや…向こうで置いて…慌ててたんで、逃げるときタバコ入れだけ指に引っ掛けて…紙入れ忘れた! おかみさんの『新ちゃん遊びに来なさいよ、チュッ♪』って手紙が入ってるのに!」

翌朝、様子を見に恐る恐るやって来た新吉を迎える女房。「あら新さん。旦那、新さんが」「え? 新公? 何やってんだ、入ってこいよ」 泣きそうな顔で入っていく新吉。「旦那…怒ってますか?」「怒ってるよ! オメェのこと信用してるのに、この仕打ちは何だ!?」「死んでお詫びします」「手を上げろ…本屋が客の注文忘れてどうする。猿飛佐助の続き、どうなってるんだ!」「えっ?」 ホッとする新吉。「本かぁ…よかった」「よくねぇよ!」「すぐ持って来ます。ああ…いい朝だ」

「何だ、心配事でもあるのか」「あったけどなくなりました」「聞かせてみろよ」「色事の話です」と、新吉はニコヤカな表情になる。「相手はどんな女だ? 商売女か?」「もっと悪い相手」「ひょっとして亭主がいるのか」「そのとおり。でも亭主は知らない」「知ってるよ」「えっ!?」「オメェは知らないと思ってても、相手は知ってるって」「……どっち!?」「そういうもんだよ、俺は経験ないけど」「…うわあ、よかった!」

安心した新吉は口も滑らかにしゃべり続ける。「性悪女ですよ。手紙なんかよこして! でも亭主が帰ってきちゃって」「間の悪い亭主だな」「俺、旦那にもらった紙入れ、そこに忘れてきちゃって」「オメェの紙入れだって知られてるのか? じゃあ気づかれるだろ」「しかも中には女の手紙が」「逃れられないじゃねぇか」「そこをスッと逃れて今の幸せがある」 そこへ女房が。亭主が話をすると、女房はシレッと言う。「そういう性悪女は財布みつけて隠しておいて後でスッと新吉さんに返すと思うよ」 すると亭主、「だよな。それにそんな亭主、財布があっても気づかねぇだろ。ところでな新吉。オメェはそう思ってても…」と言って新吉の財布を取り出した! 「ここにこれがあるってことは、どう考えても答えは一つだよな?」 絶句する新吉。

普通の『紙入れ』のサゲをスッと通り越して意外な展開になった談笑版『紙入れ』、その結末とは……。

亭主は言った。「オメェ、その女のとこへ、手ぶらで行ったんだよ」

(「J亭 談笑落語会 四季『冬』Part 1」より)


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立川談笑『富久』

大事な旦那をしくじって貧乏長屋暮らしをしている幇間(たいこもち)の久蔵、今は「大神宮様のお祓い」をして歩いている。と、バッタリ出会ったのは上総屋の旦那。「久さん、幇間やめたのかい?」「いえ…年末になるとこれで小銭稼いで」「おまえさんも大変だな、久保町の旦那しくじっちゃってから…ところで旦那は?」「富くじ売ってるんだ。一枚が一分」 久蔵は手持ちの細かい銭をかき集めて一分にし、売れ残っていた「鶴の千五百番」というくじを買う。「それ、当たったらどうする?」「いい着物買って幇間やります。私は幇間で生きていきたい」「大丈夫、きっといいことあるよ!」

富の札を大神宮様のお宮に納めて眠った久蔵。夜中に「久保町が火事だぞ!」と長屋の人に起こされ、しくじった旦那のところへ慌ててて駆けつける。真冬の寒さが身に沁みる久蔵。「犬が鳴いてる…泣きたいのは俺だ!」 一方、久保町の旦那(近江屋)のところは阿鼻叫喚。「旦那様! 鼠穴を塞ぐの忘れました!」「番頭、余計なこと言うな」「旦那様! 文七が帰ってきません!」「やめとけ」

凍えそうになりながらやって来た久蔵を見て近江屋は「心配してきてくれたのが嬉しい。いろんなことは水に流そう」「ありがとうございます! さっそくお手伝いを…風呂敷をお借りしてタンス運び出します。その上に火鉢とか針箱とか薄型テレビとかも乗せて」「いいんだよ」「あの、堀の内はどちらで」「笑わせなくていいから!」

力仕事は向かない久蔵、火事が消し止められた後は、旦那の「お前の出入りが叶ったことが皆様にもわかるように」という粋な計らいで、火事見舞い客の名を帳面につける係に。「あっ! 上総屋さん!」「久蔵! どうした!」「火事見舞いに来て、旦那のお許しが」「そうか、よかった! いいことあったな!」 他の火事見舞い客も次々に「あ、久蔵さん!」「よかったな!」「お前の芸また見たいよ!」と祝福する。差し入れの酒を飲んでいる客たちは、「久さん! 帳面つけてないでこっち来て一緒に飲もうよ!」

酒が入った久蔵は、客たちの求めるまま芸を見せる。「お前の得意だった、『今ここで一番言っちゃいけないことを言うゲーム』やってよ!」とはやし立てられ、景気づけにと酒を一気飲みして騒いだのはいいが、♪焼けて嬉しや…と唄ってしまったのが近江屋の逆鱗に触れ、「バカ野郎! お前はまた出入り止めだ! 出てけ!」と塩を撒かれて追い出されてしまう。すると聞こえてきたのは「深川按針町が火事だ!」という声。久蔵の長屋のある場所だ。

ボロボロになって久蔵が深川按針町に辿り着いたのは翌朝のこと。久蔵が見たのは、何も無くなってしまった長屋の焼け跡だった。呆然とする久蔵。「焼けた…座敷用の着物も三味線も、全部焼けちゃった…」 そこへ通りかかった鳶の頭(かしら)。「火事だっていうから、家財道具も着物も全部運び出したんだ。大神宮様の神棚も」「え! ありがとう、カシラ!」「最後まで聞けよ。悪いヤツらがいるねぇ。置いといて、ちょっと目を離したら、火事場泥棒に全部持ってかれちゃった! もう何も残ってないよ。かわいそうにな。うちへ来るかい?」「いいですよ、カシラ。私と一緒にいると良くないことが起こりますから…」

「燃えるも火事場泥棒も一緒だ…。こうツイてないと、あのくじ当たってるかもしれない…行ってみようじゃネェか! あれが千両当たってるようなら、死んでやる」と椙森神社に確認に行く久蔵。当たるなよ、当たるなよと願う久蔵、だが一番の千両は「鶴の千五百番」! ヤケクソになった久蔵は「チクショー! オマエ らみんな殺 してやる!」と大暴れ。「当たりやがった…当たりやがった…」

そこへ現われた上総屋。「どうした、何してる? え、千両当たった? そうか、それはよかったな!」「でも富くじは燃えちゃって、ありません!」「いいんだよ、もらえるよ」「えっ!?」「大丈夫だよ、売った私が半札を持ってるから。お前さんの札が燃えて大丈夫。千両もらえるよ」「志ん朝師匠はそんな風に演ってませんでしたよ」

「いやホントによかったな久さん。また幇間やるの?」「はい!」「よかったなあ…これが盗まれたんなら大変なことになるんだけど」「え?」「燃えたんだろ?」「……あ、いや……火事場泥棒に……」「えーっ? じゃあダメだよ、もらえないよ。どこかに札があるわけだからね」「でも、その札持って来たヤツは泥棒ってことでしょ」「いや、泥棒から買った人かもしれないし、善意の第三者ってこともあるから」 

「畜生…畜生…」 絶望し、泣きながら歩く久蔵に声を掛けたのは近江屋の番頭。「探しましたよ! 火事だったんでしょ? 昨夜のしくじりは、もう大丈夫です、出入りできますから。ゲームだって知らなかった、早とちりだったって旦那も後悔してますから。戻ってきてください」「そう言ってまた追い出すんでしょ!」「いや、大丈夫だって! あの後、うちの若い衆の二人が大八車引っ張ってお前さんとこ行って、家財道具いっさいがっさい持ってきてあるんだから」「えええーっ!? …いや嘘だ…嘘だ…」「本当だって。え? 大神宮様? あるよ」「嘘だっ!」「本当だよ。目つきが危ないね、夕べから一体、何がお前にあったんだ?」

「おー、久蔵、夕べは早とちりして悪かったな」と近江屋が優しく声を掛けるが「グルルル…」と獣のように唸る久蔵は人を寄せ付けない。「一部屋おまえのために空けさせた。いつまでも居てくれていいんだ」「信用してませんから!」と小さな扉を開けると「……無いっ!!」「それはうちの娘のリカちゃんハウスだ」 そして大神宮様の神棚を開けると、富の札がちゃんとあった! 富くじを額に押し頂く久蔵。「旦那様! 久蔵が新しい宗教を! 額に押し頂くと罪障消滅…」

「そうか、千両当たったのか。これも大神宮様のおかげだな」「いえ、大神宮様のバチが当たったんです」「どうして」「私はどこまで行ってもタイコですよ。バチが当たればいい音(値)が出ます」 通常の『富久』とは異なる、ヒネリの効いた演出。談笑ならではの大ネタだ。

(「J亭 談笑落語会 四季『冬』Part 1」より)

『火焔太鼓』『五人廻し』『黄金餅』

お待たせしました。11月に開催された「四季 秋Part III」をお届けします。
今回は、立川左談次師匠をお迎えしの開催となりました。

立川談笑『火焔太鼓』


直江兼続の「恋」の兜や前方後円墳の鍵といった怪しい品物ばかり仕入れては損をしている道具屋。父もお雛様の首が抜けるのなどを商う道具屋だったという。この道具屋が今日も何か仕入れて風呂敷にくるんで背負ってきた。「あっ、何この汚い太鼓! またこんなもの買ってきて!」と怒る女房、「ペッ!」と太鼓に唾を吐きかけ。「なんでこんな汚い太鼓に一分も出して買うの! ほら、ここなんか唾みたいなのが付いてる!」「それオマエの唾だよ」

そんな汚い太鼓だが、小僧が叩いてる音を聴いて気に入った殿様が買ってくれるという。お屋敷に呼ばれた亭主、女房に「こんな汚い太鼓を持ってきおって!って怒られて、松の根元にくくりつけられて頭の皮はがされて殺されるよ! 松の根元に『助けて』って足で書いて朽ち果てるんだよ」と脅される。「太鼓だけに…うち死によ(泣)」「なんだその人情噺は」と言いながら二人は涙に暮れる。「逃げようか」「私たちの足じゃ逃げ切れない」と諦めて太鼓を背負い、出かけようとする亭主。「オレ、どこへ行くんだっけ?」「今日はそういうキャラじゃないの」

赤井御門守様の屋敷へ着くと門番が「高木作左衛門様のところへ?」「それは違います」「では近藤様が松の肥やしにされると?」「それも違います」 案内される途中に松があるのを見て「あれが噂の松を曳いたり戻したり…ああっ! 松の根元に誰か死んでる! 」「あれは初音の鼓を持って来た道具屋だ」

太鼓を出すと「この汚い太鼓か?」と取次ぎの重臣が驚く。「何故オマエのところの小僧は猫の屍骸を叩いてるのかと思っていたが…」 太鼓を持って重臣が去る。「ここで逃げたら新しい展開だ」と逃げようとした道具屋だが、扉は閉まって出られない。万事休す。しかし、殿様に見せるとたいそう気に入ったとのこと。「嘘だ!」と怯えきっている道具屋を、重臣がなだめる。「あれは火焔太鼓という名器だとか。いくらで手放す?」「そうやって油断させて捕まえて松の根元に縛るんでしょ! それで口の中に虫が…」「何を妄想しておる。手いっぱい値を言ってみよ」「百億万両!」「値段になっておらんな。三百両でどうだ?」「嘘だ! 贋金で騙すつもりだ!」「おまえ、縛られたいのか?」

なかなか信用しなかった道具屋だが、三百両を受け取ってようやく現実だと納得、上機嫌で帰る。「あっ! オマエさん生きて帰ってきたってことは大変だ、アナタ縛られそうになって反対に刀を奪ってみんな斬り殺してここへ舞い戻ってきたんだね、逃げなきゃ!」「バカ、あの太鼓が売れたんだよ」と三百両を目の前に出す。「これなら文七さんが六人来ても大丈夫ね。やっぱり商売上手ね、今度は半鐘買ったら?」「だめだよ、オジャンになる」「死語なのよソレ。サゲの当てはあるの?」「太鼓だけにドンドン儲かる」「今日のお客さんそれじゃ許してくれない」

「…なんて、あの頃は大変だったなあ」「あの三百両でここまで来たわね」「そうだな、筆取ってくれ、表書き書いておこう。『はてなの茶碗』と」

名人志ん生の十八番として知られる噺を、談笑オリジナルのギャグ満載で作り変えた爆笑編。パロディ的なサゲも、もちろん談笑の創作。

立川談笑『火焔太鼓』(「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part III」より)


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立川左談次『五人廻し』

売れっ子の喜瀬川花魁目当てに吉原にやってきたものの、肝心の女は来ず、「廻し 部屋」でひたすら待たされている男達と、彼らをなだめて廻る若い衆。吉原通を気取る職人は怒りを爆発させて「金を返せ!」と若い衆を怒鳴りつける。慌てて退散した若い衆、次の部屋に行くと今度は「給仕! 雑役夫! 前へ進め!」と威張り散らす官憲風の男で、「このままではフツフツと湧き上がる性の欲望を抑えきれぬ、自爆テロを起こすぞ! ここへ来たは肉を喰らうため、金を返せ!」と、やはり怒鳴りつける。

そこを退散した若い衆を「こけーこったらこけーこ!」と呼ぶのは「アマッコがなくなったでがすよ」という田舎者。もっとも自分では「おら、イドッコだよ」と言っている。そこから逃げ出した若い衆、今度は「そこを通行するは当家の若い衆さんでゲショ?」とゲショゲショ言うキザ男。円菊師匠のような動きをしながら、「尊君のカラダをお貸し」と危ない雲行きに。「怖いことは無い、背中を向けて…そこへこの真っ赤に焼けた火箸をジュウと…」

「やれやれ、今度は五人目だから大丈夫だろう」と若い衆は「お大尽」気取りの田舎者、杢兵衛の居る部屋へ。そこに喜瀬川もいた。「アンだって? 喜瀬川こねーから客、怒ってるてか? 玉代返せ? 田舎モンだなそりゃ。一人に一円で、四円やるから、そいつらにやって帰せ」すると喜瀬川「お大尽、あたしにも一円」「ええよ」「じゃあこの一円お大尽にあげるから、帰ってちょうだい」

立川左談次は一九五〇年生まれ、一九六八年に立川談志に入門して、一九八二年に真打昇進。談志が落語協会を脱退して立川流を創設する以前からの「寄席育ち」の弟子。飄々としたキャラとキレのいい江戸前の口調、頭の良さを感じさせる痛快なギャグ・センスが魅力の、「これぞ落語家!」という素敵な存在だ。

立川左談次『五人廻し』(「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part 3」より)


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立川談笑『黄金餅』


貧民窟の長屋。「西念さん、風邪こじらせたんだって?」と乞食坊主の西念を見舞う隣の金兵衛、実は西念の貯め込んだ金を狙っている。「西念さんは俺の本当のオヤジみたいな気がしてるんだ。壁の穴から見てるけど、何日も何も寝込んでるね。何も食ってないし。…随分貯め込んだんだろ? どこだ? この布団の下かな?」「やめて、やめてよ!」 布団の下を探られまいと必死に守る西念。

アンコロ餅が食いたいと言う西念に大量の餅を届ける金兵衛。「帰って!」と追い出して西念は一人で食おうとする。「偏屈になりやがって…」と金兵衛は、自分の部屋の穴から隣の様子を覗き見る。「あ、むこう向いて何かやってやがら…アンコと餅を別々にして…普通に食え!」 チャリッ!「金だっ! 飲んでやがった、このヤロー!」 慌てて隣家に飛び込む金兵衛、西念の脚を持って逆さ吊りにして激しく揺さぶる。「吐け! 吐け!」 口からノドに手を突っ込んだりしてるうちにグッタリする西念。「あれ? 西念さん? …死んじゃった、どうして!?」

「さあ、金を出さなきゃいけない、どうする? このまま身体を切り裂いて金を出してから西念さんが死んだって大家に言いに行っても俺が犯人みたいだし…そうだ! 焼き場で焼いて、金だけ取ろう!」 金兵衛、まずは大家のところへ行って「西念さん死んじゃった。『金さん、あとは頼む』ってのが遺言だから、俺の寺へ行って弔い出すよ。いつかのらくださんのときみたいに銭出し合って」

長屋の連中も皆、西念が貯め込んだ金を狙って来る。「おい、テメェら、弔いなんだから木戸銭払えよ!」 簡単な通夜のあと、長屋の一行は菜漬けの樽に西念さんの屍骸を入れて麻布絶口釜無村の木蓮寺へ。「ウワッ! これが寺?」と驚くような貧乏寺。門を叩いて「おーい!」と呼ぶとヘベレケの和尚「何だ! 酒屋の小僧か! 銭ならネェぞ!」 犬が出入りする穴から入れと言われ、「こんな穴、樽なんか通らねぇぞ」「立川談志の本にも書いてなかったな」「しょうがない、中身だけ持って行こう」と屍骸の足首を持ってズルズルと引きずって入っていく。

何にも無い寺で値切って弔いを出す。「父と子と聖霊の御名において地獄に落ちろ、カーツ!」でお経が終わる。「香典全部、金さん持ってるだろ? それで何か食わせてよ」と言う長屋の連中に「西念さんが『床板をはがした跡を掘らないでくれ』って言ってたのが気になる…」と金兵衛は呟く。「あっ! そうか、俺帰る!」「俺も!」 こうして金兵衛一人が残り、庫裏にあったアジ切り庖丁を懐に、西念を担いで焼き場へ。

「オメェさんと二人っきりになっちゃった」 金兵衛は夜道を歩きながら西念の死体に話しかける。「セガレみたいってのは嘘じゃネェよ、一緒に二人であの地獄から抜け出して、団子屋でもやりたかった。本当の親子みたいに、『ほら、おとっつぁん、団子焼けたよ』なんて言って…そういう真っ当な暮らしがしたかった……聞いてるかい、西念さん?」「あい」「……西念さん?」「あい」「えっ!」「金さん…殺さないで…」 西念が口をきいたので慌てて金兵衛、首を絞めて殺す。「あービックリした」 すぐに気を取り直して焼き場へ直行。「開けろ開けろ!」

隠 坊に「お腹の辺りは生焼けで、強火の直火で」とリクエストし、焼きあがった屍骸の腹の中に手を突っ込む「アチチッ!」と言いつつ、金をどんどん拾い上げて袂に入れ…「これでよし!」「うわっ! 何だアンタ、死体グチャグチャにして!」「あとのガラは全部オメェにやるよ!」 この金を元手に餅屋を開いてたいそう繁盛したというおめでたい一席…とサゲた。

貧乏の悲惨さを描く江戸落語を、談笑は一層リアルに「人間の怖さ」を浮き彫りにした。西念が生き返ったのを殺しておいて「あービックリした」の一言で済ませる感覚が凄い。談笑の大ネタ十八番の一つ。

立川談笑『黄金餅』(「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part III」より)

『山号寺号』『吉田御殿』『抜け雀』

お待たせしました。
10月30日(金)に開催されました「四季 秋 part II」のお話です。

立川談笑『山号寺号』

103101 上野広小路で若旦那とバッタリ会った幇間の一八。「若旦那、どちらへお出かけで?」「うるさいな、浅草の漢音様だよ」「イヨッ! 金龍山浅草寺にご参詣!」「違うよ、浅草だよ」「ですから金龍山浅草寺」「何で山へ行かなきゃいけないんだよ!」「えっ、ご冗弾をあれは、拝むのは観音様でも、場所は金龍山浅草寺でしょ。山号寺号ってヤツで」「何だ山号寺号って」「成田山新勝寺とか東叡山寛栄寺、身延山久遠寺と、どこにでもある」

 「どこにでも? 言ったな!」 自分の無知を幇間に突かれてカチンと来た若旦那、「ここにもあるんだな」とムキになる。「いえ、寺があればっていう」「いやいや、オマエは『どこにでも』って言った! さあ探せ山号寺号を。あれば祝儀に一円やる。無けりゃ出入り止め!」「んな、無茶な!」「これからは口の利き方に気を付けるんだな」と立ち去ろうとする若旦那にすがりついた一八、「ちょ、ちょっと! あそこに車屋が! 車屋さん広小路、ってのはどうです?」とダジャレで返す。

 一円せしめた一八、調子に乗って「またあったら一円ずつくださいよ」と言って、「日本共産レッドパージ」だの「足長おじさん交通遺児」だのダジャレで一円ずつ稼ぐ。「あ、子供の乞食だ。一家離散、生き恥」「可哀そうだな、一円はこの子にやろう」「南無三、仕損じ」「それはサゲだろ!」(笑)

 その後も歩きながら観るもの総てに引っ掛けて「グルタミン酸、隠し味」等々ダジャレを連発、とうとう若旦那の財布は空っぽに。「じゃあ、今度は俺の番だ」と若旦那は一八の財布を預かり「おおいい財布だな」と懐にしまうと「一目散、随徳寺」と走り去る。「あっ! みんなご破算、大赤字!」

立川談笑『山号寺号』(「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part 2」より)

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柳家喬太郎『吉田御殿』

103102 暑い夏の盛り、峠の茶屋に辿り着いた若侍、中村新之助。汗で全身びっしょりなので、茶屋の主人が「お召し物を洗いましょう」と気を利かせてくれる。「そうか、では遠慮なく」 と、新之助は見晴らしの良い場所で越中フンドシの横からイチモツを取り出して気持よく立小便を。途端に血相を変えて飛んでくる茶屋の主人。「厠はあちらに…!」「いや、何となくここでしたら気持よかろうという気になっての。いけなかったか?」「いえ…何故か皆さんそこでしたくなるのですな…そんなことを言っている場合ではない、今すぐお発ち下さい!」「しかし、まだ着物が濡れて…」「いえ! 今すぐお発ちに! でないと女中が! 早く早く!」

 うろたえた主人の様子は明らかに異常だ。と、そこにどこからか現れた女性。「旅のかたですね? お急ぎでなければ、ぜひ我が家でご休息くださいと、わが主…この先の吉田御殿の女主人が申しております」 急ぐ旅でなし、宿も決めていない新之助は言われるがままに吉田御殿という広い屋敷へ。恐怖におののきながら後姿を見送る茶店の主人、「ううう…南無三、仕損じ」(笑)

 吉田御殿の女主人は「淀どの」と呼ばれる、実に色っぽい妙齢の美女。新之助は風呂を勧められ、湯上りには二人並んでの夕餉の膳。外はにわかに天候が悪化し、激しい雨…やがて雷が。「怖い!」と抱きついてくる淀どの。その鎖骨のなまめかしいこと! うなじの白さ、そしてあらわになった太もも…「ああ…新之助様…」と寄り添ってくる美女、思わず抱きしめた新之助。

「落語ではこの先は『破れていて読めない』とか言うものですが…今日はやるんです!」ということで、若い二人はくんずほぐれつ、もうヒィヒィ、キャアキャア、三日三晩ヤリ通し。夜中になり、さすがに身体がもたないと逃げようとする新之助。だが見つかってしまった! 逃げられない新之助。「離しません、新さま…」

 さらに淫行にふけり続ける二人の身に起こる悲劇。果たして淀どのの正体とは…? エロ全開のこの噺、新作ではなくれっきとした古典である。

柳家喬太郎『吉田御殿』(「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part 2」より)


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立川談笑『抜け雀』

 宿場で客引きをする男。「お泊りではございませんか?」と声を掛けた相手は「シッ!」と宿の男を制して地面を見ている。「見てみろ、蟻だ…この動き、この小ささでこれだけ精緻に…ん? 何だその方は?」「お泊りでは?」「ああ、泊めてくれ」「金はお持ちで?」「持ってる持ってる…泊まれるほどには。宿はひと月ぶりか…おお見ろ、蝶だ! かようなものにも生が…」

 一文無しばかり引き込む間抜けな宿の主人が、また汚い男を連れてきたので女房「何であんな乞食みたいなのを!」と怒る。汚くて臭い旅人は意に介さず「みすぼらしい宿だな。かようなところに泊まるのは貧乏人であろう。ん? 酒? いや、無ければ飲まないし、有れば飲む」

「ちょっと、二階の乞食もう二十日も居るよ!」と女房が怒る。「金持ってないわよ!」「その事実を知るのが怖い」「毎日、あの人と一緒に出歩いて何やってるのよ!」「オマエがわかってないんだよ、毎日キリキリ生きるだけが人生じゃない。何でもちゃんと見ると美しいんだ。この国、この宿場、美しいな…ホラ、夕日が!」と涙ぐむ主人。「あの人、万が一お金持ってなくても、いい人なんだよ」

 結局、旅人は文無しだった。職業は絵師。宿代の代わりに絵を描くという。「硯を…筆は要らん」 絵師は真っ白な衝立に素手で直接なにやら細工を…「絵が出来た、見てみろ。二年ぶりに描いた。会心の出来だ」「え? 何も描いてありませんよ。入ってきた雀がそこに居るだけで」「雀を描いた」「あ! これ、絵ですか!」と触ってみると「ホントだ! 絵だ!」「面白い仕掛けがしてある。宿代の代わりだ。言っておくが、絶対に売っちゃいかんぞ」「なぜ?」「それは、この宿、この場所にあってこそ…まあ、わからんだろう」

 旅人は出て行き、宿の主人と女房は揉めに揉めて夜を過ごす。翌朝、女房が二階の部屋に行くと「雀! 入り込んでる…窓開けなくちゃ。(と開けると)あれ? 外に居るわよね! (窓を閉める)あ、入ってきた! (窓を開けて)ほら出た! (閉めて)ほら消えた!」 日の光が当たると見えなくなり、窓を閉めると生き生きとそこに見える、それが「雀が飛び出る」ように見えるのだ。さあ、この絵はたちまち「抜け雀」と評判になり、この宿は大繁盛……。

 古典落語『抜け雀』の絵師のキャラを大幅に変え、「絵が抜け出る奇跡」に芸術としての合理性を与えた、談笑ならではの改作。通常の古典同様、父親がカゴを描きに来るが、それを息子は感謝することなく「全然わかっちゃいねぇ!」と猛反発し、再登場した父と壮絶な争いを繰り広げることになるのだった。

立川談笑『抜け雀』(「J亭 談笑落語会 四季『秋』Part 2」より)



J亭 うちあげ話 vol/8



秋の第二回目、今日の場所はいつもの新橋から赤坂へ。
「赤坂聳え(そびえ)」という関西ローカルフードの店。土手焼きで飲みたく設定。
字が覚えづらい、書きづらい、ほんというと書けない。
中国語簡体なら「103103」とか。確かに楽ですが少し空虚な感じ。
ここの土手焼きは本場関西の味にオリジナルのブレンド味噌と赤ワインで煮込んで少し違った絶妙の味になってるとのふれこみ。

J社のSさんは関西に長かったので「うまいけど、こんなオシャレやない。土手焼き味とは違う。天王寺動物園界隈のが・・・・自分は基準」とのこと。
でも焼酎飲むのにはかなりいけてるような。
ゲストの喬太郎師匠、都合で打ち上げには参加できず(残念!)。

今回は艶笑噺の「吉田御殿」。寝転がるは腰を動かすはで、度肝を抜かれっぱなし。
その興奮がさめやらぬままの打ち上げは、たったひとつしかない個室。
定員は10名のところに13人。斜め座りが3名。
喬太郎師匠参加していたらどうしたんだろう。くんずほぐれつ「土手焼き御殿」か。




(佐)





『猫と金魚』他

お待たせしました。
9月25日(金)に開催されました「四季 秋 part I」のお話です。

『猫と金魚』

 あるお店の旦那。番頭を呼んで「金魚がいなくなった」と言う。「私は食べません」「誰がおまえだと言った! 隣の猫が金魚を食べちゃうんで困る。金魚屋が通るよ。買ってきてくれ」「買ってきました」「猫が食うから上げとけ」「あげました。かわいい猫ですね」「金魚を猫にあげろと言ったんじゃない! 金魚屋が通るよ、買って来い!」「買って来ました」「上げとけ!」「カラッと揚げました」

 まったく話が通じない番頭。「そんなところに上げるんじゃない、おろせ」と言えば「三枚におろしました」、「高いところに上げろ!」と言えば湯屋の煙突の上に。「だんなさまーっ!」「この落語でホントに煙突の上に登るのは初めてだな。そんなところにあるの望遠鏡で見たって心が癒されないよ! 下に降ろせ!」 ガチャン!「煙突の中に落とすんじゃない!」 その後も、金魚と金魚鉢を別々に棚に置いたり、とにかくメチャメチャな番頭。「ひょっとして金魚の敵は猫じゃなくてオマエだな番頭!」(笑)

 湯殿の棚の上に置いたら、窓が開いてて猫にやられた。「猫を追っ払え!」と言われて番頭が猫に挑むが散々にやられ、仕方なく近所に住む威勢のいいトラさんに猫退治を依頼するが……。『のらくろ』シリーズで知られる田河水泡が初代柳家権太楼のために書いた「昭和の新作落語」の談笑版。サゲ近く、「こういう演出初めて! これ、オチ考えてるんだろうな!」「え、私に振るんですか!」と談笑らしい意外な展開も。

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『野ざらし』

 「ゆうべ女を連れ込んでただろ」と隣家の尾形清十郎のところへ行った八五郎に、清十郎「あれはこの世のものではない」とわけを話す。向島に釣りに出かけたところ、人骨野ざらしを釣り上げてしまい、手向けの句を詠んで回向してやったところ、女の幽霊が礼に来たというのだ。


 「幽霊でもいい女だよ、俺も欲しいね。幽霊って足が無くても股は有るの? 股は!」と情欲に燃える八五郎、清十郎から釣竿を無理やり借りると「へへへ、三点責めでヒィヒィ言わせてやる」と妄想に耽りながら向島へ。「うおーい! コツは釣れますかァーッ!」と叫ぶ八五郎に「何ですあの人、目が血走ってますよ」と迷惑そうな釣り人たち。「そっち行くぞーッ!」「あっ、来ちゃいましたよ!」

 歌を唄い、釣竿で水をかき回す八五郎に迷惑する釣り人たち。だが八五郎はお構いなしで騒ぎ続け、どんな女が釣れるかと妄想モードに突入。「年増もいいけどマンション買ってくれとか言われそうだな。高校生は八割が性病だっていうからダメだな。やっぱり四、五歳がいいな、キュッキュッ♪て音がするサンダルはいて来るよ。『おじちゃん、遊びまちょ♪』……」 普通はここでオツな年増の妄想に耽るのだが、談笑版は幼児相手に「その口がいけまちぇんよ、チュネチュネしちゃいまちゅよ♪」と妄想に耽る。(笑)

 あんまり騒ぎすぎて釣り針が鼻に引っかかり、「イテテテテ! こんなモン要るか!」と針取っちゃうところまで。この後、本当に骨を見つける展開からサゲに行くのだが、寄席などでは普通、談笑が演ったように、「針を取っちゃう」ところまででサゲる。


~仲入り~




『猿のゆめ』

 胃の具合が悪くて病院に行った男、診断の結果「医学上、あなたはヒトではなくサルでした」と宣告される。「何だよそれ!」と、信じようとしない男。しかし、どの病院に行っても、染色体を調べたりした結果、「あなたはサルです」と診断される。

 会社へ行くと、「サルを今まで雇用したことが間違い」と、退職金も出ずクビ。妻も「このマンション、ペット禁止だから」と引越しの準備。「サルとの婚姻届は無効ですって。バイバイ、おサルさん♪」と出て行ってしまう。

 翌日、医者のところへ行くとそこには妻が。「そういうことだったのか!」「あなたゴメンなさいね、ホントはアナタが邪魔だったのよ。おなかの子の父親はこのなの…なんてそんな陳腐なドラマだと思ったら大間違い! あなたはサル! サルなのよ!」

 保健所に連れて行かれそうになり抵抗すると、「ヒトに危害を加えるサル」として指名手配され、男はマンホールに逃げ込む。そこで出会ったのは「医学上、俺の恋人はコレラ菌だった」という男。この男は大腸菌だった。「俺達は実験動物を解放するテロリスト集団だ。オマエも俺達の仲間だろ。サルだな?」

 追ってきた保健所の人間に消毒されて死んでいった大腸菌。「死ぬな、大腸菌ーっ!」 サルの叫びは空しくマンホールに響く……。

 落語ファンの爆笑を誘うオチ…と思ったら実は…という二段階の意外なオチが秀逸。談笑の新作落語の傑作!

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『片棒・改』

 四席目は先月も演った『片棒・改』。「ネタ出ししたので演らないわけにもいかないから演りますが、先月観た人、同じですので帰ってもいいです」(笑)

 ケチで知られる赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべい)、自分の築いた身代を三人の息子の誰に継がせればいいのかを決めようと、「おとっつぁんが死んだらどんな弔いを出す?」と順番に聞いていく。

 長男がオカマ、三男がユダヤ人の母を持つ異母兄弟、という設定の『片棒・改』。なぜ「改」かというと、本来の『片棒』の「片棒はおとっつぁんが担ぐ」というサゲの台詞が出てこないから。

から来ているが、談笑ヴァージョンは三男がユダヤ系という設定を利用したオリジナルのサゲなので、「片棒」という言葉が登場しない。ゆえに『片棒・改』と呼ばれる。


 ハイライトは次男が某幕張のテーマパークのパレードを模した葬儀のアイディアを語るところ。「地獄へおちろ!」と父にトドメを刺すシーンを嬉々として話す次男に「バカ!」とキレる父が可哀相で笑える。基本的に内容は(談笑自身が言ったとおり)先月と同じ。



J亭 うちあげ話 vol/7



秋の初回。今回は独演会でした。
打ち上げの最大のテーマは名誉にも、枕でも使われた担当者のアキレス腱の断裂話と次回の喬太郎師匠の期待話。
今日の打ち上げ場所も「guin」。またまた遅くまでごめんなさい。
今回は短めで、以上です。

(佐)







『お化け長屋』『片棒・改』『青菜』『疝気の虫』

今回は8月21日「J亭」の演目、全4話。談笑落語会の夏より4本の演目をご紹介します。

『お化け長屋』

082101 長屋の連中が共同の物置代わりに使っていた一軒の空き部屋に、大家が「貸家」の札を貼った。「誰も引っ越してこなければ今までどおり使える」ということで、古狸の杢兵衛と呼ばれる長屋の古株が「長屋の差配だ」と名乗って、借り手に「あの部屋では三年前に美しい後家さんが惨殺され、それ以来夜な夜なその後家さんの幽霊が出る」という怪談噺を聞かせ、追い返そうと画策する。

 早速一人の男がやって来て、杢兵衛は一龍斎貞水ばりの話術で怪談を披露、男は怯えて逃げ帰った。しかし、二人目の男は途轍もない乱暴者で、いくら脅しても全く動じない。怪談を聞かせる際に「あの部屋に住むっていうなら店賃払わなくていいよ」と杢兵衛が言ったのを幸いと、その乱暴者は「引っ越してくるから掃除しとけ!」と言い放って帰っていく…。

 ここまでが『お化け長屋』の「上」で、引っ越してきた乱暴者を追い出すべく「本当にお化けを出して脅かす」というのが「下」だが、「上」だけで終える演者が多い。談笑の『お化け長屋』も「上」のみ。

 といっても談笑ヴァージョンは通常の『お化け長屋』とは異なり、二人目の「乱暴者」は、実は落語ファンなら誰もが知ってる「店賃を払わず周囲に乱暴を働きながら長屋に居座っていた嫌われ者」。その正体が明かされるのが談笑版『お化け長屋』の見事なオチになっており、「下」が必要ない噺になっている。

 立川談笑『お化け長屋』(「J亭 談笑落語会 四季『夏』Part 3」より)
 

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『片棒・改』

082102 極端にケチなことで知られる赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべい)は、一代で大きな身代を築いたが、それを三人の息子の誰に継がせればいいのかを決めようと、自分が死んだらどんな葬儀を出すつもりかをそれぞれに訊ね、彼らの了見を知ろうとする…これが『片棒』という噺。

 談笑の『片棒・改』も噺の骨格は同じだが、長男がオカマ、三男が上の二人と母親が異なりユダヤ人とのハーフという設定で、三人がそれぞれ提案する葬儀の内容も古典とは大きく異なる。『片棒』というタイトルは、サゲの「片棒はおとっつぁんが担ぐ」という台詞から来ているが、談笑ヴァージョンは三男がユダヤ系という設定を利用したオリジナルのサゲなので、「片棒」という言葉が登場しない。ゆえに『片棒・改』と呼ばれる。

 長男は贅沢な料理を出す派手な葬儀を、三男はケチの極致の葬儀を提案するのは古典の『片棒』と同じだが、談笑版は「長男はオカマ」「三男はユダヤ系」ゆえに、とんでもないアイディアが続出、爆笑を呼ぶ。

 古典の『片棒』のハイライトが次男の提案する「芸者の手古舞や山車の出るお祭り騒ぎの葬儀」であるのに対し、談笑版の次男はSF的な演出を施した壮麗なパレードで、やはりここがハイライトとなっており、某幕張のテーマパークのヒーローの名を観客全員で叫ばなければ次に進めないという「お約束」もあって、この日は「あれあれー? 元気が無いぞー? ここで我慢しないと立川談志も出てこないぞー」と司会のお兄さんが呼びかけたのだった。

 立川談笑『片棒・改』(「J亭 談笑落語会 四季『夏』Part 3」より)
 

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『青菜』

082103 お屋敷に出入りの植木職人。ジッと動かずに庭を眺めている。そこにお屋敷の旦那が「植木屋さん、ご精が出ますな」と声を掛けるが、職人は最初、相手が旦那と気づかず「精は出ネェよ! ここまで見事に造られた庭は、うっかり無神経に手を出したら総てがぶち壊しになるんだ。それにしても見事な庭だ…」と呟いている。これが談笑版『青菜』の冒頭場面。

 やがて、旦那だと気づいて恐縮する植木屋に、旦那は「大阪の友人から送ってきた柳蔭(という酒)」や「鯉の洗い」を振舞う。喜んで飲み、食う植木屋。「菜のおひたしはお好きかな?」と訊かれて「大好きです」と植木屋が答えると、旦那は奥方を呼んで菜を所望するが、奥方は「鞍馬から牛若丸がいでましてその名を九郎判官」と謎の一言。それに対して旦那は「そうか、では義経にしておきなさい」と答えた。

 どういうことか気になった植木屋がわけを訊くと、このやり取りは「その菜を食ろうて無くなった」「ではよしにしておきなさい」という、お屋敷の「隠し言葉」だという。すっかり感心した植木屋は、自分のうちでもそれを女房とやってみせて友達を感心させようと企むが、ことごとく失敗する。

 前半の植木屋と旦那とのやり取り、後半での植木屋の失敗の可笑しさ…これらをどう描くかで演者の個性が大きく分かれる噺で、談笑は台詞の数々に大量のオリジナル・ギャグをぶち込み、独自の世界を作っている。「暑い盛りに押入れに隠れていて汗だくになる植木屋の女房」を半死半生に追い込む極端な演出で「強烈な暑さ」を感じさせるのも談笑版『青菜』の大きな特徴だ。

 立川談笑『青菜』(「J亭 談笑落語会 四季『夏』Part 3」より)
 

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『疝気の虫』

立川談志 談笑が三席演った後、トリで登場した「落語立川流家元」立川談志。健康状態が悪化していることを吐露し、ジョークをいくつか披露した後、『疝気の虫』を。軽いネタながら、若き日から今に至るまで談志が愛してやまない十八番演目の一つだ。

 ある医者が、変な虫を見つけて潰そうとすると、「私は疝気の虫です」と名乗る。疝気とは下腹部が強烈に痛む病のことで、虫が言うには、自分たちが人間の体内であちこちの筋を引っ張るから痛むのだという。

 疝気の虫は蕎麦が大好きで、蕎麦が体内に入ってくると元気が出て暴れ、勢いよく筋を引っ張り始める。だから疝気に蕎麦は良くない。弱点は唐辛子で、唐辛子がくっつくと疝気の虫の身体はそこから腐るので、体内に唐辛子が来ると別荘(男性の睾丸)に逃げ込む。これらの情報を得た医師は、そこで目が覚める。と、「うちの旦那が疝気で苦しんでいるので」と往診を頼まれた。そこで医師は、夢に見た知識を活用しようと思いつく。

 まず、病人の枕元で奥さんに蕎麦を存分に食べさせ、その匂いを亭主(病人)にかがせる。すると疝気の虫たちは蕎麦を求めて旦那から飛び出し奥さんの口から体内へ。そこで奥さんが唐辛子の水を飲むと、疝気の虫たち、慌てて別荘へ逃げ込もうとするが、奥さんには別荘は無かった…。

 ストーリーの中に縦横無尽に「今思いついたこと」を投入し、観客に話しかけ、演っている噺に関して客観的に語るという「談志噺」の典型とも言えるスタイルで、「立川談志という個性」を強烈にアピールした一席。往年のエネルギッシュな演じ方とは異なるが、フワフワした味わいがあって魅力的な、「談志にしか創り出せない世界」がそこにあった。

 立川談志『疝気の虫』(「J亭 談笑落語会 四季『夏』Part 3」より)
 

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J亭 うちあげ話 vol/6



 夏のラスト。スペシャルゲストは家元でした。
 会場はJTビル内の「築地 植むら」。楽屋から歩いて1分なので、今回はこのお店にお願いしました。
 料理はなんといっても老舗の店。二手間三手間もかけています。普段の打ち上げの新橋界隈の居酒屋とは違います。中華風焼きそばでさえ特別謹製。営業時間も料理も特別仕立てでした。
 味も文句なしのはずだったと思います。
 なぜならば、滞留時間はわずかでしたが、愛弟子、談笑師匠の会ということもあり、体調のあまりよくなかった家元がなんと打ち上げに参加。

082104 ピリッと張り詰めた空気のなかでの美味という「へんな夜」の不思議な味わいでした。

(佐)




『蟇の油』『片棒』『らくだ』

少々遅くなりました。
柳亭市馬師匠をゲストに迎えて7月17日(金)に開催された、「談笑落語会 四季夏partII」の3本の演目をご紹介します。

立川談笑『蟇の油』

大道で物を売る商売の中でも派手なのは蟇の油売り。もっとも今は見かけることは無いが…。立て板に水の口上をまくしたてて、日本刀を使ってのパフォーマンスで通りがかりの人々の注意を引きつけ、「痛み止めと血止めに驚異的な効能を発揮する薬」としての蟇(ガマ)の油を売りさばく。『蟇の油』は、それで儲けた大道商人が酔っ払ってもう少し商売をと企み、失敗するという噺。

「さあさあ、お立会い、お立会い! 御用とお急ぎでない方はゆっくりと見ておいで…」と、流暢な口上をまくしたてる蟇の油売り。右手に持ったガマガエルについて「手前持ち出したるは四六のガマだ。四六、五六はどこでわかる、前足の指が四本で後足の指が六本。これを名付けて四六のガマだ! このガマの棲むところは、これよりはるーか北に当たる筑波山の麓にてオンバコという露草を喰らい…」と説明し、その油を漉き取ったものには「打ち身すり傷、腫れ物いっさい、シモの病に用いて効能がある。虫歯などは何でもない」とセールストークを展開。「刃物の切れ味を止める!」と宣言し、日本刀で紙を切って見せ、の刃に油を塗って自分の腕を切ってみせるが切れない! 続いて油をふき取ると触れただけで腕から血が…。そのキズも、蟇の油を付ければ「タバコ一服吸うか吸わぬうちに痛みが取れて血が止まる!」と実演、これが飛ぶように売れて…。

「金が入って一杯やってイイ気持で、そのまま家へ帰れば良かったんですが、まだ出来るんじゃないかと酔っ払ったままもう一度やってしくじったという、お馴染みのお笑いなんですが、『これをスペイン語でやったら』というのをひとつ…」と、スペイン語ヴァージョンの「蟇の油の口上」を演るのが、談笑の専売特許。スペイン語もどきではなく本当のスペイン語で流暢に演るので、スペイン語圏の人に聴かせるとバカウケだというが、スペイン語をよく知らない日本人が聴いても可笑しいのが談笑の凄いところところだ。

スペイン語の口上で場内を沸かせた後、噺の後半へ。ベロベロに酔っ払ってるので、口上はメチャクチャ…ここで談笑ならではのアブナい爆笑ギャグがテンコ盛り。蟇の油を刃に付けた日本刀で自分の左手首をズバッと切ってしまい、血がドンドン噴き出して…。サゲの台詞も談笑はひとヒネリあるオリジナル・ヴァージョンだ。

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柳亭市馬『片棒』

今日のゲストは五代目小さんの弟子、「柳家の正統」を理想的な形で受け継ぐ柳亭市馬。1961年生まれ、1993年に真打昇進。古典落語本来の面白さをわかりやすく伝える市馬は、その人柄の良さ、美声、そして何より落語の上手さが多くのファンを惹きつけてやまない。「将来の名人」と言われるほど、器の大きな落語家だ。

『片棒』は、ケチを極めて身代を築いた赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべい)という男が、三人いる息子達のうち誰に身代を継がせたらよいものかと思案し、自分の葬式をどうするつもりかを聞いてみる、という噺。長男は「この大きな身代に相応しい盛大な弔いを」と、東京ドームを借り切ってオーロラ・ヴィジョンに父の遺影を映すだの、超豪華弁当に一万円の車代も付けるだのといった贅沢極まりないプランを披露して吝嗇家の父を嘆かせる。

次男はさらに突拍子も無い男で、「弔いの歴史に燦然と輝く派手で色っぽい葬式を」と言い出す。この次男の「芸者の手古舞や山車を出して盛り上げる」アイディアを描写する場面は、芸達者な噺家の腕の見せ所となっていて、市馬も持ち前の「いいノド」を最大に活かす。見事な木遣り唄でウットリさせてからの展開は市馬の独壇場で、祭りに見立てての大騒ぎの場面では美空ひばりの「お祭りマンボ」まで飛び出す。花火を打ち上げた後の弔辞の場面のトボケた可笑しさも市馬ならでは。

浪費家の長男・次男に呆れ果てた父だが、三男は父譲りのケチな性分で、「お弔い、やりますか?」「…そこからかい、オマエは?」ということになる。「チベットのやりかたで」と、地球に優しい鳥葬を提案するが、さすがに父も「軒下につるされてハゲタカについばまれる」のはイヤだと言い、「では棺桶代わりに菜漬けの樽で…」ということになる。運ぶのに人足を頼むと出費になるので片棒は自分が担ぐが、あとの片棒をどうするか…と三男が言うと父が答える。「心配ない、片棒は俺が担ごう」

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立川談笑『らくだ』

「らくだ」と渾名される無頼漢はあまりにも乱暴で近所の鼻つまみ者。誰もが「あんな野郎、しんじまえばいい」と思っている。そのらくだが、フグの毒に当たって死んでいるのを、やって来た兄貴分が発見し、自分では銭を持ってないが弔いを出そうと決め、通りかかった屑屋に「ここにある品物を買っていけ」と言う。屑屋はこの兄貴分がらくだ以上の乱暴者であることを察知し、「買えるモノはありませんが、香典代わりに」と銭を出す。これで逃げようと思った屑屋だが、「長屋の連中から香典集めて来い」だの「大家に酒や食い物を持ってこさせろ」だのと、兄貴分に使われることになる。

この、気の弱い屑屋が実は酒乱で、酒を飲むと立場が逆転することに…というのが『らくだ』という噺。立川談志十八番でもあるこの『らくだ』、談笑は古典のままの設定の中で、大幅に演出を変えて、アッと言う意外な結末を迎える。本来の『らくだ』はサゲまで演ると長くなる上に後半はダレ場が多いという理由から、屑屋と兄貴分が立場逆転して屑屋が兄貴分を脅しつけるところまでで終える演りかたも多い。談笑ヴァージョンは、「後半部をやらない」やりかたでありながら、「弔いへ行く準備」の中で衝撃のラストを迎えて見事に完結させるという、極めてユニークな噺に作り変えた。もちろん、談笑オリジナルの構成。

冒頭からして、「おい、らくだ!」と訪ねてきた兄貴分が「何だ、ゆうべ鍋やってたのか…雑炊だ、美味いな」とフグ鍋の残りをバクバク食べてしまうという意表を突く展開の談笑版『らくだ』、全編に渡り独特な演出が施されていて、例えば「屍骸にかんかんのうを踊らせる」と大家を脅す場面も、屑屋が「かんかんのうを知らない」ので、別の「知ってる歌」を唄ったりするのだが、酒を飲みながら兄貴分と屑屋が話す場面も通常とはまるで異なる。兄貴分はらくだの悲惨な生い立ちを明かして「コイツは可哀相な奴なんだ」と庇うが、屑屋は自分の一人娘がどんな悲惨な目に遭わされたかを明かし、怒りを爆発させる。

らくだという男がいかに乱暴かというエピソードを屑屋が話すのは定石どおりだが、談笑版におけるらくだの非道ぶりはケタ外れ。この悪逆非道ならくだという男への怒りと屑屋への同情が観客の中に充分に湧き上がったところで、二人はらくだの屍骸を菜漬けの樽に詰めて焼き場へ向かうことになり、その途中でこの噺は意外な結末を迎える。屑屋が話した「らくだの非道さ」があってこその、痛快なオチだ。談笑の大ネタの中でも最も衝撃的な一席である。



J亭 うちあげ話 vol/5



夏の2回目。
ゲストは市場師匠。残念ながら所用で打ち上げにはご参加いただけませんでしたが、会場はもともと音楽ホールですのでその歌声で盛り上げていただきました。
打ち上げ会場には談大さん、三四楼さんも参加。男だらけの打ち上げでした。

そういうわけではないですが、打ち上げ会場は新橋駅前ビル前の「九州黒男児」。
名前は少し怖い。なんとなく「サブ」っぽい。もしかするとその手の店か、愛宕山の幇間のように、明日は少し歩きづらいかなどと、いらぬ心配をしつつ、体を堅くして中に入りましたが、そんなことはなく駅前便利な九州料理居酒屋でした。店のキャッチは‘ いつきても 明日への活力みなぎる 元気な新橋親父の大衆酒場 ’うーんこれじゃ女子の触手は動かねぇ?か。

酒に強く、義理人情に重きを置き、女に媚びず、硬派な男に、さらに磨きをかけた最強の男を九州黒男児というとのこと。今でいう肉食系の男みなぎる居酒屋・・・。“いつ知覧鶏のゴロ焼き、馬刺し、もつ鍋、冷や汁などをメニューに揃える店で、アテもまあまあ、おいしくいただきましたが、「佐藤黒」や「伊佐美」のボトルをならべられているものの、販売はショットのみ。ボトルは無名の普通の芋焼酎。ちょっと淋しい。九州黒男児なのに。
黒豚バラ、鶏もも肉、刺身盛り合わせ、玉子焼き…あとは記憶が・・・。馬刺し、からし蓮根、モツ鍋など、九州ならではのメニューがありましたが。・・諸々で控えました。

(佐)






「金明竹」他

今回は6月19日(月)「J亭」の演目、全3話。談笑落語会の夏より3本の演目をご紹介します。

『金明竹』

071901 骨董品を扱う道具屋で店番をする与太郎。雨宿りをしていた通行人に主人の傘を貸してしまい、主人が傘の断りようを教えると、猫を借りに来た御近所の人に傘の断りようで断ってしまう。「生き物には生き物の断りようがあるんだ」とまた叱られると「目利きをお願いしたいのでご主人をお借りしたい」という隣町の和泉屋の遣いに、「ウチにもおじさんが一匹おりましたが、こないだからサカリがついちゃって…」と、猫の断りようで断ってしまう。それを知った主人、慌てて和泉屋へ向かう。

 すると、留守に中橋の加賀屋佐吉からの遣いが来て、先に仲買の弥一に預けた道具七品について述べる…のだがこれが完璧な津軽弁! 「だんなさん、いでら? るさ? へば言付けたのまれてもらえるかね? わわ、なかばすぬわ、かがやさつづがたからきたぬわ…」と、何を言ってるか全く聞き取れない。「…ひょんごのボンズのすきだびょんぶだはんで、ひょうんぐやさだして、ひょんごのボンズのびょんぶさするはんでて、そうふにさべてたて、言付けしてけろ」と喋り終わっても理解できない与太郎、もういっぺん喋らせるが、腹を抱えて爆笑するばかり。

 奥からおかみさんが出てきて「申し訳ございません、この子はちょっとナニで、あたしが代わりにうかがいます」と詫びる。「な、かっちゃな?」「は?」「かっちゃだびょん」「びょん?」と、やはり津軽弁は全く判らない。業を煮やした津軽弁の男、「わのさべーてらことつこえてらか? もいっぺんだけさべるではんでのわ、よーぐつかねばまいねよ。わからねば、ミモするミモする!」と、メモの用意をさせてゆっくり喋る。しかし、いくらゆっくり喋ったところでおかみさんには津軽弁は判らず……。

 古典落語『金明竹』では関西弁の男が来て一方的に喋りまくるが、今どき関西弁が聞き取れないというのはあまりにリアリティに乏しい。そこで、談笑は数ある方言の中でも最も聞き取りの難しい津軽弁に置き換えた。津軽弁の遣いが真摯な態度で丁寧に説明し、それでも理解できないおかみさんのリアクションの描き方に、談笑ならではの抜群のセンスが発揮されている。主人が戻って言付けをおかみさんから聞くくだりも秀逸。談笑十八番中の十八番と言える爆笑落語。

 立川談笑『金明竹』(「J亭 談笑落語会 夏Part 1」より)

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『堀の内』
071902 極端に粗忽な男が主人公。あまりの粗忽を案じた女房が「堀の内のお祖師様にお参りして治してもらいなさい」と提案する。翌朝起きると「どちらのおかみさんですか?」と女房の顔も忘れ、自分の商売も、何をしに行くのかも総て忘れている。味噌汁で顔を洗ったり猫で顔拭いたりしながら素っ裸で出掛けて慌てて戻ってくる始末。改めて「南無妙法蓮華経」と唱えながら堀の内を目指すが、正反対の方向に。とりあえず首っ玉に結わえてきたお弁当を食べようと広げてみると、女房の赤い腰巻にマクラを包んで持って来たことが判明。慌てて再び堀の内を目指す。

 家に着いてしまった粗忽な亭主、「何しに帰ってきたの? どこへ行くんだっけ?」と女房に訊かれても悲しい顔で黙り込むばかり。男の粗忽はもはや「記憶がどんどん消えていく可哀相な人」のレベルに達している。「しょうがないわね」と女房は、墨と筆で亭主の顔に「わたしは堀の内へ行く馬鹿です」と書き記す。泣きながら呆然と顔に字を書かれている亭主。その顔で出掛けると、行きかう人々が皆、「ウワッ!」と驚愕した後で、「そのまま真っ直ぐ」とか「はい、こっちです」とか教えてくれる。中には「お大事にどうぞ」と言ってくれる人も。「みんなが俺のことを知っている…」と怯える粗忽な男。

 何とかお祖師様に辿り着くが、間違えて財布を賽銭箱に放り込んでしまった。一文無しになった男、仕方なく弁当を食べることに。「弁当つかわせて」「ご勝手に」「弁当だから勝手ってシャレだな」と首に結わいてある腰巻をほどき、中から枕がゴロンと…「俺はこれを知っている…デジャヴュ! 女の下着を首に結わいて中に枕に入れてうろつく男…俺は一体、何をする人だ?」 謎に包まれて帰宅した男に女房、「金坊を湯に連れてって」と頼む。「わかったよ」と金坊をおぶって歩き始める。「重いな」「おまえさんアタシ」 改めて金坊をおぶって湯屋へ向かうが、焼き場の煙突を見て先頭と勘違いして裸になったりと、ドタバタは続く…。

 演る度に様々なアドリブを入れ、時には『粗忽の釘』とミックスしたりする談笑十八番の粗忽噺『堀の内』、今日は比較的オーソドックなヴァージョン。湯へ浸かりながら「もう一席あるのか…湯から上がりたくないな…」等と呟いていた。(笑)

立川談笑『堀の内』(「J亭 談笑落語会 夏Part 1」より)

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『たがや』

071903 まず「この噺は『た~がや~!』というのがサゲです。今日は皆さん、このサゲをご一緒に! 練習をしておきましょう」と観客とともに「た~がや~!」を合唱。「いいですね!」(笑)
 両国の川開きの花火で雑踏を極める両国橋。そこへ、供の侍を連れて馬に乗ったまま通ろうとする殿様が。「無粋な侍だねぇ」と文句を言いながらも、無礼討ちにあってはかなわないと道を開ける町人達。と、その反対側からは、大きな道具箱をかついだタガ屋が、やはりここを通って帰ろうとしている。あまりの人ごみに一計を案じ「正蔵師匠の『子別れ』が始まるぞー!」と叫ぶと、人がザーッと引いていく。その隙に人ごみの中を通り抜けようとするタガ屋。

 タガ屋が人にぶつかり道具箱を落っことした拍子に、丸まっていた竹が弾け飛び、間が悪いことに馬上の殿様の鼻を直撃、そのまま笠をハネ上げた。「無礼者! 手討ちだ!」と怒る殿様。「病気の二親に免じてお許しを…」と土下座するも、全く聞く耳を持たない殿様。怒ったタガ屋、「勝手にしやがれこの丸太ン棒!」とケツをまくって啖呵を切る。「病気の二親なんてウソだよ! 俺には親はいません! 殺しゃいいじゃネェか! 二本ざしが怖くてアダルトビデオが観れるか!」

 斬りかかる供の侍の腕にガブリを噛み付き、落とした刀で撲殺したタガ屋。続いてもう一人の侍、これは本物の剣の使い手だが、斬りかかられて思わずしゃがみ込んだタガ屋の意表を突く動きにより、刀が欄干に刺さって動けない隙を下からズブリと刺され、これまた殺されてしまった。大群衆から起こる「たがやコール」。

 棹立ちになった馬から飛び降りた殿様、槍を構えてタガ屋を狙う。一方のタガ屋はザンバラ髪で、血の滴る錆びた刀を右手に持ち、左手には今殺した侍の刀。上空には色鮮やかな花火がドドーンと上がる。タガ屋が殿様の槍の先を切り落とし、刀へ持ち替えようとする殿様の首めがけて刀を横一閃、殿様の首がポーンと宙天高く…「上がった、上がった…(場内一斉に)た~がや~!」

 夏の噺としてよく知られる『たがや』、過去には落語史上類を観ない大虐殺ヴァージョンも披露したこともある談笑だが、今日は「サゲを皆さんご一緒に」という型破りな演出意外には古典を大きく変えることなく、状況説明や場面描写に独特の冴えを見せて談笑ならではの一席に仕上げていた。

立川談笑『たがや(「J亭 談笑落語会 夏Part 1」より)


J亭 うちあげ話 vol/4



三ヶ月ぶりに会場は西新橋GUIN(ぐいん)に。初めて雨ふりでない打ち上げ。
3月の初回以来となる談笑師匠のゲストなしの3席でした。
打ちあげのメインテーマは最新タバコ工場について。
季節で煙草の味を一定に保つための香りブレンダーの匠の技と発酵&カット技術など、タバコの葉の収穫から製品の出荷までを興味深く“勉強”させていただきました。例えば、フィルターはどのタイミングでくっつけるか分かりますか? そもそもタバコの太さって、どうやって決まったんでしょうか? 知れば知るほど“なるほど~”ということばかりでした。
ちなみにフィルターは、煙草の長さが倍のときにフィルターを両サイドから接着し、真ん中で裁断していくそうです。その技術とスピードのハイテク度がなにしろすごいらしいんです。
これは工場を実際に見に行かなくてはなるまいとのことで、7月末に談笑師匠一家とJ亭スタッフによるJT工場見学が決定。


072309今回は人気のレバ刺しが巣品薄でちょっとしか食べられなかったので、沖縄名産「うりずん」のてんぷらの写真をつけました。
やはり、今回も日付を越えてしまいました。すいません。GUINさん。

(佐)






「薄型テレビ算」他

3回目となる今回は「三遊亭白鳥」師匠を迎え、全3話。
さぁ、今回の話は・・・

『薄型テレビ算』

052901 10万円の予算で50インチのフルハイビジョン薄型テレビを買いたいという無茶な男が買い物上手のアニキ分と共に秋葉原へ。一通り廻ってから、秋葉原の外れの小さな個人商店に狙いを定める。50インチのフルハイビジョンは29万8千円だが、アニキは「俺に任せとけ!」と請け合った。



 アニキは大学の学生課勤務と称して「新入生に良い電気屋さんを紹介してくれと頼まれる」立場だと強調し、店頭在庫を抱えると損を背負い込む個人商店の弱みに付け込みつつ、まずは店主に9万9千8百円の27型テレビを値引きさせる。店主が「8万円に値引きした上に、これをサービスでお付けします」とオーブントースターやポットを付けると、「くれなくていいからオーブントースターとポットの仕入れ値を引いてくれ」と要求、「自分で運ぶから」配送料を引き、さらに「今日の全品サービス」分も引いて5万円に値切って購入、5万円払ってその領収書をもらう。

 27型テレビを持って店を出た二人、すぐに戻ってきて「やっぱり42型が買いたい」と言い出す。「14万8千円です」「じゃ、今度はこっちが負けよう。それ15万で買うよ。その代わりこの27型引き取ってくれる?」「ええ、5万円で」「じゃ、さっきの5万円に5万円足して10万、そこにこの27型の5万を足して15万円だよね」「はい」「じゃ、領収書ちょうだい」

 42型を持って帰ろうとする2人を呼び止める店主、「判りましたよ、トリックが! 先祖は壺売ってて騙されたりしましたけど、遂に店主側が勝利する日が来ました!」とアニキの詭弁を打ち負かそうとするが、かえって泥沼にハマる。

 アニキはさらに何段階にも店主を惑わす手続きを用意し、混乱の極みに達した店主に「じゃ、何も取引が無かった最初の時点に戻ろう」と持ちかけ、店主は「お願いします!」と賛成する。ここでまた幾つかの罠を用意したアニキ、手元に30万円が残ることになって、「この30万で50インチのフルハイビジョン薄型テレビちょうだい!」という結末へ…。

 古典落語『壺算』の舞台を現代の電気街に変え、詐欺の仕組みをさらに何段階もヒネって複雑化した、談笑ならではの「頭脳を刺激する」改作。

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三遊亭白鳥『長屋の花見』
 池袋のビックリガードの近くに、金銀亭Q蔵という売れない新作落語家が住む貧乏アパートがあった。Q蔵はもう2年も寄席に出してもらっていない。この長屋に住むのはQ蔵以外は皆、怪しい外国人。隣家に住む婆さんは北朝鮮のスパイらしい。

「もう落語家辞めて田舎へ帰ろうかな」と考えていたQ蔵。そこへ北朝鮮の婆さんが「田舎へ帰るのかい? じゃ、その前にお花見に行こう。玉子焼きとフカヒレの姿煮を用意するから。もちろん酒もあるよ」と誘ってきた。「どこへ?」「キサマが畑と呼んで勝手に雑草を摘んで食ってる、学習院の土手のところだ」 するとアパートの別の住人の陳さんも「Qさん、ワタシも行くヨ! フカヒレ食べるの夢だった!」とやって来る。

052903 工事現場から取ってきたブルーシートを「ペルシャ絨毯」、乳母車を「自家用トラック」と称して花見に出かけたものの、玉子焼きとは蛙の卵と木の皮を固めたモノにカラシを塗りこんで黄色くしたもの(「北朝鮮の主食じゃ」「嘘つけ!」)、フカヒレの姿煮は単なる輪ゴム(「北朝鮮ではこれを食べると寿命が伸びるって」「んなわけねーだろ!」)と散々な目に遭う。一応マトモに思えた「婆さんの手作りの酒」も、その正体は…。

 今回のJ亭ゲストは奇想天外な新作落語で爆笑させる三遊亭白鳥。2001年の真打昇進以来グングン人気上昇、SWA(創作話芸アソシエーション)の一員としても知られる白鳥の今回の演目は、古典落語『長屋の花見』の現代版とも言うべきブラックな新作落語。強烈なギャグ満載で、ストーリーよりシチュエーションの面白さで引っ張るところは古典の『長屋の花見』に近いが、中身はまるで異なる。特に白鳥ならではの強引なオチには誰もがア然とするはず。

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『愛宕山』

052904 一八と繁蔵という二人の幇間を引き連れて物見遊山の旅に出た若旦那、今日は愛宕山を登ろうと言い出した。「てっぺんまで競争だぞ!」と言う若旦那のハナをあかしてやろうとやる気満々の一八だったが、すぐに疲労困憊。どうにかこうにか山の中腹まで辿り着き、「まだ途中だ」と言われてゲンナリするものの、京都を一望する眺めの良さが疲れを忘れさせる。

 若旦那は土器(かわらけ)を投げて的に通す「かわらけ投げ」に興じ始め、「一度これがやってみたかった」と土器の代わりに小判を的に向かって放り始めた。投げた二十両は総て遥か崖の下に落ちたまま。「いい勉強になった、さあ行こう」と若旦那が出発しようとしたとき、一八が「あの小判、拾ったら私がもらえますか?」と訊ねると「拾いたきゃ拾え」との返事。そこで一八、二十両欲しさに崖の下まで大きな傘を頼りに飛び降りることに。

 何度も逡巡しながら、最後は繁蔵に突き落とされる形で飛び降りた一八、無事に崖の下で小判を全部手に入れるが、上から若旦那の「バカー! 欲張りー! 周りは断崖絶壁で上がれないだろ! 狼に食われて死ね!」と非情な声が。「長い縄を垂らしてくださーい!」「ヤだよー!」 若旦那は涙を流して笑ってる。

 仕方なく一八は絹物の着物を裂いて長い縄を綯い、竹の先に引っ掛けて、竹のしなりを利用して飛び上がって崖の上に戻ろうとするが…。

 通常の『愛宕山』は「金はどうした?」「あ! 忘れてきた!」で終わるが、談笑版は一味違う。談笑はこれまで様々な異なるオチを試してきたが、今回は比較的シンプルで判りやすいものだった。次に演るときはまた変わっているかも。(笑)


J亭 うちあげ話 vol/3



打ち上げは今回も雨。3回とも雨。

3月から始まった談笑落語会。春バージョンは今回で終了。来月から夏。
会場は新橋駅前の旧キムラヤ脇の繁華街を入った「和酒場(わしゅば) 庫裏(くり)」。というお店。今回もウェブで検索。

全国の銘酒が勢ぞろいの店で、ビールも全国の地ビールが盛りだくさんですが、アサヒとかキリンはありません。
要は日本酒を飲ませる店なんです。
肴もうまいし、酒もうまい、値段もそこそこ。しかしながら、12人という大人数で一緒に座ることは無理な店です。2~4人がベストですね。お店の方には席作りでお手数おかけしました。結論をいえば打ち上げの店としてはシクジリマシタ。
そのせいか、カウンターの男性の「喜んで!」という感じではない様子に落ち込みました。

打ち上げには、白鳥師匠も参加。利き酒セット5種類1500円にいたく反応と感動。
自分のブログに高級な店で普段いけないようなことが書いてありましたが、それほどではありません。
 でも、確かに、御用達の養老系とは違います。。。
テーブルが3箇所でそれぞれに話が別れ、談笑師匠にもテーブルを回る気遣いをさせてしまい恐縮してます。


052905楽しくは過ごせましたが、未消化という感じ。まあ、そういう店の時もありということで、料理の写真1点載せさせていただきます。
くれぐれも大人数で行く店ではありません。

(佐)





イラサリマケー(居酒屋・改)他

0424014月24日(金)19時から、第2回「J亭談笑落語会」が開催されました。

今回は、立川龍志さんをゲストに迎え、4つの演目が 語られました。その解説を広瀬和生さんにいただきました。





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『イラサリマケー(居酒屋・改)』
 新宿西口。一人で気軽に飲めそうな店を見つけて入った男を出迎えたのは「イラサリマケー!」と叫ぶ異国人の店員さん。他に客は一人も居ない。「生をもらおうか」「ダイナ マイト、チュウナマイトあるよ」「…大ナマと中ナマね。グラスでちょっと飲みたいんだけど」「コナマイキ? わかった。このお客さんコナマイキー!」 持ってくるときは「オマタケ、デマシタ!」、熱燗大徳利を頼むと「オオドクイリ!」と、微妙にズレた言葉遣いが気になる。店員は皆、同じ国から来た異国人ばかりのようだ。「みんなどこから来たの?」「ビルマだよ」「あ、ビルマね。…ああ、違うよ、今はそれミャンマーって言うんだよ」「…ビルマだよ」「いや、確かにあなた達にとってはビルマかもしれないけど、日本も外国でジャパンって言われるのと同じで、日本ではビルマはミャンマーって言うことになってるの」 すると店員、泣きベソをかきながら「ビルマだよ!」と頑なに繰り返す。奥の店員達も次々に「ビルマだよ!」「ビルマだよ!」「ビルマだよ!」と興奮して騒ぎ出す。「わかったビルマでいいよ」と譲ると、「いい人だよミズシマー!」と店員はニッコリ。

 「今日のオスメス、エロエロあるよ」と言われて「何ができるの?」と訊くと、「ネコミに、イマダメ、ユビクライ、テサバキ、チンコナメアゲ、オメコナメオロシ、イカナイトシロートタイカイ」「…え?」「だから、ネコミに、イマダメ、ユビクライ、テサバキ、チンコナメアゲ、オメコナメオロシ、イカナイトシロートタイカイ」「色々言いたいけど最後の『行かないと、素人大会』で全部吹っ飛んじゃうんだよなぁ…」 万事がこの調子で疲れた心が癒されない客、帰ろうとすると勘定書きがまたとんでもなくて……。

 『ずっこけ』の前半部を三代目三遊亭金馬が独立させた『居酒屋』をベースにした改作…というには全く原形を留めない爆笑編。『居酒屋・改』というよりファンの間では『イラサリマケー』として浸透している。

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042402『河内山宗俊』

 十八万六千石の大名松平出雲守の江戸屋敷。昼間から酔っ払っている出雲守の前には、囚われの美女お波。黒門町の質屋上州屋彦右衛門の一人娘で、行儀見習いで屋敷に上がったところ、あまりの美しさに横恋慕した出雲守は権柄づくで妾にしようと座敷牢に囲い込んだ。だが、頑として言うことを聞かないお波。「かくなるうえは、そちの命、申し受けるぞ!」

 そこへ到着した一品親王宮家使僧道海、その正体は娘お波を救う仕事を五百両で上州屋から請け負った河内山宗俊。「上州屋は親王様の良き碁敵。その上州屋の娘に出雲守殿が側女になれとのお戯れ、ならねば手打ちとは理不尽の至り。親王様にも御気色悪しく…」と江戸家老小林大膳に告げると小林大膳慌てふためき「命に代えても殿をお諌め申します」と出雲守の許へ。親王の機嫌を損じて大事に至れば家は断絶、身は切腹。それだけは避けねばなるまいと出雲守、大膳に「よしなに計らえ!」と言い残し、奥へ下がる。

 お波を連れて帰ろうとする宗俊。去っていくお波を未練たっぷりに覗き見る出雲守…と、「どこかで見た坊主…あっ! あれこそは御数寄屋坊主の河内山! 大膳、取り逃がすな!」「ハッ!」 小林大膳、槍を取って河内山の鼻先に突きつけ「御数寄屋坊主の河内山、動くなっ!」 だが河内山は動じない。「御数寄屋坊主の河内山宗俊ならどうしようってんデェ! 吹けば飛ぶよな微禄ながら河内山は直参、大名風情がこのクビ飛ばそうもんなら、十八万六千石もフッ飛ぶぜ!」 どうしたものかと思案に暮れる小林大膳……。

 歌舞伎、講談、映画、小説、TVドラマ等で有名な文化文政年間のダーティー・ヒーロー河内山宗俊。これは談笑が独自に創作した噺で、師匠立川談志の十八番『慶安太平記』『小猿七之助』『白井権八』等に通じる味わいを持つ、談笑言うところの「ハードボイルド落語」。現在、談笑の他に河内山宗俊の落語版を演っているのは五街道雲助だけだという。

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立川龍志『短命』

立川龍志

立川龍志(たてかわりゅうし) 1948年東京向島生まれ。1970年4月 立川談志に入門 前座名「金志」 、1976年7月 二つ目昇進、「金魚家錦魚」、 1987年3月 真打昇進、「龍志」 襲名。 国立花形若手演芸会にて新人賞 銀賞を受賞。

 伊勢屋の婿がまた死んだ、これで三人目だ、一体なぜあそこの婿はみんな早死になのかとご隠居に訊きに来た八五郎。ご隠居は、「あそこのお嬢さんの器量が良すぎるほど良くて、店のことは番頭任せで暇があり、いつも二人っきり…そりゃ亭主は短命だな」と、露骨な表現を避けて遠まわしに教えようとするが、八五郎はなかなか理解しない。「ご飯食べるのだって二人っきりだろ? ご飯をよそってアナタと差し出すお嬢さん。手と手が触れる、顔を見ればいい女、あたりを見ると誰もいない…オマエ、ここで飯を食うか!?」「手と手が…あっ! ひょっとして、触れるのは手だけじゃない!?」とようやく理解した八五郎、家へ帰って早速女房にご飯をよそってもらい……。

 今回のゲストは立川流一門の兄弟子、立川龍志。一九四八年生まれで一九七一年に談志に入門、一九八七年に真打昇進。軽い滑稽噺を飄々と演るのがやけに可笑しく、また一方で、談志十八番の『らくだ』『五貫裁き』等の大ネタも得意とする。談志が立川流を創設する以前の弟子たちは上手さと個性を兼ね備えた実力派揃いで、龍志もその一人。立川流創設以後の弟子には無い「寄席芸人」的な雰囲気を漂わせる、愛すべき噺家だ。『短命』は師匠談志の十八番の一つだが、龍志はその亜流に終わらず、自分の噺として独特の楽しさを味わわせてくれる。




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042403『ジーンズ屋ようこたん』

 ジーンズ業界の最先端、岡山県倉敷市児島。ジーンズにダメージを付ける工場の職人・久三が寝込んでると聞いて社長が理由を尋ねると、恋わずらいだという。相手は「近藤ようこたん」というトップアイドル。社長は、忘年会にようこたんを呼ぼうと事務所に電話をかけて交渉するが、一億円のギャラを要求される。こちらから東京に出向いて会って話をするだけでも七百万円。久三は「一目会うだけで充分」と、生活費を極端に切り詰めて三年で七百万円貯める。

 「ただ金を持って行ってもジーンズ工場の職人じゃ会えない。オマエは六本木ヒルズのIT企業の社長ってことで、広報誌用のインタビューってことにする。手袋外すんじゃないぞ。インディゴブルーに染まった手はジーンズ工場でダメージつけてる職人の手だ」

 社長の機転でマネージャーに席を外させ、二人っきりでゆうこりんに会った久三だが、何も言えないまま時間切れ。「…泣いてるんですか、社長さん?」と訊かれた久三が真相を明かす。ようこたんはそれを聞いて「私は、あなたが一生懸命貯めた七百万円をもらう価値のあるような人間じゃありません。私はお金儲けの道具なんです。誰も私の中身を見てくれないのは哀しいことですね」と、本当の自分を語りだす。それを聞いた久三、「テレビのあなたは真新しい、ダメージの無いジーンズ。素顔のあなたはダメージがある、だからこそ素敵な、価値のある人だと思います。二十年後、三十年後でも、引退したら、俺の嫁になってください!」「こんな私でも、もらってくれる人いるの?」「ここにいます!」「……来年三月、私の契約が切れます。そしたら私をお嫁さんにしてください」 さあその日から久三は「来年の三月、来年の三月」と……。

 古典落語の名作『紺屋高尾』の現代版。舞台を現代社会に置き換えることで古典落語が本来持っていたはずのリアルな感覚を取り戻す、談笑ならではの「古典改作」の代表的な一席だ。

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J亭 うちあげ話 vol/2


中入り後、談笑師匠が『ジーンズ屋ようこたん』前説で「龍志師匠は、もう打ち上げ会場に向かいました」と。それはネタでなく本当の話。

「談笑クン。悪いね。先に出てるよおー。へへ」

と舞台袖での言葉を残し、早々に会場を出発。

 道すがら、「お世辞でなく快い響きのある会場で、気持ちよく話せた、楽しかったよ」といってくれたことが嬉しい。
 まずはカウンターで軽くビール「酒もたばこも、血の巡りはそのリズムを覚えていて、途中でやめるのは体によくないと医者が言っている。だからやっている人は両方とも毎日やったほうがいい」という納得したい龍志理論を言い聞かされつつ、落語の中の登場人物のような、粋な江戸風情とよもやま噺で、指しつ指されつ、贅沢にも酒付き龍志独演会開始。よくよく顔をみれば、ケーキ屋ケンちゃんシリーズの宮脇健が団塊になって痩せると、こんな感じかという尖がり口で愛嬌のあるお顔。
 ビールでリズムよく飲んで、かなりぺースができあがったころに、談笑師匠ご一行到着。

それを機会に、焼酎に移行。『明るい農村』の注文が相次ぐと、「え?何ぃ?『明るい農村』? 農村が明るいわきゃあ、ありゃあしねえ!へん!」と龍志師匠が語気を荒げたので、すわ爆発か。それを制すべく誰かの一言「うまいですよ」。間髪要れず龍志師匠の「そうなの?」と軽妙に翻った声。気づけばいつの間にか‘明るいわきゃないもの’を「うまいねえ」と快飲中。

 今回の店は新橋4丁目にある「恭恭(きょんきょん)」。コネがあったわけでもなく、ネットで調べた始めてのところ。10人以上の個室がある・遅い時間まで営業・ヘルシー という3条件検索で予約した京都おばんざいの店。  ホームページ掲載の、是非食べて見たかったおすすめの生シャコ刺、塩モツ鍋、明宝ハムのサラダは食べることなく、おばんざいと「明るい農村」でしこたま泥酔。店の記憶は薄いが、グラスで焼酎を山のように追加したこともあり、割高になってしまったのが残念。(佐)

花見の仇討』『天災』『文七元結』

032703

談笑さんの語りを見つめます

記念すべき第1回「J亭談笑落語会」が、3月27日(金)19時から虎ノ門にあるJ亭(JTアートホール アフィニス)で開催されました。

当日の演目の中から3本について、著書『この落語家を聴け!』でおなじみの広瀬和生さんに解説をいただきました。



『花見の仇討』

見物人をアッと言わせる花見の趣向を…と企む八公、清さん、亀、熊の江戸っ子四人組。八公の提案で「巡礼兄弟の仇討」の茶番をやろうということになる。亀と熊が巡礼兄弟、仇が八公で、仲裁に入る六部(正確には六十六部/全国六十六箇所を行脚する巡礼の旅を行なう修行僧)を清さんが演じることに。

しかし亀はどうしても「謎の東洋人」を演りたいと主張、「じゃいいよオマエは謎の東洋人で」と譲歩する八公。花見当日、八公は煙草を吸いながら目立つ桜の根元で他の三人を待つ。六部の格好をした清さん、花見に向かう途中で運悪く神田の叔父さんに「何だお前その格好は!」と見咎められ、家に連れて行かれてしまう。巡礼兄弟役の片割れ熊は相棒の亀を見て驚愕。「巡礼のカッコして来いって言っただろ! 何だそのチャイナ服と辮髪は!」「謎の東洋人でいいって…」 ともあれこの二人、途中で侍に無礼を働くこともなく真っ直ぐ桜の根元へ来て八公と合流。続いて六部もやって来るのが見えた。「この段階で六部が登場するのってこの落語じゃ画期的だからな!」(笑)

 三人が仇討ちの茶番を始めると、アッという間に見物人の山が出来て、六部が中に入ってこられない。そうこうするうちに通りがかった侍が「何? 仇討ち?」と助太刀を買って出る。人垣がさっと分かれて中に走りこむ侍。六部も追いかけるが侍のほうが早い。「えっ!? 助太刀!? 困るよ本物に来られちゃ!」 仕方なく三人は「花見の趣向なんです」と打ち明ける。すると侍は「何? 町人が武士になりすましたと申すか!」と激怒、「無礼討ちにしてくれる!」と大変な事態に…。

 J亭第一回を記念して「煙草を吸う仕草の入る噺を」と選んだ(笑)談笑版『花見の仇討』は、通常とは大きく異なる展開と意外な結末で落語ファンをアッと言わせた。今回がネタ下ろし。


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032702

熱を帯びてくる談笑さん

『天災』

大家のところに「離縁状二本書いてくれ!」とやって来た八五郎。この男が実の母親に暴力を振るう乱暴者なのを憂いた大家は知り合いの心学者紅羅坊名丸先生を紹介し、説教してもらうことに。大家からの手紙を携え「いい気持にさせるってのはテメェか!」と紅羅坊を訪ねてきた八五郎があまり短気で乱暴なのに驚いた紅羅坊は「喧嘩は損をしますぞ。柳のような心持になれませんか?」と堪忍を説くが、八五郎は「本気で人にモノを教えようと思って喋ってるのか!? テメェは人から教わったことをただ言ってるだけだろ!」と真正面から反論。グッと詰まった紅羅坊は様々な喩え話でムキになって八五郎を言い負かそうとし、遂に「あなたは広い原中にいる。雨が降ってきてズブ濡れだ。居酒屋も一軒も無い、雨宿りをする木も一本も無い。どこまで逃げても雨。キサマはズブ濡れの負け犬だぁっっ! さあ誰を殴れば気が済む?」と勝ち誇る。その憎々しさに「オメェだ!」と紅羅坊をボコボコにする八五郎。

「何でそんな話を俺にするんだ? 殴られて腹が立つだろ?」と訊くと、紅羅坊は「これが心学者のさだめ、あなた一人救えないようでは誰も救えない。人を救うためなら命も要りません!」と熱弁を振るう。その勢いに押された八五郎、「天から降った雨だと思って諦める、コレ即ち天災」という考え方を受け入れる。「今日は俺の完敗だ。俺も天災ってのやるよ。布教活動に務める」と洗脳された八五郎は長屋に帰り、早速熊公に天災を教えようとするが、混乱に混乱を重ねて「俺は負け犬だぁっ!」と号泣した挙句、熊を殴って「天が殴ったと思え!」と…。

談笑版『天災』は毎回アドリブで変わる「八五郎と紅羅坊の闘い」がスリリング。憎々しいわりに熱血漢な紅羅坊、乱暴者なのに紅羅坊よりむしろ論理的な八五郎と、他の演者の『天災』にはない特異なキャラ設定が爆笑を呼ぶ痛快な一席だ。




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032701

『文七元結』

毎日博打に明け暮れ仕事をしない左官の長兵衛、今日もスラれて無一文になってハッピ一枚で戻ってくると、十七になる一人娘のお久が帰ってこないと女房が泣いている。そこへ吉原の大店、佐野槌から遣いが来て「娘さんはうちに来ている」という。着物を総て質に入れている長兵衛、仕方ないので女房の真っ赤な女物の襦袢を着て吉原の佐野槌へ。女将に会うと、横にはお久が。「この子は『私を買ってくれ』って来たんだよ」と女将。借金だらけで女房に暴力を振るう長兵衛が真っ当に働いてやり直すために自分を買ってくれと言った娘の心根にほだされた女将は、借金を返すのに必要な五十両を長兵衛に貸し与える。その条件は佐野槌でお久を預かること。

「来年の大晦日までに五十両返せばこの子は女郎にはしない。でも返しに来なかったら私は鬼になるよ。娘が自分で自分を買ってくれと言いに来たのはうちじゃこの子で二人目。私の…いや、一人目のおとっつぁんって人は金を返しには来なかった。長兵衛さん、オマエは来てくれるね?」

店を出た長兵衛が「お久、オメェは本当の江戸っ子だ」と呟きながら吾妻橋に差し掛かると、川へ身を投げようとする若い男がいる。力づくで引き止めてワケを訊くと、「店の遣いで取りに行った五十両を盗られてしまって…身寄りの無い自分を育ててくれた恩人であるご主人に合わせる顔が無い、もう死ぬしかないんです」と言う。「オマエが死んでも五十両は出てこないんだから死ぬんじゃない」と何度説得しても死ぬと言い張る男。「放っといてください! いいじゃないですか私が死んだって。良心の呵責ってヤツですか? 江戸っ子は自分より人のことを先に考えるなんて嘘だ。あなただって、通りかかって運が悪いと思ってるんでしょ? 江戸っ子なんて居ないんだ!」という男の言葉にカッと来た長兵衛は「俺の娘は江戸っ子だっ!」と叫び、大事な五十両を投げつけてしまう…。

 三遊亭圓朝作の人情噺としてあまりにも有名な『文七元結』を、立川談笑は全くオリジナルの解釈で徹底的に作り変えた。途中に何重にも落語ファンの度肝を抜く仕掛けを施しながら感動のフィナーレへ持っていく演出はまさに革命的。「江戸っ子の心意気を描く」噺でありながら現代人の感覚でも納得できる感動の人情噺として生まれ変わった談笑版『文七元結』は、従来の落語に風穴を開ける談笑の真骨頂とも言える名演だ。


J亭 うちあげ話 vol/1


談笑落語会 四季 春 初日。

打ち上げ会場は虎ノ門に近い西新橋2丁目交差点近くにある「ぐいん(guin)」という店。名店ぞろいの多い新橋でここは初めて。看板を見て、経験則としての「よさげな」予感。

談笑師匠のお知り合いの、編集のお仕事をされている方の旦那様のお店(まわりくどい)というご縁で打ち上げ会場に。 店内はコンパクト。言葉を変えればタイト、まあ、広くないというところでしょうか。

カウンター席と、向き合いテーブルがコックピットのごとく収まるフシギな空間。
しかしながら、肌理の細かいサービスと料理で店も内容もギュット凝縮された、うまく収まった店。 期待は小布施ワイナリーから出している日本酒。初めてでした。日本酒とワインをミックスしたような甘い香りと味が女性受けしそう。酒豪系女性の方には例外もいるとのことですが。

料理は出し巻き卵や熱々のごぼうのてんぷら、そして談笑師匠が盛んに口に入れていたレバ刺し(極めて小さく丁寧に薄く2センチ四方くらいにスライスし、生姜をナノサイズにのせた、手のかかったもの)や、超新鮮なお刺身。まさに「ぐいん」といきたくなるような料理ばかり。その他「野菜の黒糖ピクルス」とか「豚トロの朴葉焼き」、「生海苔あんかけチャーハン」などタイトルを聞いただけでもそそられるものばかり。このタイトルにいきつくこと自体、レベルの高さが感じられます。 弁護士をめざしていた談笑師匠が学生時代の司法研究室の仲間と飲むと「先生!先生、師匠!先生」と、どっちが偉いんだみたいな呼び合いなるという話など聞きつつ、厳しい反省会の後ということもあり、いろんなコトで盛り上がり、気がついたら日付も変わっていました。最後にはリーズナブルな料金にも安堵しつつ散会。(佐)

新橋 「ぐいん」にて

談笑プロフィル

立川 談笑(たてかわ だんしょう)
東京都江東区出身。1992年、7代目立川談志に入門。1996年7月、二つ目昇進。2003年、6代目立川談笑を襲名。2005年には、真打昇進と史上まれにみるスピード出世を遂げ、50人以上いる弟子の中でとりわけ若くして「立川流四天王」と称される実力と人気を兼ね備えた逸材といわれる。
フジテレビ『とくダネ!』リポーターとしても活躍。

広瀬プロフィル

広瀬 和生(ひろせ かずお)
1960年生まれ、ハードロック/ヘヴィメタル月刊音楽誌「BURRN!」編集長。東京大学工学部都市工学科卒業後、レコード会社勤務を経て、1987年「BURRN!」(シンコーミュージック)編集部入社。1993年から同誌編集長を務める。本業とは全く関係なく、30年来の筋金入りの落語ファン。ここ数年は年間350回以上の落語会にほぼ毎日通いつめ、1500席以上の高座に生で接している。
著書に『この落語家を聴け!』(アスペクト刊)などがある。